カステラ
カステラ(ポルトガル語:castella)は、卵を十分に泡立てて小麦粉、砂糖(水飴)を混ぜ合わせた生地を、正方形から長方形の大きな型に流し込んで、オーブンで焼いた後に棹型に切った菓子の一つ。
目次
歴史
名前の由来はスペインのカスティーリャ王国(Castilla)のポルトガル発音カステーラ(Castela)と言われている。この原型は、中国の点心の一つであるマーラカオ(マーラーイコウ、馬拉糕)、沖縄のちいるんこう(鶏卵糕)と呼ばれる蒸しカステラ類の始祖でもある可能性が高い。
カステラはオランダ(一時スペイン領になった事がある)から製法を伝えられたためポルトガル語「pão de Castela」(パォン・デ・カステーラ、カスティーリャ地方のパンの意)や中南米似た菓子のビスコーチョが由来とされる物や、カスティーリャ地方に似たお菓子はないためポルトガルの焼き菓子である「pão de lo」(パォン・デ・ロー)が製法的に似ている事から、こちらを始祖とする説もあり、日本独特の菓子に発展、創作していったため諸説ある。室町時代末期にポルトガルの宣教師によって長崎に伝えられたとされる。当初のカステラは卵、小麦粉、砂糖で作ったシンプルな物であり、ヨーロッパの菓子類としては珍しく乳製品を用いない事から日本に残る事が出来た。カステラにはオーブンの存在が重要であり、江戸時代まではオーブンに代替する天火の開発が進められた。岐阜県の恵那市岩村町に残るカステラ(松浦軒本店)は、長方形の型に水飴を入れない生地を流し込み、上下から木炭の火で焼いたと言う(現在はオーブンを使用)。あっさりとしてさっくりとしており、天火が本格的に開発される以前の古い形を残したカステラである。 尚、日本で最初にカステラを食べた有名人は織田信長であるとの説が広まっているが、真偽については定かではない。
(松浦軒のカステラの歴史。 岩村藩郷士神谷数右衛門の長男、 名は譲、字は文礼、神谷雲澤(通称雲澤)。 安永二年(一七七三)。 叔父岩村藩医神谷宗元積善の養子となった。 一七才の時名古屋の医師佐枝玄達に入門。 儒学は同じ尾張藩の秦鼎に学んだ。 寛政八年(一七九六)二四才にて長崎へ留学。 ここで通辞小川善之丞について蘭学を修業し、 名村逸諦に西洋外科医学(蘭方)を学んだ。 二六才の時岩村へ帰郷し、医者として開業。 長崎より帰郷するに当り、 長崎カステーラの製法を学び、岩村へ伝えた。 この菓子舗が松浦軒である。 (一八二O)二月一五日四八才にて死去し、富田赤禿山に埋葬された。)
主流に於いては菓子製造の盛んだった江戸・大坂を中心にカステラの日本化と天火の開発が進められ、江戸時代中期には現在の長崎カステラの原型に近い物が作られている。長崎カステラの特徴である水飴の使用は明治以降の西日本で始められたと言われ、これにより現在のしっとりとした触感となった。西日本に於いては原型のパウンドケーキの様なさっくりとした感触が好まれなかったと見られる。伝来当時、肥前国平戸の松浦家に於いて、南蛮菓子としてカステラが宴会に出された時、その味に馴染めず、包丁方がカステラを砂糖蜜で煮たと言う逸話も有り、これが上述の「カスドース」の原型になったと伝えられている。
カステラの製法は江戸時代の製菓書・料理書に数多掲載され、茶会でも多く用いられた。その一方で、カステラは卵・小麦粉・砂糖と言った栄養分の高い材料の使用から、江戸時代から戦前に掛けて結核等の消耗性疾患に対する一種の栄養剤としても用いられていた事も有る。こうした事例によって各地に広まり、近代を経て戦後の大量生産によって一般に普及したものと思われる。しかし今尚長崎の街角には多数の自家製カステラ舗が点在し、長崎の風物に彩りを添えている。
スポンジケーキとの違い
カステラに似た物にスポンジケーキが有る(尚、スポンジケーキは卵白と卵黄をそれぞれ別に泡立てる(別立て)方法によって作られる”ヴィエノワーズ(viennoise)”と、卵白と卵黄を共に泡立てる(共立て)方法によって作られる”ジェノワーズ(genoise)”に分類される)。 カステラとスポンジケーキとの間に明確な区分は無いが、日本に於いては一般に前者には”しっとり感”を、後者には”ふんわり感”を求める傾向が強い。この為、カステラはスポンジケーキの中でもよりしっとりした食感の得られる共立て法によって作られるのが一般的であり、更にしっとり感を増す為に糖類を多めに用いたり、同じ糖類でも上白糖や三温糖等の転化糖、或いは水飴や蜂蜜と言った保水性の高い糖類が用いられる。カステラにはスポンジケーキと比べて濃い焼き色のついた物が多いが、これはこれらの糖類に含まれるブドウ糖や果糖がグラニュー糖の主成分であるショ糖に比べてメイラード反応を起こし易い事による。 カステラのスポンジ状の生地は基本的に卵を泡立てる事で物理的に取り込まれた空気が焼成時に熱膨張し、同時に生地に含まれる卵のタンパク質が熱により変性して凝固、気泡が固定化される事により形成されている。ベーキングパウダー等の膨張剤によって膨らませる事も可能であるが、これらの添加剤はカステラに求められる”しっとり感”を損なう場合が有る為、大量生産品を除けば余り用いられない。
種類
棹カステラ
一般的に「カステラ」と呼ばれている棹カステラ。
- 長崎カステラ
- 東京カステラ
- 卵の泡立て法 (共立て、別立ての違い)にて、東京~、長崎~と分ける説もあるが、長崎産のそれにもメーカーにて使い分けているので、それによる区別はできない。
また長崎カステラの特徴である底面の双目糖に関しても、双目糖を敷いた上に生地を流して造る方法と、生地攪拌の度合いにより結晶を残す方法もあるので注意が必要である。
棹カステラの製法
一般的な棹カステラの製法の種類。
- 五三カステラ
- 卵黄:卵白を5:3の割合で製造したカステラ。卵黄を多めに使用しているため高級品。熟成時間が通常のカステラより時間がかかり、かなりの技術が必要。
- 白菊焼き
- 卵白の割合を多くし、全体的に白く仕上げる。
- 黄菊焼き
- 卵黄の割合を五三カステラより多くし、全体的に黄色に仕上げる。
カステラに類するもの
一般的な棹カステラと材料や製造法が似ているもの。ここでは松風も含める。
- 味噌カステラ
- 卵と味噌を用いたカステラ。名古屋などでは、赤味噌を用いたものが土産菓子として製造されている。
- 玄米カステラ
- 玄米を用いたカステラ。
- 蕎麦カステラ
- ちいるんこう(鶏卵糕)
- マーラカオ(馬拉糕)
- 中国や香港、シンガポール等で食べられているカステラと同じ材料で作った蒸しカステラ。
カステラを応用したもの
一般的な棹カステラを応用しているもの。
- 蒸しカステラ
- カステラ風味の蒸し菓子。
- カステラ饅頭
- ロールカステラ
- カステラ生地でクリームなどをロールケーキ状に包んだ菓子。
- 人形焼
- 会津葵[1]
- タルト
- 八雲小倉
- 島根県の銘菓。
- カスドース
- かす巻
- 桃カステラ
- 銀装のカステ
- 長崎カステラを洋菓子化した菓子。
- 花カステラ
- 花の形に拵えたカステラ菓子。
- 十三戸
- シベリア
- 三角形に切り取ったカステラで羊羹を挟んだ菓子。大正から昭和にかけて、ミルクホールなどで流行する。
- 鈴カステラ
- 鈴型のカステラ菓子。
- 花串カステラ
- 団子のようにカステラを串に刺した菓子。
- チョコカステラ
- カステラをチョコレートでコーティングした菓子。
- バナナカステラ
- かもめの玉子
- 岩手県の銘菓。玉子型のカステラ風味の生地で黄身餡を包み、ホワイトチョコレートでコーティングした菓子。
カステラを模したもの
一般的な棹カステラと容姿が似ているもの。主な特徴は、卵を使用し、四角形に仕上げたもの。
- 豆腐カステラ
- 豆腐の蒸菓子。豆腐かまぼこ。豆腐のすり身に鶏卵と砂糖などを混ぜ、布で四角形に成型し、蒸し上げ、片面に焼き目をつけ、カステラのように仕上げる。秋田県南地方で正月や冠婚葬祭のときに作られる。
- カステラ焼
- 岡山県の高級焼蒲鉾。魚のすり身に鶏卵と砂糖などを混ぜ、片面に焼き目をつけ、カステラのように仕上げる。
- カステラ鳥
- 鶏肉の創作料理。鳥のすり身に鶏卵などを混ぜ、片面に焼き目をつけ、カステラのように仕上げる。
- カステラ芋
- 長芋の創作料理。長芋のすり身に鶏卵と砂糖などを混ぜ、片面に焼き目をつけ、芥子を振掛け、カステラのように仕上げる。
- カステラ卵・カステラ玉子
- 厚焼玉子。鶏卵に砂糖、小麦粉、山芋などを混ぜ、片面に焼き目をつけ、カステラのように仕上げる。
その他
上記にいずれにも属さないもの。
主なメーカー
- 文明堂(ぶんめいどう)[2]
- 福砂屋(ふくさや・「福」の字は正式には旧字体)[3]
- 松翁軒(しょうおうけん)[4]
- 長崎堂(ながさきどう)[5]
- 銀装(ぎんそう)[6]
- 一六本舗(いちろくほんぽ)[7]
- 松山市の郷土菓子メーカー。タルトと並ぶ主力商品として製造販売。
- 匠寛堂(しょうかんどう)[8]
- 長崎市魚の町。「献上 五三焼」が有名。毎年皇室、宮家へ献上している。眼鏡橋そば。
- ハタダ(畑田本舗)[9]
- 愛媛県新居浜市の菓子メーカー。タルトをはじめ、カステラも製造販売している。
呼び名
カステラは、以下の様々な呼び名がある。(カッコ内は読みと主な文献。)
- かすていら
- かすてらぼうろ
- かすていい
- カステ
- カステホウロ
- カステーラ
- カステイラ
- カスティラ
- カステイリヤ
- 粕貞羅
- 粕亭羅
- 粕底羅
- 加寿底羅
- 加須底羅(『和漢三才図会』)
- 家主貞良
- 春庭羅
- 角寿鉄胃老
- 加寿天以羅
- 粕ていら
- 糟ていら
- 卵糖(夏目漱石『虞美人草』)
- 迦西郎(キアスイラン。『蘭説弁惑』)
関連項目
外部リンク
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