ゆとり教育
ゆとり教育(ゆとりきょういく)とは、日本において、知識重視型の教育方針を詰め込み教育であるとして学習時間と内容を減らし、経験重視型の教育方針をもって、ゆとりある学校をめざした教育のことである。
目次
概要[編集]
ゆとり教育は1980年度、1990年度、2000年度から施行された学習指導要領に沿った教育のことであり、小学校では1980年度から2010年度、中学校では、1981年度から2011年度、高校では1982年度から2014年度(数学及び理科は2013年度)まで施行された教育である。
ただし、1980年度、1990年度から施行された学習指導要領による教育と2000年度から施行された学習指導要領とを区別する人もいる。また、1992年度から施行された新学力観に基づく教育をゆとり教育という人もいる。
まず1970年代に日本教職員組合 (日教組) が「ゆとりある学校」を提起をし、国営企業の民営化を推し進めた第2次中曽根内閣の主導のもとにできた臨時教育審議会(臨教審)で、「公教育の民営化」という意味合いの中で導入することでゆとり教育への流れを確立し、 文部省や中教審が「ゆとり」を重視した学習指導要領を導入し、2000年度から実質的に開始された。
「ゆとり教育」はその目的が達せられたかどうかが検証ができない状態の中、詰め込み教育に反対していた日教組や教育者、経済界などの有識者などから支持されていた一方で、それを原因として生徒の学力が低下していると指摘され、批判されるようになった。
中山成彬文部科学大臣は、中央教育審議会に学習指導要領の見直しを要請し、さらに安倍内閣の主導のもとに、ゆとり教育の見直しが着手され、2008年には、今までの内容を縮小させていた流れとは逆に、内容を増加させた学習指導要領案が告示され、マスコミからは「脱ゆとり教育」と称されている。
ゆとり教育の経緯[編集]
■ : 1971年(昭和46年)からの学習指導要領
■ : 1980年(昭和55年)からの学習指導要領
■ : 1990年(平成2年)からの学習指導要領
■ : 2000年(平成12年)からの学習指導要領
■ : 2011年(平成23年)からの学習指導要領
年 | 出来事 |
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1972年 | 日本教職員組合が、「ゆとり教育」とともに「学校5日制」を提起。 |
1977年-1978年 (1980年) |
学習指導要領の全部改正。
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1984年 | 第2次中曽根内閣のもとにできた臨時教育審議会(臨教審)がゆとり教育の方針に取り組む |
1985年-1987年 | 中曽根政権臨時教育審議会が「個性重視の原則」「生涯学習体系への移行」「国際化、情報化など変化への対応」などの、ゆとり教育の基本となる4つの答申をまとめる。 |
1989年 (1992年) |
学習指導要領の全部改正。 |
1990年 | 4月から第2土曜日が休日に変更。 |
1995年 | 4月からはこれに加えて第4土曜日も休業日となった。 |
1996年 | 文部省・中教審委員にて「ゆとり」を重視した学習指導要領を導入。 |
1998年-1999年 (2000年) |
学習指導要領の全部改正。 |
2003年 | 一部学習指導要領が改正される。 |
2004年 | OECD生徒の学習到達度調査(PISA2003)、国際数学・理科教育調査 (TIMSS2003)の結果が発表され、日本の点数低下が問題となる。 |
2005年 | 中山成彬文科相、学習指導要領の見直しを中央教育審議会に要請。 |
2007年 | OECD生徒の学習到達度調査(PISA2006)の結果が発表され、日本の点数低下がさらに問題となる。
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2008年 | 国際数学・理科教育調査(TIMSS2007)の結果が発表され、学力低下の下げ止まる。 |
2010年 | OECD生徒の学習到達度調査(PISA2009)の結果が発表され、学力が上昇する。 |
2008年 (2011年) |
学習指導要領の全部改正。
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ゆとり教育の経緯[編集]
ゆとり教育の変化[編集]
校内暴力、いじめ、登校拒否、落ちこぼれなど、学校教育や青少年にかかわる数々の社会問題を背景に、1996年(平成8年)7月19日の第15期中央教育審議会の第1次答申が発表された。
答申は子どもたちの生活の現状として、ゆとりの無さ、社会性の不足と倫理観の問題、自立の遅れ、健康・体力の問題と同時に、国際性や社会参加・社会貢献の意識が高い積極面を指摘する。その上で答申はこれからの社会に求められる教育の在り方の基本的な方向として、全人的な「生きる力」の育成が必要であると結論付けた。
政府の方針転換[編集]
2005年(平成17年)、中山文科相が中央教育審議会に学習指導要領の見直しを指示した。
2007年(平成19年)10月30日の中央教育審議会答申ではゆとり教育による学力低下を認め反省し、授業日数及び算数・数学、理科、外国語の授業時数増加を提言した。
ほかには教育再生会議(内閣府設置会議)が出した報告書(第1次:2007年(平成19年)1月24日 第2次:2007年(平成19年)6月1日)において、「授業時間の10%増(必要に応じて土曜日授業の復活)」などが盛り込まれている。
2008年(平成20年)2月15日、文部科学省は諮問機関「中央教育審議会」が前月に出した答申に沿い、2011〜2012年度から授業時間を全体で3〜6%、理数系に限れば2009(平成21)年度から前倒し実施で15%ほど増加させた指導要領改定案を発表した。なお、高校の指導要領改定案は2013年度の第1学年から、理数系に限れば2012年度の第1学年から学年進行で実施される予定。
ゆとり教育と関連するものの経緯[編集]
- 学校週5日制
1990年4月に公立学校において、第二土曜日が休日となったのから始まり、1995年度から第四土曜日、そして2000年度からは全ての土曜日が休み(完全学校週5日制)となった。このことは、学校教育法施行規則(第六十一条)にも決められており、2011年現在も、公立学校においては、基本的に全ての土曜日が休みである。
また、文部科学省は、完全学校週5日制について、生きる力をはぐくむために必要であるとしている。
- 総合的な学習の時間
1998年の学習指導要領の改正のときに新しくできた科目で、2000年度以降から開始された。その後、2008年の学習指導要領が改正され、新しい学習指導要領で、この総合的な学習の時間の授業時間が削減されることとなった。
ゆとり教育の結果[編集]
ゆとり教育(ここでは平成10年度から11年度にかけて告示された指導要領を指す)は学力低下を引き起こすと懸念されていたが、成果については(文部科学省内においてすら)確定的な評価はない。学力の上昇を示すもの、低下を示すという両方の例が見られる。
OECD生徒の学習到達度調査(PISA)[編集]
2004年12月に発表された「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)2003では、読解力は8位から14位へ、数学リテラシーは1位から6位へ(統計的には1位グループ)、科学的リテラシーは2位のまま(同1位グループ)という結果となった。
2007年12月に発表された「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)2006では、読解力は14位から15位へ(統計的には9〜16位グループ)、数学的リテラシーは6位から10位へ(同4〜9位)、科学的リテラシーは2位から6位へ(同2〜5位)へと全分野で順位を下げる結果となっている。2003年と2006年で共通に実施された(同一)問題48題について、平均正答率は03年が56.1%、06年が53.4%であり、約2.7%低下していた。正答率の比較では、06年は03年より、上回った問題が8問、下回った問題が40問だった。そのうち5ポイント以上、上回った問題が1問、下回った問題が10問であった。
2010年12月に発表された「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)2009では、読解力は15位から8位へ(統計的には5〜9位グループ)、数学的リテラシーは10位から9位へ(同8〜12)、科学的リテラシーは6位から5位へ(同4〜6位)へと全分野で順位を上げる結果となっており統計的に、読解力に関して有意に上昇していることが示された。また、同一問題について正答率をPISA2006とPISA2009を比較すると、読解力では58.4%から61.7%、数学的リテラシーでは51.9%から54.4%、科学的リテラシーでは59.5%から61.8%であった。
国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)[編集]
ゆとり教育見直しの機運が高まるきっかけとなった国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2003 2003年にIEA(国際教育到達度評価学会)が実施)では中学2年生の数学は前回のTIMSS1999年よりも9点、前々回のTIMSS1995よりも11点、いずれも有意に低くなっており(順位は5位のまま)、数学が楽しいと思う者の割合も減少している。
国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2007)では、前回のTIMSS2003の結果よりも平均得点が全て上回っているという結果となった。
小・中学校教育課程実施状況調査[編集]
一方で、平成15年度 小・中学校教育課程実施状況調査(2003年に文部省に属する国立教育政策研究所が実施)では多くの学年、教科で、前回調査と同一の問題については正答率が有意に上昇した設問が、正答率が有意に下降した問題よりも多かった。特に、小学生と中学3年生の学力向上が顕著で、理科では前回より正答率が上昇し、アンケートで「勉強が好き」「どちらかというと好きだ」と答えた子の割合は増加傾向にある。
泣き出す受験生続出 長野県公立高校入試[編集]
長野県下の高校受験生が悲鳴を上げた2012年3月7日に行なわれた公立高校入試の数学の設問が異様に難しく、自信をすっかりなくした受験生が試験会場や廊下で泣き出すケースが続出した。長野県内の中高生向け学習塾の数学講師があきれる。
「中学3年生には難しすぎる! 県内で使用されているすべての数学教科書をチェックしたわけじゃないけど、少なくとも私が受け持っている中3生の教科書にはこんな難問、どこにも載っていませんよ。これでは数学で点数を稼ぐつもりでいた生徒にとって、あまりに不利です。公立高校の入試はあくまでも、生徒が教わった範囲で解ける問題を出すべきじゃないですか?」
自信喪失のあまり、その後のテストを投げてしまうケースもあったという。
「当日は数学の後に社会、理科、英語のテストが予定されていました。ところが、あまりにも数学のデキが悪すぎたため、もはや合格は望めないと、その後のテストを解く気力をすっかりなくした生徒もかなりいたと聞いています」(長野県内の公立中教諭)
そのほかにも、テスト翌日からぷっつりと学校に来なくなってしまったケース、その後の私立高校のテストがメロメロになってしまったケースなども報告されている。
これじゃ選抜のためというより、自信喪失のためのテストだ。事態を重く見た長野県教職員組合は3月16日、県教育委員会へ抗議文を出すに至った。長野県教職員組合の担当者が語気を荒らげる。
「県内の20%ほどの中学校を聞き取り調査したところ、ほとんどの学校でテスト中に生徒が泣き出したなどのケースが報告されました。難問出題の背景には、全国学力テストがあったと考えています。というのも、この全国テストで長野県の中学生は応用問題のデキがよくなかった。そこで教育委員会は応用問題をきちんと解けるようになってほしいと、あえてこんな難問を出したのでしょう。とはいえ、ここまで受験生を戸惑わせる出題は問題です
社会的な見解[編集]
支持[編集]
元文部省官僚である寺脇研は、当時の文部省の考えを代弁するスポークスマンとしてメディアに出て、ゆとり教育について説明を行っていた。
作家の三浦朱門は2000年7月、ジャーナリストの斎藤貴男に、ゆとり教育について、新自由主義的な発想から、数少ないエリートを見つけて伸ばすための「選民教育」であるという主旨を述べ、「出来ん者は出来んままで結構、エリート以外は実直な精神だけ持っていてくれればいい」、「限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです」、「魚屋の息子が官僚になるようなことがあれば本人にも国民にとっても不幸になる」などと述べた。
また、三浦は教育課程審議会において、ゆとり教育について「私は今まで数学が私の人生に役立ったことは無く、大多数の国民もそうだろう」とゆとり教育を推進する当時の文部事務次官の意向に沿った発言を行なった。
知識偏重の詰め込み教育を批判していた教師や保護者などの他にも、経済同友会などの経済界や、学者、弁護士をはじめとする識者などの民間人が参加した「21世紀日本の構想」懇談会(小渕恵三内閣総理大臣の私的諮問機関)でも、ゆとり教育を支持していた。「21世紀日本の構想」懇談会の第5分科会は2000年(平成12年)1月に提出された最終報告書の中で、教育への市場原理導入の観点から、義務教育週3日制と教科内容を5分の3にまで圧縮することを提案した。
批判[編集]
All Aboutによると、過去に出題された同一問題の正答率を比較した結果、読解力、科学的リテラシー、数学的リテラシーのすべてにおいて、PISA型学力が下がり続けていることがわかっている。
また、自分がやりたいことだけをやればいいという考えを教え、その考えを教えた世代にさまざまな人格的影響を与えたという批判もある(新学力観も参照 )。
擁護[編集]
第3期の教育改革(2000年度実施された学習指導要領改正)は始まったばかりで、ゆとり教育の評価は時期尚早だという意見もある。
批判に対する反論[編集]
『学力低下は錯覚である』(森北出版株式会社)を著した神永正博は、自身のブログで、「根拠がはっきりしないことで、若者をディスカレッジしない方がよいのでは」と補足している。
早稲田大学教授の永江朗は自身の執筆したコラム記事の中で、PISAの順位の低下は「参加国が増えたため」とも、冷静に分析すれば考えられると述べ、「PISAの結果が少し落ちていたぐらいで大騒ぎする理由がわからない」と教育社会学の専門家が疑問を呈しているということを紹介している。
元東京大学総長の有馬朗人はゆとり教育によりむしろ理科の力が上がった、と述べている。
広島大学教授の森敏昭はIEA(国際教育到達度評価学会)の調査結果を検討した上で「我が国の児童・生徒の学力は、今なお高い水準を保っている。(中略)「我が国の小・中学校段階の児童・生徒の学力は、全体としておおむね良好である」という文部科学省のいささか楽観的すぎるコメントも、あながち的はずれではない。」と述べている。
総合的な学習の時間[編集]
ゆとり教育によって導入された「総合的な学習の時間」は教員や児童・生徒の力量・意欲が高い場合は成功しやすく、そういった要素に左右されるという欠点を持つとされる。ただし、基本的に総合的な学習時間の何を成功・失敗の評価基準とするのかという問題も存在する。
実際、総合的な学習の時間を有意義に使う学校もある一方で、単に不足している授業時間の補完など評価基準のはっきりした伝統的科目の学力向上に使うなどというケースも少なくなかった。また、基礎学力が低い生徒は「総合的な学習の時間」の目的とされる、「主体的に考える力」なども低くなる傾向があるという指摘もある。
受験産業の反応[編集]
改訂された学習指導要領の内容が明らかになると、学習塾や進学予備校などの受験産業や、私立学校(特に中高一貫校)は活発な営業活動を行った。マスコミ媒体などに頻繁に登場した西村和雄京都大学教授などの言説を論拠に、「ゆとり教育」に対する危機感を訴えることによって、親の不安を煽り、活発に児童・生徒の勧誘活動を行った。 折込チラシ、CMや電車内のドア周辺や吊り広告などの広告活動や、自らがスポンサーとなっているテレビ番組内などで、「小学校では円周率をおよそ3として教えている(正確にはゆとり教育のため小数点による計算が遅れたため幾何学において概算に3を使うようになったため)(日能研)」、「ゆとり教育で学力低下を引き起こす」「あなたの子供の将来が危ない」など、あるいは、学習時間の多寡を基準に、日本よりも学習時間が長いイタリアなどが、PISAでは日本のはるか下位に位置しているのにも拘わらず「世界の子は勉強している(栄光ゼミナール)」といい、教科の好き嫌いを基準に、算数の好きな子の割合がイランが1位、日本は24位で日本の教育がダメだといい(栄光ゼミナール)、統計値を恣意的につまみ食いした正確性・客観性に欠ける情報で危機感を煽ったり、この種の営業活動を行った事例もある。学習塾などがこういった営業活動を行った理由として、子供が減るために学習塾間で「パイの奪い合い」が発生していたことがある一方で実際に学力の低下が国際機関の調査で明確に顕著となったことも考慮すると親が子供の学力維持に塾に頼らざる得ない状況が生まれたともいえる。ゆとり教育への不信を背景とした中学受験ブームは、2008年(平成20年)頃まで右肩上がりで続いた。
一部の公立校では、塾の教師やスタイルを取り入れて学校教育を変えようという試みもしている。一例としては杉並区立和田中学校(校長の藤原和博、後任の代田昭久、共にリクルート出身)にて2008年(平成20年)1月に行われた「夜スペシャル」(通称〝夜スペ〟)があり、これは成績上位者のみを対象に、名門進学塾サピックスの講師を派遣して有料(1万円〜2万円)で授業を行う(学校が運営しているわけではなく、保護者の有志団体による運営形式)。
さらには、都立高校などが「総合的な学習の時間」のカリキュラム作成にもたついている間に、日能研を初めとする一部の塾は
- 「自ら学び考える力を育てる授業。『総合学習』そのものだ」と「総合的な学習の時間」を商品として提供を始めている。私立学校や中高一貫校の入学試験が、PISAに似たものになってきているからだ。
世界の類似例[編集]
デンマーク[編集]
ゆとり教育をすすめていたデンマークでも、OECD生徒の学習到達度調査 (PISA) の結果が下がり、学力低下が議論になった。教育改革として、義務教育の1年早期化などが議論されている。学校の現場では学力向上を目指した教育改革に反発があるものの、生徒の親は学力低下への不安が強いようである。
フィンランド[編集]
OECD生徒の学習到達度調査(PISA:数学・科学・読解力の3教科のみ)においてトップの成績をあげ、全ての項目で日本を上まわったフィンランドは週休二日制であり、授業時間も日本よりかなり少なく、また、「総合的な学習」に相当する時間も日本より多く、「ゆとり教育」に近い内容である。
具体的な中身として一つは、中学校の教育に特筆されるのは三分の一にわたる(成績の低い)生徒が特別学級に振り分けられるか、補習授業をうけていることがある。低学力の生徒に対する個別の教育により底辺の学力を上げるだけでなく、優秀な生徒にはそれ相応の特別な教育がおこなわれている。つまり、生徒の能力の違いを前提にして全体の学力を上げている。生徒の個別の能力差に沿った教育が行われているため、無理に能力の低いものを能力の高い授業に適応させる必要がないために「遅れる」ことはあっても「落ちこぼれる」ということはない。特定の基準を満たさない生徒にそぐわない授業内容を押しつける必要がないから「ゆとり」があるわけである。
また、高校入学は中学の成績に基づいて振り分けが行われており、よい高校やよい課程に入学するには中学でよい成績をおさめなければならい。
他には、授業の組み立て方や教科書の選定など、教育内容の大部分を現場の裁量に任せられているという特徴もある。
このようなシステムがフィンランドにはあるため、フィンランドで講師を務めたこともある中嶋博早大名誉教授は、落ちこぼれをつくらず楽しんで学ぶ教育がフィンランドの教育であると述べており、フィンランドに留学経験のある者は、中高一貫の学校が多いため、(中学)受験を気にせずじっくりと学習に取り組む事ができ、学習への理解が不足している、いわゆる「落ちこぼれ」の生徒は義務教育中であっても、じっくり教育を受けるシステムが確立されていると述べている。
脱ゆとり教育[編集]
2008年に改訂された学習指導要領のことを脱ゆとり教育と呼ぶ者もいる。小学校では2009年度に一部前倒しで行われ、2011年度より完全実施される。中学校では2009年度に一部前倒しで行われ、2012年度に完全に行われる。高校では2012年度の入学者から一部前倒しで行われ、2013年度の入学者からは完全に行われる。この改訂後の学習指導要領では、授業時間・内容の削減を行ってきたゆとり教育とは逆に内容を増やし、授業時間を増加させる教育となっている。具体的には、小学校では278時間、中学校では105時間ゆとり教育の授業時間よりも増加し、47都道府県の名称や位置や台形の面積の公式、縄文時代、イオンなどの内容が追加される。小学校で2011年度から使われる教科書は、マスコミから「脱ゆとり」と騒がれ、全教科で前回(2004年の検定)よりも25%、ゆとり全盛期(2001年の検定)より43%ページ数が増えたことが、文部科学省の2011年度から使われる小学校の教科書検定の結果の発表でわかった。
しかし、PISA2009で学力が回復したことから、脱ゆとりはもっと前からすでに始まっていたという声もある。
さらに国は依然として週5日制堅持の方針は変えていないが、東京都などでは、改訂後の学習指導要領実施に合わせて、一般の公立小中学校での土曜授業の復活容認など、学校週5日制についても見直す動きが出ている。
また、ゆとり教育とともに採用された評価方法である絶対評価については、脱ゆとり教育においても見直しは行われず、2011年以降もそのまま継続されている。
脱ゆとり教育は、ゆとり教育での問題を解決するために作られたのだが、うまく対応できなければついていけない子どもが増えるのではないかと懸念するものもおり、また、暗記や暗唱が中心の教育に戻したり授業時間を増やしたりする方法では日本の教育が抱えている諸問題は解決できないと述べている者もいる。
受験産業の反応としては、学習内容が多くなる、難しくなるという部分を押し出しており、ゆとり教育時の反応とは違う反応を示している。
大学入試センターは学力の幅が広がっており、1種類の試験では学力をはかることが難しくなっているなどを理由にして、2013年度以降実施される学習指導要領にて高校教育を学んだ高校3年生が受験する2016年を実施目標に、大学入試センター試験において難易度別に2種類の試験にすることを検討している。
関連項目[編集]
- 学習指導要領 - 詰め込み教育 - 新学力観 - 生きる力 - 学習:秘められた宝
- 総合的な学習の時間 - 生活 (教科)
- 学校週5日制
- 絶対評価 - 相対評価
- 教育社会学 - 教育問題
- 学力 - 学力低下 - 教育格差
- OECD生徒の学習到達度調査(PISA)- 国際数学・理科教育調査(TIMSS)
- 中央教育審議会 - 文部科学省 - 日本教職員組合
- 寺脇研
- 円周率は3
- ゆとり世代
- 脱ゆとり教育
参考文献[編集]
- 神永正博 『学力低下は錯覚である』(森北出版株式会社,2008年,ISBN 978-4-627-97511-8)
- 斎藤貴男 『機会不平等』(文藝春秋,2000年,ISBN 4-16-356790-9)
- 小川洋 『なぜ公立高校はダメになったのか―教育崩壊の真実』(亜紀書房,2000年,ISBN 4-7505-9903-4)
- 寺脇研 『21世紀の学校はこうなる―“ゆとり教育”の本質はこれだ』(新潮社 新潮OH!文庫,2001年,ISBN 4-10-290067-5)
- 西村和雄 『ゆとりを奪った「ゆとり教育」』(日本経済新聞社,2001年,ISBN 4-532-14916-9)
- 苅谷剛彦 『教育改革の幻想』(筑摩書房,2002年,ISBN 4480059296)
- 和田秀樹 『「ゆとり教育」から我が子を救う方法』(東京書籍,2002年)
- 藤原和博 『公教育の未来』(ベネッセコーポレーション,2002年,ISBN 4-8288-3712-4)
- 苅谷剛彦 『なぜ教育論争は不毛なのか』(中央公論新社,2003年)
- 藤田英典 『義務教育を問いなおす』(筑摩書房,2005年,ISBN 4-480-06243-2)
- 陰山英男 『学力の新しいルール』(文藝春秋,2005年,ISBN 9784163674803)
- 山内乾史・原清治 『リーディングス 日本の教育と社会1 学力問題・ゆとり教育』 (日本図書センター,2006年,ISBN 4284301160)
- 伊藤敏雄 『誰も教えてくれない教育のホントがよくわかる本 ゆとり教育になって学校はどうなった?』 (文芸社,2006年,ISBN 4286009548)
- 寺脇研 『それでも、ゆとり教育は間違っていない』(扶桑社,2007年,ISBN 978-4-594-05464-9)
- 寺脇研 『さらば ゆとり教育 A Farewell to Free Education』(光文社,2008年,ISBN 978-4-334-93428-6)
- 藤原幸男 「ゆとり教育」改革と学力 [1]