絞殺
絞殺(こうさつ)とは、ネクタイやコード、紐などを首に巻き、あるいは手で絞めることによって死亡するのを絞死といい、他殺による場合を絞殺という。大部分が他殺である。絞殺死体には、窒息死体の一般所見のほかに、顔面のうっ血、腫脹が強く、眼の結膜や顔面皮膚に著明な溢血点がある。
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弱点としての頸部[編集]
首が命とつながって考えられる理由は、個体の命を頭が握っているためである。個体の生命はそれを構成する細胞の生命に基づくが、高等な動物ではそれを統括する役割を神経系と内分泌系、およびその役割の中枢としての脳が果たしている面が大きい。しかし、実際にその体を養っているのは消化系や循環系などであり、それはほぼ胴体が担っている。そのため、頭部を胴部と切り離せば個体の生命は維持できない。つまり、それらをつなぐ部分である首を切り離すことは、確実に個体の生命を失わせる行為である。
頸部には、頭部からは
が、また胴体からは
が、狭くなった部分に含まれる。したがって、首は強度的には他の部分より劣った弱点である。例えば首の周りを締め付けることは、呼吸を止めたり血行を止めたりすることでたやすく相手を制圧することができる。このためにひもを首に巻くような首を絞めるというのは、きわめて有効な手段であるが、あまりにも致命的であるために格闘技においては禁じ手である場合が多い。また、自殺する場合にもこれは有効であり、自らの体重が首にかかるよう、輪の中に首を入れ、ひもでぶら下がることで自らの首を絞めて自殺することを首吊り自殺という。格闘技などにおいては首の強化は重要なものである。柔道の絞め技は、血行を止めることで相手を昏倒させることを目的とする。
窒息の症状と経過[編集]
窒息に陥った場合速やかに応急措置を加えなければ患者は仮死状態、死へと向かう。死亡までの主な症状の推移として 呼吸困難→チアノーゼ→呼吸停止の経過をとる。
第I期、数秒~数十秒[編集]
血中の酸素、二酸化炭素濃度に異常が生じ、症状が現れるまでの期間、息切れ、軽い呼吸困難を伴う、症状はまだ弱い状態。
第II期、30秒~[編集]
急性呼吸困難、チアノーゼ、血中の二酸化炭素濃度は急激に上昇する。血圧、脈拍の上昇、さらに進行すると痙攣、脱糞を伴う。激しくのた打ち回る。
第III期、60~90秒[編集]
意識の消失、昏睡状態、筋肉の弛緩、仮死状態に陥り、これより進行すると回復は望めない。
第IV期、1分[編集]
呼吸中枢の機能停止、末期状態、喘ぐように10回ほど呼吸を試みた後に呼吸が止まる。これをチェーンストーク(終末呼吸)と呼ぶ。
第V期、数分~15分[編集]
心肺停止、死亡するまではさらに30分ほど要する。
絞殺死体の特徴[編集]
死斑は死後早く、広範囲に現れる。死斑の色は暗い紫色である。絞殺された場合は顔面は腫れており、うっ血が見られる。首吊り死体の場合、うっ血はあまりみられない。うっ血は、内臓などにも見つけることができる。小血管が破け、溢血点が内臓、結膜、その他粘膜にみられる。
他殺、自殺[編集]
自殺と他殺を区別するものに、縊死(いし)、絞死、扼死がある。
縊死[編集]
縊死の場合は、簡単に分けて定型的縊死と非定型的縊死がある。両者の主な特徴の違いは、索状体のかかり方にあり、定型的縊死が、全体重がかかっているのに対し、非定型的縊死の場合は、体重の一部がかかっている程度の状況を見る。成人の縊死の自他殺の頻度としては、自殺が普通であり、事故死の場合は、乳幼児が多い。定型的縊死の場合は、頚部を吊り下げた状況から、典型的な顔面蒼白と下肢に死斑がみられる。また、索条体が、索痕と一致しない場合は、他殺を疑う。
絞死[編集]
体重以外の力による頚部圧迫。この場合は、大部分、他殺である。索痕が、水平に周回しており、顔面がうっ血し、腫脹、縊血点がみられる。また、甲状軟骨、輪状軟骨の骨折がみられる。ごくまれに自殺によるものもある。この場合、「自絞」という。
扼死[編集]
手、まれに前腕部による圧迫で、全て他意による。すなわち、この場合は、全例、他殺である。従って、扼殺と言い換えても差し支えない。指頭による皮下出血、爪による表皮剥奪が特徴である。また、絞死と同様、顔面・結膜の腫脹、縊血点がみられ、甲状軟骨、輪状軟骨の骨折がみられる。
関連項目[編集]