アダルトゲーム
アダルトゲーム(Adult Game)
- 性的表現がある成人向けのコンピュータゲーム。本稿で詳述。
- ボードゲームやカードゲームなど、テーブルゲームの中で、交渉や駆け引きなどが遊ぶ際に必要とされ、主に大人向けにデザインされたゲーム。ただし、現在では1.の意味での使われ方が主流となっているため、この意味では使われなくなっている。
加筆依頼:この記事は加筆依頼に出されています。
要望内容:アダルトゲームのダウンロード販売の遍歴について |
テンプレート:seetalk アダルトゲームとは性的表現があるために成人向けに販売されているコンピューターゲームソフトのことを指す。通常、18歳未満の者の購入を禁じている(まれに18歳以上推奨、15歳または16歳未満禁止のものもある)。特に断り書きがない限り、日本での事例について述べる。
なお、暴力的・反社会的な表現などがあるために一定の社会規範性をユーザーに求めるゲームについては成人向けゲームの項を参照。また、過度の暴力表現などを含む成人向けゲームについては、残酷ゲームを参照。
目次
呼称
年齢制限に着目して「18禁ゲーム」、あるいは性的表現があることに着目して「H(エッチ)ゲーム」、もっと俗に「エロゲー」とも呼ばれる。近年では「エロゲ」と呼ばれることが多いが、「エロゲー」・「エロゲ」という表現には自虐的ながらも侮蔑的な響きがあるため、この呼び方を好まない人もいる。
英語では「Adult computer and video games」(成人向けのコンピューターゲーム)の中の「Nudity in games」(ヌード画像が含まれるゲーム)というが、このうち「日本の漫画やアニメの絵を基調にしたCGでヌードが表現される成人向けコンピューターゲーム」を特に「Eroge」もしくは「H-game(Hentai-gameの略)」と呼んでおり、「Manga(マンガ)」・「Anime(アニメ)」・「Seiyuu(声優)」・「Otaku(おたく・オタク)」と並んで日本語読みが英語化されたサブカルチャー用語である。
一方、アダルトゲームのうち男性プレイヤー向けに女性キャラクターが登場するものは、アニメやマンガなどのそれに習い「美少女ゲーム」という呼び方もされる。ただし「美少女ゲーム」という場合には性的表現のないギャルゲーを含んで呼ばれる事もある。
男性プレイヤー向けに少年愛を描いた「ショタゲー」や、女性プレイヤー向けに男性キャラクターの同性愛を描いた「ボーイズラブゲーム」、女性視点で描かれる「18禁乙女ゲーム」もあるので、「アダルトゲーム=美少女ゲーム」の図式は当てはまらない。
概要
今日のアダルトゲームのほとんどは、Microsoft Windowsをプラットフォームとするパーソナルコンピュータ(以下パソコン)向けソフトとしてリリースされている。
グラフィックは、マンガ・アニメ調の平面的な2DCGによる静止画像が主流で、海外に多い実写映像や3DCGをもとにした作品は少ない。これは、32ビットゲーム機戦争以降3DCGの動画による表現が増加した日本のコンピューターゲームでも独特な存在となっている。このことが、マンガ・アニメのサブカルチャーと結びつき、オタク文化の一翼を形成するに至った。
ゲームジャンルは、育成シミュレーションゲーム・シミュレーションRPG・アクションゲーム・RPGもあるが、アドベンチャーゲーム・ビジュアルノベルが圧倒的に多い。一方、シューティングゲーム等は珍しく、WindowsOSが普及してからの市販ソフトに限定すると、『とびでばいん』(アボガドパワーズ 2001)、『ソニックプリンセス』シリーズ(PARSLEY 2001~)、『あおぞらマジカ!!』(Studio e.go! 2006)がある程度である。
男性を購入対象とするタイトルが中心だが、女性向けアダルトゲームも存在する。ただし、女性向けゲームは全年齢向けゲーム(主に家庭用)が主流のため、『王子さまLV1』(Alice Blue 2001)等のようにソフト本体は全年齢対象で作成し、18禁要素を追加する拡張ディスクを発売する方式もある(女性向けについては、ボーイズラブも参照)。男性向け作品を作るアダルトソフトメーカーが、女性向けのゲームを積極的に開発、販売してきたこと等が、アダルトゲームの市場規模拡大に影響している。
製作については、主なプラットホームがPC上の一般的なオペレーティングシステムであるため、家庭用ゲームと違い高価なライセンス権や開発専用機器(例:ゲーム開発専用ワークステーション)等を購入する必要が無く、ゲーム本体は一般的なソフトウェア開発ツールが使用可能であり、画像や音声も一般的なツールを使って作成することが可能なため、資金が少ない小規模会社でも参入しやすい。
販売に当たっては、メーカー間の自主規制や各都道府県の青少年保護育成条例等により、18歳未満の人物が購入することのないよう販売店における陳列の分離や販売時の年齢確認を徹底するよう通達されている(実際には従っていない販売店も少なくない。書店における成人向け冊子と同様の問題を抱えている)。
※性的描写の規制そのものの問題に関しては、日本における性的描写を含むゲームの規制に関する議論を参照のこと。
もっとも、2006年4月より経済産業省の指導でCESA、ソフ倫、日本アミューズメントマシン工業協会、映倫管理委員会、日本ビデオ倫理協会と映像コンテンツ倫理連絡会議(仮称)において審査基準・表示の一本化を協議することが決定しているため、大幅に変わる可能性はある。
歴史と作品の傾向
創生期(1980年代)
1982年に販売された光栄マイコンシステム(現コーエー(KOEI))が8ビットパソコン用ソフトとして発売した『ナイトライフ』が「性」を取り扱った最初のソフトウェアとなる。翌1983年には10本以上のアダルトゲームが販売された。
初期には、前述の光栄マイコンシステム、エニックス(現スクウェア・エニックス)など後にコンシューマーゲームで名をはせるソフトメーカーや、PSK(パソコンショップ高知)、九十九電機のような現在のパソコンショップも、アダルトゲームの製作・販売を行っていた。また、1980年代半ばからアダルトゲームの制作販売を専門とするジャスト、エルフ、チャンピオンソフト、キララ等のソフトメーカーが現れ始めた。1980年代はPC-9801シリーズを初めとする国産パソコンによってパソコン市場が拡大しており、拡大する市場を狙ってアダルトゲームが数多く製作された。
現在主流のアドベンチャー形式のアダルトゲームは、『天使たちの午後』(1985年 JAST )に始まる。当時はまだ話の途中でゲームオーバーになり、話の流れはだれしも一様であった。
その後、一般のゲームでも当たり前にビジュアルシーンが導入されるようになり、アダルトゲームも絵だけではなくゲーム性を重視する作品が次第に増えてきた。1980年代後半には、RPGでは『カオスエンジェルズ』(1988年 アスキー)、アドベンチャーでは『殺しのドレス』(1987年 フェアリーテール)が登場する。
ゲームセンターにおいて、業務用ゲーム『スーパーリアル麻雀PII』(1987年 セタ )がヒットし、「脱衣もの」というジャンルが確立されたのもこの頃である。
1990年代前半
非アダルトの美少女ゲーム『プリンセスメーカー』(1991年 ガイナックス)と、『卒業 ~Graduation~』(1992年 ジャパンホームビデオ)が登場した事で、パソコンゲームに育成シミュレーションゲームという新たなジャンルが加わり、「美少女が題材でも面白いゲームが作れる」・「CGでもマンガ・アニメに劣らない魅力的な美少女が表現できる」ことが提示された。この事がアダルトゲームにも大きな進歩をもたらした。
この流れの中で頭角を現したのがエルフで、1992年12月にリリースされた『同級生』は10万本を越えるベストセラーとなった。この作品は当初シミュレーションゲームの要素を取り入れたナンパゲームとして企画されていたが、各ヒロインに個性とHシーンに至るまでの恋愛ドラマを盛り込んだ結果、それまでのアダルトゲームのイメージを覆す恋愛ゲームとして評価された。
そして『同級生』のドラマ性を参考にして開発された『ときめきメモリアル ~forever with you~』(1994年 コナミ)がコンシューマー市場にて大ヒットした事により、コンピューターゲームにおいて美少女ゲームが次第に市場に認知され、その中でアダルトなシーンまで踏み込むものとしてアダルトゲームが知られるようになる。
一方で、アダルトゲーム制作企業の社長がわいせつ図画販売目的所持で逮捕される事件が発生した(沙織事件)。こうしたことから、業界による自主規制団体が立ち上げられることとなり、コンピュータソフトウェア倫理機構が設立された(後述のアダルトゲーム#性表現への規制も参照)。
1990年代中頃
この頃のアダルトゲームは「どうゲームとして面白くするか」が試行錯誤された時期であった。その中で、プレイヤーの選択によって異なる物語と結末が訪れるマルチシナリオ・マルチエンディング形式のゲーム『弟切草』(1992年 チュンソフト )がスーパーファミコンで発売されヒットする。この作品のシステムはアダルトゲームにも大きな影響を及ぼした。
アダルトゲームで初のマルチシナリオ作品は『河原崎家の一族』(1993年 シルキーズ)である。その後、菅野ひろゆきにより、『DESIRE ~背徳の螺旋~』(1994年 シーズウェア )・『EVE burst error』(1995年 シーズウェア)、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(1996年 エルフ)と発展してゆく。
また、マルチシナリオ以外ではファンタジーアドベンチャーとウォーシミュレーションの融合『ドラゴンナイト4』(1994年 エルフ)と、本格的ダンジョンRPGの『闘神都市Ⅱ』(1994年 アリスソフト)がリリースされ、以降1995年にエルフが迷宮脱出推理アドベンチャーの『遺作』、アリスソフトがマルチシナリオの『夢幻泡影』をリリース、1996年にはエルフが前述の『YU-NO』を、アリスソフトが地域制圧型シミュレーション『鬼畜王ランス』をリリースと、エルフとアリスソフトの2社を中心とした開発競争が繰り広げられ、「東のエルフ、西のアリス」と呼ばれるようになった。
しかし、この中で発展を遂げてゆくのは、より恋愛物語色を強めた『同級生』の後継作『同級生2』(1994年)で、以降のアダルトゲームはセックス描写を含む恋愛物語要素やシナリオを重視した、選択肢とイラストが付いた読み物とでも言うようなトレンドに傾いてゆく。
1990年代後半
技術面では1995年のWindows95シリーズのヒットやパソコンの低価格化によるパソコンユーザーの増加と、技術開発や記録媒体の大容量化による画像、音楽表現能力の著しい向上が見られるようになる。市場面では、テレビアニメ『美少女戦士セーラームーン』・『新世紀エヴァンゲリオン』の大ヒットと、いわゆる「オタク」と呼ばれる成人男性向けの、漫画・アニメ市場が拡大した時期でもある。アダルトゲームがオタク文化と呼ばれる文化の一翼を担い、純粋に性的興奮を目的としたアダルトビデオ等とは異なる道を進むようになるにはこの頃である。
この流れを作った初めの作品は『Pia♥キャロットへようこそ!!』(1996年 カクテルソフト)である。ゲームシステムは『ときめきメモリアル』の簡易・縮小版とでもいうものであったが、徹底して美しさ・エロさより可愛らしさを追及したキャラクター作りと等身大のラブストーリーが話題を呼び、翌1997年に発売された続編『Pia♥キャロットへようこそ!!2』で10万本以上の大ヒット作となった。この作品の人気は後に秋葉原から始まったオタク文化の代名詞的存在、『メイド喫茶・コスプレ喫茶』のアイディア母体にもなっている。
ゲーム性をばっさりと切り捨て、ビジュアルとストーリーに特化した「ビジュアルノベル」と呼ばれる形式の作品が出るのもこの頃である。Leafによる 『雫』・『痕』(ともに1996年)は、初め『弟切草』の流れを汲み、狂気や怪奇をテーマとする攻略難易度も高い重い作品であったが、翌1997年に出た『To Heart』 が日常を舞台とするラブコメにひとつまみのファンタジーと涙を入れた爽やかな作風で大ヒットを記録し、後の作品のキャラクター設定法則・パターンに影響を与えた。
Leafとは別の方向でストーリー重視を打ち出して成功したのが『ONE~輝く季節へ~』(1998年 Tactics )で、ラブストーリーに感動できる要素と泣ける要素を盛り込み、それを音楽によって高める演出の秀逸さで人気を集めた。この方向はのちに製作スタッフの一部がビジュアルアーツに移り旗揚げした新ブランドKeyの第一作『Kanon』(1999年)、第二作『AIR』(2000年)が立て続けに大ヒットとなり、俗に「泣きゲー」と呼ばれる「純愛系」のジャンルが形成されていく。
『Pia♥キャロットへようこそ!!』・『To Heart』・『Kanon』の三作品の大ヒットは、コミックマーケットを中心とした同人・コスプレイヤー達の興味を引き、ここから女性ユーザーを獲得する事に成功、アダルトゲームはアダルト・ポルノ業界で異色の存在となってゆく事になった。
2000年代前半
2000年代にはいると、アダルトゲームは漫画・アニメに次ぐキャラクター産業の色彩を帯びるようになり、主題歌を歌う歌手がアルバムを発売したり、テレビアニメ・漫画・ラジオ・カードゲームなど他の業界でもアダルトゲームを元にした商品が製作されることになる。(後述のアダルトゲーム#メディアミックス展開も参照)。また、日本国外への進出も、姫屋ソフト、Studio e.go!など一部メーカーによって、早い段階からアメリカ、台湾等日本国外の市場を意識した商法も行われている。
2000年冬のコミックマーケットで登場したオリジナル同人アダルトゲーム『月姫』(TYPE-MOON)のヒットと前後して多くの同人サークルが商業ブランド化されたり、老舗ブランドの会社から一部スタッフが独立して新会社が立ち上げられたり、他業種・近隣業種の企業による参入などが相次いだ。
1990年代後半から拡大した「泣きゲー」とは正反対に、嫉妬・すれ違い・失恋・修羅場といった恋愛における「負」の部分も描き出す作品が出始めたのがこの時期である。実写ドラマさながらのドロドロの三角関係を描いた『君が望む永遠』(2001年 アージュ)は「鬱ゲー」というジャンルを開拓したとともに、本来の意味でのアダルトの為のゲームと呼べるものがユーザーに受け入れられたことをアダルトゲーム市場の成熟と捉える向きもある。
純愛系ではソフ綸の規制強化を逆手に取るように、義妹・幼馴染・いとこ(主に従兄妹)がメインヒロインの作品が急増。その中で『みずいろ』(2001年 ねこねこソフト)、『D.C. ~ダ・カーポ~』(2002年 CIRCUS)が相次いでヒットした。
一方老舗のメーカーでエルフは鬼畜・凌辱物の『臭作』(1998年)・『鬼作』(2001年)といった純愛以外の作品や、ライトノベル作家あかほりさとる原作で、萌え重視・メディアミックス重視の『らいむいろ戦奇譚 ~明治日本、乙女 防人ス。~』(2002年)を送り出す。もう一方の雄アリスソフトはあくまでエロさとゲーム性を重視した作風の『大悪司』(2001年)、『ランスVI-ゼス崩壊-』(2004年)といった作品や、希望小売価格が2800円の『妻みぐい』(2002年)で低価格路線を打ち出して新たな流れに対抗した。
2000年代中盤~現在
恋愛アドベンチャーゲーム、特に学園物はほぼ飽和状態になったとの指摘もあることから、その他のジャンルへの再評価の動きが高まっている。その中で『月姫』を手がけたTYPE-MOONが商業化、その商業化第一作『Fate/stay night』は、神話・伝承を元に設定されたキャラクター達の活写、シナリオによってキャラクターの人間関係が変わる意外性に溢れる壮大なストーリーなどが評価され、初年度で14万本以上の売り上げを記録した。
これと前後して恋愛物はひねりを加えたストーリー展開を持たせるものが増えてきた。『SHUFFLE!』(2004年 Navel)は、ドタバタコメディーを混ぜつつ悩み・物語を盛り込んだストーリーで、『夜明け前より瑠璃色な』(2005年 オーガスト)はSFと学園物に加え、身分違いの恋の現実がもたらす苦悩とそれに立ち向かう様を盛り込んだストーリーで、6万本を超えるヒット作となっている。
しかし、ハードさも凄まじく進行しており、『SchoolDays』(2005年 オーバーフロー)や、『マブラヴ オルタネイティヴ』(2006年 アージュ)など一部の作品ではグロテスクな描写を表現として取り入れるゲームもある。これに関しては、ユーザー側では賛否両論である。
性表現への規制
ソフ倫の登場
1980年代は「成人向け」という概念も無く、性的描写を含むソフトウェア類は単純に「エロソフト」等と呼ばれていおり、年齢制限には無頓着であった。 これはパソコン本体を購入する層は、一般者層より(本体自体の価格が、当時の新入社員初任給の2か月分以上程度のうえ、操作法が複雑であったため)、オタクとよばれることの多い操作技術の習得と投資をいとわない人間層が多かったことも一因と考えられる。
性の表現についてはメーカーの裁量に委ねられており、際どい部分を全く表現しないか「自主規制」という形での修正処理をするのが一般的となっていた(もっとも、これら修正処理は「裏ワザ」で外せる場合も多かった)。
だが、次第にアダルトゲームは問題視されるようになる。1986年には、刑法177条(強姦罪)からタイトルを取った『177』(マカダミアソフト=デービーソフトの一部門)が、草川昭三により国会で取り上げられた。そして1988年に起こった東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件や、それに端を発した有害コミック騒動によってポルノ業界そのものへの批判が強くなっていく。
1991年、京都で中学生がアダルトゲームを窃盗した事件をきっかけに、アダルトゲームの規制の緩さが追及され、開発会社の社長が逮捕された(沙織事件)。これに対し日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会は、性的描写が存在する旨を明記したシールをメーカーに販売した。しかし、宮崎県でソフトウェアを有害図書の一種とする条例が成立するなど、アダルトゲームを槍玉に挙げる流れは続いたことから、アダルトゲームを一括して管理する団体が求められるようになる。他の分野では1990年にコミックマーケットが幕張メッセを使用できなくなる事件、それに伴いコミックマーケットでの性的表現自主規制が強化される事件が発生し、非実写性表現のあり方を問われた時代でもあった。
1992年、自主規制団体コンピュータソフトウェア倫理機構(以下ソフ倫)が設立された。性表現の規制については日本ビデオ倫理協会(以下ビデ倫)初期の規制を参考にしたが、実写を管理することを目的としたビデ倫の規制は、主に絵が主体であるアダルトゲームでは必ずしも実態に見合ったものとはならず、後に規制及びソフ倫に対する不信感を生むこととなった。
審査機構の多様化
ソフ倫は業務内容が公表されず、協会に人員を提供している制作会社には審査が甘いという意見を持つ人もいたりと不透明感が高い、ユーザーサイドの求めるものとの格差が大きいことから、ユーザーやメーカーは不信感を抱いていた。その上、1999年に施行された児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の影響などにより、18歳未満の男女キャラの性的描写の禁止や、ゲーム内において使ってはいけない言葉(いわゆる「NGワード」)の規制が年々強まり(例えば「学校」という言葉を「学園」に言い換える、など)の拡充など、規制は増すばかりであった。ソフ倫はパソコンソフト卸会社との連携を重視していたため、ソフ倫に加盟し規制に従わなければ事実上アダルトゲームを売れない状況にあった。
2001年、当時人気を博していた『君が望む永遠』(アージュ 2001)が、画像の修正処理に不手際があるとして回収された。ソフ倫は部分審査の体制を取っているため、審査漏れ自体は珍しいことではなく、規制漏れによる回収もこれが初めてではない。しかし、この部分審査の体制と回収の際に何ら補助の無いこと等に不信感をあらわにしたアージュはソフ倫を脱退する。
アージュ作品を取り扱っていたソフトウェア卸売会社ホビボックスは、アダルトビデオの自主審査機構だったメディア倫理協会(現・コンテンツ・ソフト協同組合、以下メディ倫)にアダルトゲームの審査を行うように働きかける。そしてアージュは2003年にメディ倫審査のアダルトゲーム第1号となる『マブラヴ』を発売した。当時のメディ倫はソフ倫と違い、全ての素材を審査する完全審査体制を取っており、かつ規制も若干緩いもの(卑猥な用語への修正の是非等)であった(この事態に一部の店舗ではソフ倫審査作品以外は扱わない方針を取ったため、一部店舗に『マブラヴ』が入荷しないという事態も起きる)。そして2004年初頭には数々のブランドを抱える大手・テックアーツがメディ倫移行を表明、前後して主に中堅以下の数ブランドがメディ倫へ移行した。
これに対し、ソフ倫は近親の性的描写の緩和等の規制緩和を行った。このことは、以前の審査基準には何ら明確な意味が無く、顧客(メーカー)の流出を恐れる儲け優先の体質が浮き彫りとなった。そのことにより、ユーザーやメーカー等からさらなる不信感を煽る事となる。
夏菜について
夏菜とはプロのアダルトゲームのプレイヤーである。
近親相姦描写
1980年代は業界に明確な規定は存在せず、作ろうと思えば近親相姦ゲームは作れる状況にあった。しかし、1991年沙織事件が起こった後、近親相姦に関する規制は強まった。問題となった『沙織』には兄妹と父娘の相姦画像が幻覚という設定ではあったが含まれていた。
事件後、コンピュータソフトウェア倫理機構が設立されたが、その大まかな指針として近親相姦の描写のあるゲームの規制を行っていた。しかし、この時点では正式には規定されておらず、それほど過激でなければ許されており、通過する作品も少なくなかった。当時の作品としては兄妹相姦の描写のある『夢幻泡影』(ALICE SOFT 1995)、『魅惑の調書』(BLACK PACKAGE 1996)、『アトラク=ナクア』(ALICE SOFT 1997)などの作品があるが、当時は近親相姦そのものよりもストーリーや性描写の方が重視される傾向にあった。ソフ倫を率先していたD.O.すら『雑音領域』(D.O. 1996)で兄妹相姦を扱っていた。シーンはないが『雫』(Leaf 1996)でも兄妹相姦は話題にされていた。
だが、1998年12月に発売された、父と息子、母と息子、妹と兄、姉と弟の相姦という過激な話を取り扱った『コ・コ・ロ・・・』(アアル 1998)が販売禁止処分を受け回収され事態は急変する。この作品は、近親相姦の相手を義理の関係にして再販され、後のゲームにおける近親相姦のパターンに大きな影響を与える事になった。義理であっても傍系血族であるから近親に分類されるが、近親婚の禁止について民法第734条の但し書きに養子の異性(傍系のみ)とはこの限りではないとあるため、婚姻は可能で公序良俗に反しないとされたのである。
『コ・コ・ロ・・・』の販売禁止の半年後の1999年6月22日、コンピュータソフトウェア倫理機構・倫理規程の改定により、近親相姦描写の禁止は成文化された。これは1999年11月に施行された児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律に対応したものであった。同時に同性愛の表現も規制されたため、弟や兄や父との近親相姦の描写も困難となった。ちなみに、近親相姦の描写については、この時点で官能小説や成人漫画においては不可ではなかったが、AVでは日本ビデオ倫理協会が禁止事項としていた。
この直後『シスター・プリンセス』のヒットによりいわゆるメディアミックスにかかる分野全般で「妹ブーム」と呼ばれる現象が起きた。しかしこの際アダルトゲーム業界ではソフ倫の審査があったため、審査を通過したゲームの中には血縁関係がある相手との近親相姦を扱ったゲームは存在していなかった。妹なら義理であろうといいという主張のある一方で、「原理主義」と呼ばれる実の妹を扱うべきと言う主張も多くあった。だが、ソフ倫の禁止する姿勢に変化はなかった。かつてはそのまま出せたゲームも移植などの再発売では規制の対象となり、父娘相姦のシーンのある『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(elf 1996)もWindowsに移植される際に伏字だらけになってしまい、興趣を大きく殺がれるものとなってしまった。一方、ソフ倫の審査を通さずに出したゲームでは21禁の『実姉妹 ~濡れた相姦図~』(ANALOG FACTORY 2002)が存在したが、ゲーム内容もありそれほど評価は高くなく、ソフ倫非審査を理由にゲーム流通にもあまり乗れなかった事から話題性に欠ける事となった。
他方、この頃から近親相姦を扱った官能小説のライターなどの働きかけをきっかけとして、ソフ倫加盟メーカーの間に規約改定を要求する風潮が高まってゆく。また、2003年にメディア倫理協会(メディ倫、現在のコンテンツ・ソフト協同組合の前身)との業務競合が始まると、メディ倫がゲーム向けに定めた規制内容との比較などからソフ倫は過剰規制という批判にさらされる事になった。さらには、表向きは別としても実態として顧客メーカーのメディ倫への流出を恐れたソフ倫が、それまでの規制の再検討を行う事態に発展してゆく。この結果として、規制の箍は徐々に緩み始め、仮想世界における兄妹相姦を描いた『こころナビ』(Q-X 2003)や、脳だけ姉という設定で展開される『タナトスの恋 ~淫姉弟相姦~』(Red Label 2003)が発売された。また一方で義理の弟との兄弟相姦の描写のある『恋する妹はせつなくてお兄ちゃんを想うとすぐHしちゃうの』(CAGE 2003)が発売されるなど同性近親相姦の規制も緩まっていく。一方同人でも2004年6月『夏の燈火』(Circle Mebius)などから兄妹相姦を扱うものが現れ始めた。
そして、2004年秋に規約が改定され近親相姦の描写は解禁となった。同時に獣姦描写も可能となった。その後『死妹人形』(九頭龍,2004)が10月29日に発売され、一回のみながら実の兄妹の近親相姦シーンが出る。11月26日には『ALMA~ずっとそばに…~ -Complete Edition-』(Bonbee! 2004)も発売される。
現在は近親相姦描写においてもニーズの多様化が起こっており、実の妹のみならず実の姉や実の母を対象としたゲームも存在しており、一定の売り上げを確保している。だが、義理の関係を扱ったゲームがそのストーリー性でメディアミックスが好調であったのに対し、こちらはメディアミックスに関しては低調である。近親相姦をテーマにした作品は少女漫画ではかなり著名なものが多いが(例:『天使禁猟区』『罪に濡れたふたり』『僕は妹に恋をする』)、アダルトゲームの場合は精神的葛藤や苦悩がさほど描かれず、即物的にその背徳感を楽しむのが主眼であるものが多いためか、アダルトゲームのプレイヤーたちの間すら広範な一般受けはしておらず、好き嫌いがはっきりと分かれる傾向が強い。
技術の進歩とゲーム
グラフィック
コンピュータ技術の進歩がゲームに与える影響は大きく、特にグラフィック面においては顕著に見られてきた。アダルトゲームも例外ではなく、ソフトの登場と、PC-8801やFM-7から見れば格段にグラフィック性能が向上した16ビットパソコンの登場はほぼ同時期であり、グラフィック性能の向上によりコンピュータによるアダルト表現が可能になったと見ることができる。
これ以後もハードの進化と共にグラフィックの向上は進み、8ビットパソコン時代の末期から16ビットパソコン全盛期には、写真などの静止画像をキャプチャーするハードウェアも出始め、従来のプログラマー兼デザイナーの描くドット絵から専門のイラストレーターが作画した物や、実写した写真のキャプチャー画像が増えた。更にはその後の32ビットパソコンが普及し、1995年のWindows 95登場の際には解像度と発色数が増加したのみならず、実写や動画・3DCGによる多彩な表現が可能になった。
また、パソコン本体の価格の低下にともなうパソコンの普及と販売量の増大によって、潤沢な資金を背景に高度な映像機材が投入されるなど、製作側の設備投資関連の進歩も挙げられる。
音声と声優
グラフィックが女優による映像でなく絵による画像が主流のアダルトゲームにおいてキャラクターの音声は別途充てる必要があるが、極めてごく少数の例外を除いてはAV女優や風俗嬢といったアダルト業界の人間ではなく、声優として演技の修養を積んだ人物が圧倒的多数を占めている。
アダルトゲームの音声の導入はCD-ROM・大容量ハードディスクというハードウェアの技術進歩があって可能になった要素で、家庭用ゲーム機における導入とそれほど大差は無く、1980年代後半~1990年代前半頃から徐々に普及し始めた。
コンピューターゲーム業界全体では「第三次声優ブーム」のあおりを受けて高騰する声優のギャラを巡って1997年9月からCESAと日俳連の間で交渉の場がもたれたが、ランクをアニメのそれより高額を要求し、さらにハード間移植の際の音声二次使用料の要求と、強気の日俳連の前に交渉は難航、仲裁に日本音声製作者連盟(音声連)が加わり、日俳連がかなり譲歩する形で1999年2月10日に合意、ゲームにもランク制が導入された。(合意についての参考サイト)
アダルトゲーム制作会社はCESAには加盟しておらずこの合意の適用外でギャラは声優とその所属事務所との個別交渉で決まるのでランク制の設定額より数倍は高額になると言われている。導入初期は声優業界側の各種取り決めは試行錯誤で、キャストは一切公開されないか、逆に普段使っている芸名のままで公開されることも珍しくは無かった。また、アダルトの規制基準が媒体によってまちまちで、媒体ごとに声優を交代させる必要があり、1990年代中期の作品では1キャラあたり4人も5人も声優がいるものも存在した。この流れも1999年の法改正(詳細別節)と、ハード間競争がソニーのプレイステーション・プレイステーション2が優勢になった事を受け、1キャラあたりアダルト表現まで請け負う声優と、非アダルトの関連作品を担う声優の2名に大別されるケースが多くなった。
芸名についても日俳連とマネ協で取り決めを整備し、「アダルト作品出演については日俳連に登録している以外の芸名で出演する事が望ましい」という通達を出し、現在多くの声優はアダルト作品用に別の芸名(風俗業界になぞらえて源氏名とも呼ばれている)を設けている。この為1キャラに2人声優がいても実際は同一人物というケースもあるが、建前上は別の芸名を名乗っている以上はあくまで別人で、それ以上は「大人の事情」で処理される事が多い。現在日俳連・マネ協・各声優事務所共に誰がどの別芸名を名乗っているかは原則として非公開なので、本Wikipedia上でも建前に沿って別人格として編集されている。
現在アダルトゲームではアトリエピーチやイエローテイル(この2社を指してエロゲー界の「桃色黄色」という通称がある)といったプロダクション会社が制作会社に替わって大まかな選考・スケジュール調整を各声優事務所や声優と行う形態が主流で、大抵事務所所属者はグロス単位でオファーが来るケースが多い。起用するゲーム会社もアダルトゲーム出演が出来て、かつ能力・条件の合う声優の絶対数がまだまだ少ないのと、キャラクターの性格設定がある程度パターン化されたことも手伝って一部の声優にオファーが殺到する傾向にあり、北都南や一色ヒカルは一時期年間50本以上、中堅声優でも30本前後はオファーが舞い込み、結果年間スケジュールの大半がアダルトゲーム関連で埋まってしまう声優も少なくない。
加えてアダルトゲームの場合ノベル形式のアドベンチャーゲームが主流で台詞の量がアニメに比して多い。台本はおよそタウンページ2冊前後、メインヒロインを引き当てるとその1.5~2倍に達する分量があり(但しアニメ用と異なり、ゲームスタッフがプリンターとコピー機を駆使して作った片面印刷の簡易製本のため、単純に多いわけではないが)、これを一人スタジオに籠って収録(掛け合いによる方式、いわゆるアフレコは行われない)している。また、アニメ作品のように1話が30分で分割して収録できるに対して、ゲームの場合スタジオレンタル料との兼ね合いから短期で集中して収録する(1日あたりの拘束時間が長い)為、ゲームの仕事が入ると同時に他の仕事は取りづらく、アニメで成功している声優は呼びづらいという事情もある。
こうした制約がある声優に対して歌手栗林みな実が『君が望む永遠』において主題歌のみならず、メインヒロインの声優を兼ね、しかも自分がその声優である事をコスプレ姿で公言した事で声優界に一石を投じる格好になり、これに榊原ゆい、YURIAといった先に歌手として成功した人物が追随した為、アダルトゲームの声優は影の存在という流れは徐々に変わりつつある。もっとも、栗林・榊原の両名については、マネジメント担当の事務所がアダルトゲームの制作会社と同一法人であり、この様なスタイルを取ったという一面もある為、従来からの声優事務所に所属している声優についていえば、まだ大勢においては今の所は及び腰であるといえる。
歌と音楽(BGM)
主題歌がつくことも一般的になった。『Kanon』(Key 1999)の爆発的な大ヒットで主題歌の編曲を手がけた音楽製作プロダクションのI'veに注目が集まった。I'veが音楽あるいは主題歌を手がけたアダルトゲームのパッケージにはI'veが音楽を担当したことを表すマークが付くことがあるなど高い人気を誇っている。2001年には音楽に定評のあるkeyのサウンドトラック等を専門に扱うKey Sounds Labelが発足した。同年に発売された『吸血殲鬼ヴェドゴニア』(ニトロプラス 2001)では主題歌を紅白歌合戦に出場したこともある小野正利が歌うなど、音楽や主題歌に力を入れる動きが顕著になった。
また、アダルトゲームの主題歌を手掛ける音楽集団や音楽担当スタッフには、古くからジャパメタのフォロワーが多い。その為、ロックよりもかなりハードなドラムやギター、間奏のメロディカルなギターソロといったメタルの要素が盛り込まれた主題歌は珍しくない。その中でも特筆すべきはメーカーであるがニトロプラスで、作品によっては歌詞と曲だけ聞かされてもアダルトゲームの主題歌とは到底信じ難い様なハードなメタルテイストの曲を主題歌や挿入歌に据える事も珍しくなく、普段はアダルトゲームとは全く無縁なメタルファンの一部にまでその名を知られる事となった。他方、アダルトゲームの主題歌であるため、メーカーによってはハードでハイテンポなメタル調の曲に、本項ではさすがに掲載がはばかられる様な物凄い歌詞を組み合わせたケースもあり、たとえメタル調のハードな曲であっても歌詞のバラエティという意味では、ラブソングやいわゆる「萌え」に属する歌詞がほとんど見られない本家ジャパメタとは比較にならない幅の広さを持っている。また、先述のニトロプラスのものを例外とすれば、メタルテイストの曲であってもほぼ全ての曲についてボーカル担当が女性である事は大きな特徴である。
しかし、これら技術の進歩や業界の変化によってもたらされた様々な要素、特に声優や主題歌の起用に関する人件費を中心とする各種コストが、現在ではゲームソフトの価格に対する上昇圧力の一大要因になっている事も否定ができない。特にアダルトゲームファンの間でI'veが一大センセーションを巻き起こした2000年頃以降は、主題歌CDの初回特典としての添付がこの業界では販売促進策として至極当然のものとなっているが、これについては、多くのゲームに存在する初回特典の有無による価格差や、アダルトゲームでは初回限定版の発売後に通常版が最終的に発売されないケースが珍しくない事などを鑑みた場合、ゲームと主題歌CDの事実上の抱き合わせ販売の商法であるとして指摘する批判も少なくない。
アダルトゲームで使用・作成されたBGMは広く地上波テレビ放送各局やラジオ局でも利用されている。
企業・クリエイター
2006年7月現在、ソフ倫に加盟しているブランド数は541にのぼる。近年はメディ倫での審査を行っているブランドも少なくなく、こちらの加盟ブランドも考慮すれば、およそ600から700ものブランドが現存していると推定される(※ただし、この数字についてはブランド数であり企業数ではない。またAlice Blueの様に会社組織としては存続しているが、現在は活動を休止している派生ブランドなども含まれている)。
アダルトゲームの制作会社は、規模の大小こそあれ、家庭用ゲームの制作会社と比較すればおおむね小規模である。自社ビルを所有する会社はほんの数社程度であり、法人格を持たず普通のマンション(代表者の自宅の一室など)を仕事場にするケースも珍しくない。また、資金繰りの為のサイドビジネスとして中小企業向けの業務用アプリケーションやウェブデザインの下請け製作などを行っているメーカーも少なくなく、この事もありコンシューマーゲームと違って法人名よりもブランド名を前面に出している事が多い。そのため、消費者が母体となる企業名を知らないことも多く、プロデュースなどと謳われていても実態としては販売代行のみ行っている事が明らかで、実際の製作会社は非公開になっているケースもある。また労働条件については家庭用ゲーム同様に、ごく一部の例外を除きほぼ一様に劣悪と言われている。
ゲームソフト卸や一部のゲーム会社が自社の傘下に入る事を条件に資金援助するシステムが確立されており、新規参入に際しては比較的容易である。このため毎年数十のブランドが新たに登場する一方で、それに近い数のブランドが消滅してゆく。中には発売予告は行っていたものの実際の発売にこぎつけられずにフェードアウトしてしまうブランドも見られる。
また、近年の大容量メディア技術の進歩が招いた大作化の傾向により自社で全ての制作作業をまかなうのが難しいため、製作の一部について外部に委託することも珍しくない。特に宣伝などにも用いられるムービーは専門的な技術が要求されるため、自社制作を行えるメーカーはほとんど無い(業界大手でもムービーと声の収録はほぼ全て外注である)。そして、このゲームの大作化は製作期間の長期化、ひいては人件費の増大を招く事が多く、今では制作コスト上昇の最大の要因となっている。このコストの上昇については、当然ながら最終的には小売価格に跳ね返って来る事になる。
グラフィックについても特に背景画については、アニメ背景を主業とする下請けプロダクションがアダルトゲーム業界にも進出してきている事と、人物を上手に描ける人間であっても背景画の技術が伴っていない事が少なくない事から、近年では外注での制作が当たり前になってきている。また、I'veやfeelなどアダルトゲームの音楽を手掛ける集団が台頭し、彼らの音楽(特に主題歌)もゲームにとっては販売促進の効果を持つ話題となる事から、近年は主題歌やBGMについても内製率が低くなっている。
さらには、ここ数年の間にムービー、主題歌、台詞の音声付加、初回特典などがごく標準的な要素となり、これらが売り上げ本数に大きな影響を及ぼす様になった為、ゲームに付随する部分での製作費用も雪だるま式に増大化する傾向が見られている。それゆえにアダルトゲームの売上規模では、販売本数的に成功と言われるものであっても製作費をゲーム単体では回収しきれないものすら出てきている。この為、利益確保の為に性的要素を排除した『全年齢版』を制作し、これのコンシューマ機への移植の他、キャラクターグッズやトレーディングカード、フィギュアなど版権利用のサイドビジネスを積極的に展開しているブランドも中堅以上では珍しくはない。他方、特に台詞への音声の付加に掛かる人件費や主題歌の製作などのコストはアダルトゲーム業界全体のコスト上昇の要因となっているが、かといって現在のアダルトゲームの販売価格を考えた場合、これ以上の価格転嫁は事実上不可能に近い。かと言って、逆にこれら要素をコストダウンの為に除外する事も、低価格路線のゲームですら音声入りのものが出てきている近況を鑑みた場合、極めて困難と言わざるを得ない。その為、最近では5年以上の活動実績を持つブランドですら、この際限の無い制作費の増大に経営面で耐えきれなくなり、ゲームソフトの新規開発を断念するところも現れる様になっている。
音声という要素が当たり前に付く様になって以降の大ヒット作であっても、『AIR』『Fate』など音声がつけられていないものも存在する様に、音声がヒットの為に必須であるとは一概には言いきれない。ただし、音声がつかないものは異端扱いされる傾向にあり、ヒットした音声無し作品では、新たに収録した音声を付加したものが新バージョンとしてあらためて発売される事も珍しくない。
開発チームが小規模であるためゲーム制作の工程管理が難しいことから、ゲームの発売が延期されたり、発売されたゲームにバグが存在するケースも枚挙に暇がない。近年はインターネットの普及により修正差分の配布が容易になったこともあり製品品質の維持が疎かになる傾向が見られ、バグの増加も顕著になっており、いまやバグも発売延期も無いゲーム自体が稀になってしまった。バグの内容は様々であるが、ゲームの進行において動作不能になるなど致命的な問題を引き起こすのみではなく、中にはインストールの際に誤ってハードディスクの全内容を消去してしまうという深刻なバグを残したまま発売され、不具合が製品回収騒ぎに発展した作品もある。また、発売延期という点では、当初予定していたよりも構想が膨らみ過ぎ、シナリオや画像の追加を延々と繰り返すなどした挙げ句、年単位での発売遅延が発生するなど、工程管理が完全に破綻しているケースも見られる。
また、開発チームの多くが小規模であるが故に、会社や人材の離合集散が激しいのも特徴である。会社内部での問題から開発チームが独立したり解散する場合も多く、人気のスタッフはヘッドハンティングによる他社への転籍、自主的移籍、フリーランス(外注)に転進することもある。特に人気の高い原画担当者については、その関与がゲームソフトやゲーム関連雑誌、さらにはメディアミックス情報誌、ライトノベル(挿絵を担当)などの売上向上に大きく寄与するため、フリーランスになった途端に引っ張りだこになることも珍しくない。この事もあり、人気クリエイターの独立においては、一見した限りでは自主的な独立であるが、実態としては他社やマルチメディア系出版社が黒幕として糸を引いていたと噂されるケースも少なくない。その一方で、ライトノベルの挿絵などについて社内スタッフの副業を認めているメーカーも多い。これを認めている理由は主にスタッフの収入確保と社外への流出防止の為であるが、逆にこの副業で人気を博した原画担当者などがイラストレーターとして独立してしまうケースもある。
他方、この業界はクリエイターへの依存度が極めて高いという事も特徴としてあげられる。キャラクター原画やシナリオなどの特定のクリエイターの人気度と、ブランドの人気度が全く同義となっている開発チームは別段珍しいものではない。その為、このブランド人気を一手に支えてきた社員スタッフが独立や移籍目的、逆に人間関係のもつれなどで退職した事をきっかけに、ブランドや開発チーム、場合によっては会社自体に存続問題が発生し、解散に至ったケースもある。また、前作の成功で一躍人気となったクリエイターがいわゆる「天狗」になってしまい、問題が起きたと言われているケースも多い。この場合、同僚もそのわがままを抑えられない状態となり、次回作の製作に際して他のスタッフの仕事にも干渉し、結果として作品全体に悪影響を及ぼしたり、グラフィック・シナリオなどの完成度にこだわり過ぎて製作期間の大幅な超過を引き起こすなど、小規模集団のクリエイター人気ゆえの問題に悩まされ、これにより終了に追い込まれた人気作品のシリーズもあると言われている。
しかし、その一方でこの業界のクリエイターについては「消耗品」「使い捨て」と揶揄される事さえあるほどに、消長盛衰が大変激しいという一面も持ち合わせている。これについては創作活動での精神的な消耗、メインスタッフとして関わった作品の商業的失敗やインターネット上での低評価、新たな才能や表現技法が次々と登場してくる事による淘汰が主な要因となる。その他、加齢や生活の変化による心境の変化と共に性的な場面を描きにくくなり、この業界から離れてゆく者も特に原画担当者を中心に少なからず見られる。他方、コンシューマ機のゲームよりも売上規模が小さいものがほとんどであるだけに、特にフリーランスの立場にあって人気を得たクリエイターの場合、人気を博した事で起用に高いギャランティーが必要になるというイメージをメーカー側に抱かれてしまい、人気・実力は認められながらも予算面の都合から起用を避けられる様になり、かえって仕事を失い、アダルトゲーム業界から離れていったと言われている者も存在する。
いずれにせよ、アダルトゲーム業界を離れたクリエイターについては、原画担当の場合には漫画家やイラストレーター、アニメーターに、シナリオライターの場合はライトノベルやジュブナイルポルノの作家、雑誌のライターに転業したり、転業を試みたケースは多数見られる。この場合、ライトノベル関係の仕事などを足掛かりにして、アダルトジャンルではない分野に活動の軸足を移してゆく者も少なくないが、それでも結局はかなりの割合でいわゆる萌え産業の範囲内にその身を置く事になる。
その一方、商業出版での創作活動について回る様々な制約や規制を嫌った者や、あるいは逆にゲームより日程管理の厳しい商業出版の世界に対応できなかった者、元々から同人の世界で大々的に活動していた者の中には、俗に『プロ同人』と呼ばれる、コミックマーケットなどの同人イベントや、同人ショップでの委託販売などに活路を見出していくケースも見られている。
アダルトゲームとコンシューマーゲーム機との関係
アダルトゲームとしての移植
コンシューマーゲーム機において性表現のあるゲームの制作は、原則的に禁じられている。これは、任天堂社製家庭用ゲーム機ファミリーコンピュータ全盛時代に、任天堂のライセンスを取得しないソフト(現在同人ソフトと呼ばれるもので、当時は裏ソフトと呼ばれていた)の撲滅に関して定めた自主規制が基盤となっている。詳細は任天堂の項を参照のこと。
当時はマイコンと呼ばれていたパソコン用のアダルトゲームの制作、販売を行っていた光栄(当時)、エニックス(当時)などがそれをやめたのも、当時の任天堂の方針に合わせたためという説がある。この当時、任天堂はパソコンを含む家庭用マシンでアダルトゲームの製作を行っているメーカーの参入については一切認めず、ファミコンへの参入についてはアダルト要素を含むゲームの製作をパソコンなどでも行わないことを条件としていたと言われている。過去には、ゲーム批評のような雑誌のインタビュー等から、ギャルゲーを質の低い作品が多い、家庭用ゲームソフト全体の質を大きく下げた元凶と見なしており、任天堂のゲーム機でこのようなゲームは、これまでは若干数存在する程度であったが、現在の任天堂はこれらのことに関しては、かなり方針を変えてきており、ニンテンドーDSやWiiでは、美少女ゲーム、多少性的な描写を含むゲームの発売も許可しつつある。[参考リンク]
一方、NECは過去の任天堂とまったく逆のスタンス、即ち「ハードウェアが売れるならばソフトの質は問わない」というものであった。また、セガもアダルトゲームに大幅な規制をかけなかったこともあり、NECのPC-FXやセガのセガサターン用のソフトで、一時期アダルトゲームの制作が認められていたことがあり、過激な性的表現を抑え、レーティングを18禁(X指定)とした上で『野々村病院の人々』(1996年 エルフ)、『Pia♥キャロットへようこそ!!』(1996年 カクテル・ソフト、PC-FX版は翌年自社発売)等が移植されていた。しかし、脱衣麻雀やPCアダルトゲームの緩和版ソフトといった、X指定におけるジャンルのマンネリ化があった上、アダルトのゲームを販売している事に対する風当たりが強まったこともあり、やがて性表現をさらに薄くした「18歳以上推奨」というレーティングに移行していった。『同級生』や『下級生』が18歳以上推奨ソフトとしてセガサターンに移植されている。また、この時代の作品はバブル全盛期で、野々村病院の人々は初年度の売り上げで32万本、下級生は25万本、同級生ifは22万本を記録している。
アダルトゲームのコンシューマ移植
セガサターンと同時期の家庭用ゲーム機の雄、ソニーのプレイステーションへの移植に関しては、ソニーチェックと呼ばれるほどCGなどの表現に対する厳しい規制があり、アダルトゲームの移植作はほとんど存在していなかった。この状況は『同級生2』(1997年 バンプレスト)、『To Heart』(1999年 アクアプラス)によって変化することになる。性的描写を全て排除し、ノンアダルトのギャルゲーとして売り出すことでプレイステーション移植を果たした。
以後、「原作のゲームと同一タイトルをつける事を認めない」という決まりが制定され、著作権表示に元のブランド表記がない作品が多い、という制約はあったもの、アダルトゲームのギャルゲー化は作品の販路拡大・メディアミックスの手法として定着してゆく事になる。また、これによってアダルトゲームとギャルゲーとの境界線が曖昧になってゆくことになった。と、同時に家庭用ゲーム機に性的表現を盛り込む事を放棄したとも言える。
参考情報
- 1999年3月発売の『To Heart』ではタイトルが変わっておらず、同年4月1日発売の『ONE ~輝く季節へ~』は『輝く季節へ』とタイトルが変更されている。
- ただし、カプコンは1999年3月に『ONE』というタイトルをPSで発売しているため、混同を避けるための処置とも言える。
- 『With You ~みつめていたい~』のPS版『絆という名のペンダント with TOYBOXストーリーズ』は、後者における例外の一つである(著作権表記に原作側「カクテル・ソフト」の表記が入っている)。
- ただし、With You自体は以前にセガサターンで発売されており、表面上はそれの移植に追加要素を付けたとする見方も可能。
- 『ロマンスは剣の輝きII』はPS版においてはサブタイトル「銀の虹をさがして」が付けられており、著作権表記にも原作のフェアリーテールの表記がある。
- ただし、ロマ剣IIは18禁ではなくR指定(15禁)。
プレイステーション2主流の時代においては、タイトルにおいては過去に他ハードに移植されていないタイトルでもサブタイトルが付いている程度(元々サブタイトルがあるタイトルでもサブタイトル部分に変更がある)であり、原作者表記についてはブランド名でなく法人名が表記されていたケースがあったが全般的なものではなく、プレイステーション時代に比べれば緩和されている。中にはパッケージ裏に原作者のロゴが表示されているものも存在するほどである。だが過去の規制の名残で、プレイステーション2でもタイトルが完全に変わっている作品が存在するほか、表面上他機種からの移植といえる状況が発生しなくなった今日ではWindows版と同名で発売されるケースはない。プレイステーション2の後継機プレイステーション3の移植作は今の所発表されていない。
プレイステーション2と同時期のゲーム機、セガのドリームキャストは規制を早い段階にCEROのものに合わせていたこともあり移植作が作られ、ドリームキャスト生産が終了した後もしばらくは移植作品が発売され続けていた程である。しかし、SCEIの規制がCEROレーティングにある程度準拠したこと等により、ドリームキャストへの存在意義が薄れ、発売タイトル数が減少している。ちなみに末期ではDC版でもサブタイトルが付くなどしてPC版とタイトルが異なるケースもあった。
移植と逆移植
アダルトゲームの美少女ゲーム化により、コンシューマゲーム機用の美少女ゲームが逆にWindows版に移植されるようになった。単純にWindowsにエミュレートしただけの作品もあるが、中には美少女ゲームをアダルトゲーム化して売り出す作品も存在する。『夏色の砂時計』(2002年 プリンセスソフト)や、『ToHeart2』(2004年 アクアプラス)は初め美少女ゲーム(CERO15)で発売されているが、それぞれ翌年にはアダルトゲームとしてWindows版が発売されている(後者はWindows版は『ToHeart2 XRATED』とタイトルを変更している)。また、移植により新しいキャラクターを追加し、更にそのキャラクターに性的描写を加えたものを逆移植する、といった作品も存在する。(無論逆もある)
しかし、その一方でアリスソフトのように、ほとんどの作品で性的な要素がゲーム内の根幹部に関わっており、ちょっとした改変によるギャルゲー化はコンセプト的に不可能という作品を作り続けているメーカーも存在する。
メディアミックス展開
OVA・テレビアニメ等映像作品
概略
アダルトゲームのアニメ化は現在積極的に行われている。
アダルトゲームのアニメ化は1990年代はじめから細々と行われていたが、アニメ化作品でヒット作と言えるだけのセールスを記録した最初の作品は1994年の『同級生 夏の終わりに』(ピンクパイナップル)であった。この頃は家庭用ゲームへの移植がはじめアダルト色を何とか残しつつ行われたのと同様、R指定(15禁)ないし18禁のアダルトアニメで、レンタルビデオ店用のアダルトビデオの一種として製作され、後にOVAとして販売されていた。この流れが変わり始めたのは『エルフ版 下級生 ~あなただけを見つめて…~』(1997年 ピンクパイナップル)で、性的描写のあるR指定と、存在しない全年齢版の2系統が製作された。その後、1996年にアダルトOVAとして製作された『同級生2』(ピンクパイナップル)が、1998年に性的描写の全カット・話数追加をして再編集の上、初めてテレビ地上波で放映された。
初めから全年齢向けアニメとして企画された端緒は1999年に放送された『To Heart』であるが、これはプレイステーション移植版の美少女ゲーム化された側を直接の原作と位置づけている。以降美少女ゲームとしてコンシューマ機にも移植可能、あるいは移植されたストーリー重視型の作品がテレビアニメ化されている。多くはUHFアニメで、これについてはUHFアニメの項を参照されたい。独立UHF局以外ではWOWOWや、TBSのデジタル衛星放送BS-TBS、BS11、がこの種のアニメの放映に比較的寛容である。例外的にキー局で放送された作品としては『Kanon』(2002年 東映アニメーション)、『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』(2009年)がある。
2005年1月からボーイズラブ系(女性向け)のアダルトゲームからアニメ化された作品としては最初のものとなる、『好きなものは好きだからしょうがない!!』(プラチナれーべる 2000)がUHFアニメとして放映され、これに追随する形でアニメ化された、あるいは企画中のボーイズラブ系原作の作品が見られている。
この様にアダルトゲーム原作作品を非アダルト作品にアレンジしてのテレビアニメ化が多数進められる様になった背景としては、コンシューマーゲーム機へ移植される作品が増加する中、アニメ化の素材としてこれらの作品に着目したアニメ製作会社と、大作化などに端を発する開発費の上昇に際限が見えない中、経営を安定させる為の収益チャンスや自社作品のPR機会の拡大を模索していたゲーム制作会社の利害が一致したというところが大きい。また、アニメ制作プロダクションの乱立とすら言える増加と、それに伴うコミックやライトノベルの人気作品のアニメ化の権利を巡る競合の激化、それ以外にも近年のコミック・ライトノベル業界全体の体質的な変化で、低予算アニメ化には適さない難解な作品にヒット作が偏っている現状や、自社企画によるオリジナルアニメ作品全般の不振などといった要素により、アニメ業界にとっては低予算アニメ作品に適したコンテンツの不足が常態化しているという一面も見逃すことはできない。また、その様な事もあり、最近では人気原画家が関わる作品などでは、ゲーム発売予定日の数ヶ月前という販売見通しも定かではない段階から、アニメ化企画案がゲームメーカー側に持ち込まれるケースも珍しくなくなっている。また、最近ではアダルトアニメよりも宣伝効果と収益性の期待値がより高いテレビアニメ化を期待して、アダルトアニメ化の企画が持ち込まれても拒否したり留保する姿勢を取るゲームメーカーも珍しくない。
一方凌辱物など性的描写メインで、家庭用ゲーム機移植やテレビアニメ化が望めない作品についても、OVAのアダルトアニメによるメディア展開は現在でも根強く行われ、レンタルビデオ向けなど中心に一定規模の市場が構築されている。また、メディアミックスに対して消極的な姿勢を取っていた保守派ブランドの筆頭格ともいえるアリスソフトも、2002年頃より自社作品のOVA化を許諾する姿勢を見せている。
テレビアニメ化作品の品質を巡る問題
アダルトゲーム(特にマルチヒロイン型のアダルトゲーム)を原作とするテレビアニメには、様々な問題が指摘される事が少なくない。とりわけ最近では粗悪かつ安易な展開のハーレムアニメが製作される風潮が見られており、シナリオ・作画についての品質面に関する問題提起が、数多くの作品で原作ファンを中心になされている。
このような風潮は、近年の深夜アニメの過半が該当する「1クール12~13話、もしくは2クール26話での終了を前提とし、企画立ち上げから放映まで短期間かつ低予算で制作できる小規模なアニメ」の濫造に、アダルトゲームのフォーマットが適していたために起きているという説を唱えるものも保守的なアニメファンの一部にはおり、この者たちからはアダルトゲームのアニメ化そのものについて激しい批判が起こされている。だが、そもそも、あまた存在するニーズの中からどの作品でどの程度の規模でアニメ企画を組むのか、その決定権を握っているのはアニメの販売会社及び制作会社、また彼らの背後に位置する事が多いマルチメディア系出版社であり、本来の製作能力を逸脱した無理のある企画をアニメ制作プロダクションが往々に抱え込んでしまう原因は、やはりこれらアニメ業界側の体質にあるのではないか、とも考えられる。
また、アダルトゲームのアニメ化企画はほとんどが俗に言う低予算アニメであり、この予算の少なさも作品の品質向上にとっては障壁となっている。過去の低予算アニメで品質破綻が作品そのものの致命的な破綻を招いたケースとしてはライトノベル原作の『ロスト・ユニバース』で起きた画質破綻、いわゆる「ヤシガニ問題」が著名であるが、次に品質面の問題から同様の大きな騒動を発生させるのは、アダルトゲーム原作の低予算アニメではないかと危惧している者もいる(実際、2005年以降、作画や脚本において著しい破綻が発生した作品が複数あるという声もあり、それは2006年の『夜明け前より瑠璃色な』のアニメ化作品、『夜明け前より瑠璃色な ~Crescent Love~』における、いわゆる「キャベツ問題」で顕在化した)。
アダルトゲーム原作作品のアニメ化は、その過半が低予算・小規模の深夜アニメではあるが、特に声優関連の人件費や広報宣伝費などについては削減が困難であるため、多くの作品では予算圧縮の圧力が作画や脚本に向けられる事になる。この影響により、アダルトゲーム原作アニメでは、低コストであるが技術力が低い海外の下請け制作プロダクションへ動画制作の大部分が委託されるケースも珍しくはなく、ほぼ全てを丸投げしている作品も見受けられる。国内にメイン制作が置かれているケースでも、経験した場数は少ないがその一方でギャラが安い若手スタッフが作画ではコンテや原画、脚本ではメインシナリオやシリーズ構成を担当する事が珍しくない。確かに期待される若手アニメスタッフに実践経験を積ませる事ができる貴重な場という見方もできるが、逆にその経験不足や技量不足によって品質面に問題が発生した作品は存在し、また脚本面では単調粗悪なハーレムシナリオや、ゲーム内の名台詞をただ丸写しに羅列しただけの無味乾燥な恋愛劇・愛憎劇だけが盛大に繰り広げられてしまったケースもある。特にアダルトゲーム原作作品はキャラクターへの「萌え」要素が生命線となるアニメが多いだけに、キャラクター描写の不足や破綻が作品評価に際して破滅的なマイナス要因となったケースも見られる。この様な状態に陥った作品では、放映中の段階で原作ファンからアニメ作品についての危惧や不満が語られ、批判が噴き出す事も少なくない。
脚本の品質面についてはキャラクターの人間関係などの原作との差異などを中心に、他にも問題が指摘される事がある。特にボーイズラブ系原作の作品では、同性愛的要素はたとえ深夜の時間帯の番組であっても表現上の制約がより大きいため、男女の恋愛模様を描くアダルトゲーム原作作品以上に安易なハーレム展開を物語終盤まで続け、表面上は少女漫画調にも近い友情劇や人間模様劇の様な雰囲気を見せておいて、物語最終盤に至りようやくメインターゲットとの深い関係へと一気に物語を集中させるという展開がなされる事も少なくない。これもファンからは「物語の掘り下げ方が浅い」とされて不満要因となり、ひいては作品全体の品質の低さの一因として挙げられる事がある。
他にも、テレビ放送上の制約や都合から行われる場合もあるが、アニメ製作サイドの中心スタッフの独断によりゲームで人気となった要因を排除・否定したり、主人公・ヒロインの性格や言動などストーリー根幹部に関わる大幅な改変が行われたケースもあり、これによりファンの間でアニメ作品へ反発や批判が示され、アニメ制作側にとっては想定外の不人気となった作品も存在する。これはメディアミックス的に製作されたアニメ作品について、アダルトゲーム原作作品以外にも総じて言える事ではあるが、この種の作品では原作ファンからの期待値が高く、また原作に対するファンの支持をそのままアニメの人気の拠り所とするものが多いだけに深刻な問題といえる。また声優についても原作ゲームで声を当てていた声優の一部が「(所属事務所の方針などで)テレビアニメ版への出演NG」という事になったり、製作の幹事会社を務めるレコード会社の意向などからアニメ化に際して声優の総入れ替えが行われる事が珍しくないが、これも原作ファンからの不満発生などのリスク要因となる。これらの様な事柄を要因としてアニメ化作品に対する拒否反応が発生した場合、原作ゲームのファンからの支持は一転して強烈なバッシングへと変化していく事も少なくなく、場合によってはその存在自体が否定され、ファンの間では暗黙の了解として最初から存在しなかった事として扱われることすらある。さらにはこの不評がインターネットなどを通じてファンの間に伝播してゆき、後々のDVD販売などで不振に陥ったケースも見られている。
この他にも原作ゲームの持つ独特の雰囲気やコンセプトを、アニメの監督や脚本家などがほとんど理解しないままに制作し、作品のメディアミックス効果を台無しにしてしまった作品も散見されている。この様な制作者間の意識の乖離によりファンから低品質と批判を受けてしまうアニメ作品が少なからず製作されてしまっている現実に対して、最近ではメディアミックスに否定的でこそないが内々では懐疑的な見方を示している者は、アダルトゲーム業界側の当事者であるゲーム制作者にすら現れており、現在では低予算アニメにおける品質管理の水準向上がアニメ業界にとっても大きな課題となっている状況さえ見られている(なお、最近の『製作委員会』形式によるアダルトゲーム原作アニメの制作に際しては、ゲームメーカーも原作企業という立場から、少なからぬ金額の出資を要求される事が珍しくはない。だが、経営規模が小さいアダルトゲームのメーカーにとっては、アニメ制作への出資は経営判断上も決して小さくない事実上の投機行為と言える。それを鑑みれば、最近のメディアミックス効果の創出に失敗する粗悪なアニメ作品の発生に対する、ゲーム制作者側のこの懐疑的な反応や不安は当然のものとも言える)。
OVA・テレビアニメ以外の映像作品
2002年に『Piaキャロットへようこそ!!3』(2001年 F&C FC02)、2005年に『AIR』(2000年 key)劇場アニメとして上映された。こちらは共にアダルトゲームを直接の原作にしながらも性的描写はカットされている。
正反対に『夜勤病棟』(1999年 ミンク)は実写のアダルトビデオ化されている(この他アダルトOVAも存在する)。
しかしながらコストや収益性、メディアミックス効果の実効性などで課題があり、どちらもメディアミックス展開としてはごく少数の例外といえる。
漫画・小説等書籍
アダルトゲームを原作にしたノベライズ作品は多数刊行されている。大半はジュブナイルポルノと呼ばれるジャンルに属する官能小説で、多くは新書判で刊行されている。その一方で、一部ではあるが性的要素を排除するなど大幅なアレンジを加えたメディアミックス色が強いノベライズもあり、こちらはライトノベルのレーベルから刊行されている。ジュブナイルポルノの場合、ゲームのシナリオライターと原画担当者がそのまま本文と挿絵を担当する場合が多い。対照的にライトノベルの場合、本文ではかなりの割合で、挿絵についてもある程度の割合で、出版社と繋がりのある別の若手作家が起用される。その為、ライトノベル化作品では雰囲気が大きく変わる事も珍しくない。
コミカライズも一部に見られるが、これについてはテレビアニメとのタイアップであったり、あるいはテレビアニメ化への動向調査を兼ねるなど、大半が何らかの別のメディアミックス企画やその構想に深く関連しており、性的要素を排除した形で雑誌掲載、単行本化されている。この場合、大半のケースでコミカライズ担当の漫画家が起用され、原作ゲームの原画担当者自身が漫画を作画することはあまり見られない。その為、ライトノベル化と同様、コミカライズで作品の雰囲気が大きく変わる事は別段珍しいものではなく、原作の原画担当者の人気がカリスマ化している場合などに、原作ファンの間で物議を醸す事もよく見られる。
ただし、ゲームメーカーの意向として、ノベライズやコミカライズの担当者に裁量を大きく与えたり、ゲーム側を『正伝』、出版作品側を『外伝』などと位置づけて、意図的に雰囲気を変えさせているケースも存在するため、作品の雰囲気が変わる原因については、一概にノベライズ・コミカライズ担当者の技量不足とばかり決めつける事はできない。
ドラマCD・BGM集等音楽作品
その他のメディアミックス
チャンピオンソフト(アリスソフト)、ビジュアルアーツ、アクアプラス(リーフ)、ノーツ (TYPE-MOON)、葉月(オーガスト)、オメガビジョン(Navel)(※括弧内は各ブランド名)が合同企画としてTCG・リセ(lycee)を立ち上げたように、映像媒体以外にもメディアミックスは広がりを見せている。
また、東証1部上場企業であるドワンゴが、2005年7月から放送された着メロ配信サイト「いろメロミックス」のテレビコマーシャルのBGMに、『巫女みこナース』(2003年、PSYCHO)主題歌の『巫女みこナース・愛のテーマ』が採用された。更に、同曲は2005年12月27日に第一興商の通信カラオケ「cyber DAM」で配信されている。
その他
- 『加奈 ~いもうと~』(ディーオー、1999)は病弱の義妹をヒロインに据えた作品だが、TBSの『NEWS23』の2001年2月14日放送で「美少女ゲーマーの涙」と題して、このヒロインに家族のような愛情を感じているという30代のおたく男性が取り上げられ、ネット上で大きな話題を呼んだ(2ちゃんねる内に実況中継のスレッドが残っている)(本人による、TBSの意図的な編集に対する批判も行われた)。
- 2004年、TYPE-MOONのシナリオライター奈須きのこが『空の境界』を講談社から発表した。この他にも『WHITE ALBUM』(Leaf 1998)のシナリオを手がけた原田宇陀児が、ファウストで小説を発表した。横田守、林家志弦、ひよひよのようなアダルトゲームの原画家が、少年向け文庫(いわゆるティーンズ文庫やライトノベルと呼ばれているもの)の挿絵作家や少年マンガ家を兼任する等、アダルトゲームの制作者が一般の作品に進出するケースが増えている。これがおたく層以外から受け入れられたかどうかはわからない。仕事のし易さを考え、別名義を使っている場合もある。また、逆にライトノベルの作家が筆名を変えてアダルトゲームのシナリオを書いている例もある。
- 2006年、アリスソフトが公式サイト上で『ALICEの館7』に収録されていた『しまいま。』の全編無料配布に踏みきった。新作『よくばりサボテン』の販売促進の宣伝とはいえここまで思い切った形をとるものは珍しく、新たな販売戦略としてその効果が注目された。PC NEWSによる2006年4月下半期ソフト売り上げランキングで販促対象ソフトが1位を獲得したことなどから、この無料配布は低価格路線と相まって新規購買層の開拓にある程度貢献したといえる。
- 2ちゃんねるなどで使用されるインターネットスラングとして、アダルトゲームのシチュエーションのような体験談があったとき、返しとして「それなんてエロゲ?」「sneg?」(省略形)というものがある。
- 例:A「昨日妹の部屋入ったら、ちょうど着替え中だった」 B「それなんてエロゲ?」
関連項目
- 8ビット御三家
- 黎明期において、日本国内のパソコン市場における覇権を争っていた8ビットパソコン普及に伴い、これらのパソコンを保有するアマチュア・プログラマーが盛んに同種ソフトウェアを開発・販売していた。この中には、後に大手ゲーム・ソフトウェア企業を興した人もある。
アダルトゲームに関する一覧
その他成人向け関連項目
- 成人向け漫画
- アダルトアニメ
- レイティング
- コンピュータソフトウェア倫理機構
- コンテンツ・ソフト協同組合
- コンピュータエンターテインメントレーティング機構
- 表現の自由
- 日本における性的描写を含むゲームの規制に関する議論
その他の関連項目
参考文献
- 「東大オタク学講座」、講談社刊・岡田斗司夫著 <ISBN 4-06-208292-6>
- 「萌え萌えジャパン」、講談社刊・堀田純司著 <ISBN 4-06-364635-1>
- 「趣都の誕生 萌える都市アキハバラ」、幻冬舎刊・森川嘉一郎著 <ISBN 4-344-00287-3>
- 「季刊 アニメ批評」1999年夏号 マイクロデザイン出版局刊
外部リンク
- 恒久保全スレまとめwiki 企業の離合集散についてまとめているwiki
- A History of Eroge 日本のアダルトゲームの歴史を要領良くまとめてある(英語)
- wiki:アダルトゲーム
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