発展場
発展場(はってんば)とは、一部の男性同性愛者が、特定または不特定多数の性行為の相手を求めて集まり、性行為を行う場所。カタカナでハッテンバと表現されることが多い。英語での総称としては「Gay cruising spot」が比較的一般的な表記のようである。
発展場には、男性同性愛者専用の性風俗産業として店舗営業をしている有料系発展場と、公園や河川敷、公衆便所といった公共の場に集まり猥褻性の高い性行為を行い、迷惑行為や違法行為ともなる発展場(違法系、野外系などと呼称される)に大別される。
この項では、公共の場所における男性同性愛者のハッテン(性行為)およびハッテンの行われる場所について記す。有料系については「クルージングスペース」を参照のこと。
2011年10月の東京・北新宿の「デストラクション」の摘発依頼、発展場の規制論が強まっている(後述)。
目次
概要[編集]
かつては、不特定多数の性交相手と性行為する目的でなく、男性同性愛者にとって出会いの機会は一部の会員制スナック・バーや、このような場所に限られていた。すなわち男性同性愛者は同好の志を持つ男性同性愛者を識別し、それと知り合う事が容易ではなく、その為、男性同性愛者に関しては特に、ハッテン場に類するシステムが必要とされていた。このため、男性同性愛者は性欲が旺盛であると言う誤解が一部に産まれることとなった。また夜の公園はかつて「アベック」と呼ばれ、今日よりもずっと質素な男女のカップルらが、愛を育む場所としても暗に周知されていた。「ハッテン場」という通称が男性同性愛者に認知される以前は、単に「公園」やその場所の固有名詞を用いていた。
ハッテン場が男性同性愛者が不特定多数の性行為の相手と性行為するためだけの場所になっていった経緯とその要因には、そうした男女のカップルと違い、出会いの後、親密で継続的な付き合いや、共同生活に発展することを依然、許容しない社会的状況があることは否定できない。また、一般市民を自認する人々が男性同性愛者に対して持つ偏見を、当の男性同性愛者もまた同じように持っていることもある。
日本では法的に「性交」は男女による異性間のみに存在する行為とされるため、同性間性接触は「性的行為」「性行為」ではあっても「性交」とは見なされない。そのため現在の時点で日本国内での同性間性接触を「性交」と表すのは間違いである。さらに「不法占拠」とは専ら所有権限の無い場所に移動の困難な生活用具、仮設物や建造物を設置する「占拠物」や、そこで寝泊まりするなどの「占拠者」に対する民法上の用語でもある。
語源[編集]
異性愛者の男性で酒や男女の交友関係、交遊が広く盛んな人を指して「発展家(はってんか)」と呼ぶが、「発展場」に使用される「発展(はってん)」の意味合いと共通点がある。ただし「ハッテン場」という語が同性愛者たちに浸透していく年代とこの「発展家」という語が広く使用されていった年代が重なるため、どちらが先であるかは不明である。またなぜ「発展」が当てられたのかについても定かでない。
また「面識のない不特定多数の者と性欲のみの繋がりで性行為をするまでに関係が "発展" する」が語源といわれるが、これは「発展」の部分が「進展」でも「成立」でも差し支え無く、内容も「発展」という語を用いて一面的な状況説明をしただけとも取れ、由来としての説得力も希薄である。
ほかにも諸説あるが、中でも、「今後とも貴社のより一層のご発展をお祈り申し上げます。」という、言い回しの挨拶があるが、戦後の復興が一段落した1960年代には主に起業家や社長業等の人々の酒の席などでは、旧華族由来の「ご機嫌よう」に代えて「ご発展を」と別れ際に挨拶することも増えたらしい。そのような立場の男性同性愛者が、男性同性愛者同士の集いと情報交換の場であった、当時の会員制スナック・バーにおいても同じく、仲間を見送りするさいに「ご発展を」と挨拶していたのだという。古い例では1963年の『風俗奇譚』に「全国ホモのハッテン場」という記述が確認できる。
東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)以降の高度成長期に文化、経済が目に見えて発展していったが、そうした時代の雰囲気をよく反映した言葉でもあり、東京の一部の男性同性愛者たちは同じように挨拶するようになったらしい。そのうちに「発展=ハッテン」は、その言葉を受け止める個人個人が、夢の実現や「願望の実現」との意を込めた洒落言葉だと受け止めるようになったという。男女の交友関係、交遊が広く盛んな人を指す「発展家(はってんか)」も、自らの願望を叶えることに積極的な人であるのは間違いないため、「発展」の語を「願望の実現」と同義に用いるならば両者に共通したものとなる。
出会いの場も方法もまだ少なかった当時は、「良い出会い」「末永いお付き合い」「好みの相手とのお楽しみ」など様々な願望の実現に繋がる場所、すなわち「発展」を期待できる様々な場所を誰言うとも無く「発展場」と呼称するようになったという。
1971年、創刊されたゲイ雑誌「薔薇族」や、相次いで創刊された「アドン」「さぶ」により、雑誌記事を通じて「発展(ハッテン)場」の通称は全国の同性愛者に広まり、現在に至っているとされる。
なお、かつては「事務所」と呼ばれており、1960年代後半にはハッテン行為を黙認または奨励する旅館を「淫乱旅館」と呼称していた。
ハッテンが行われやすい場所[編集]
主に夏季、人通りの少ない公園、海岸、河川敷、公衆浴場、映画館などで、夜間にハッテン行為が行われているといわれている。ハッテン行為が行われないよう、対策として、夜間でも照明を点灯する、性行為が行われやすい公衆トイレを閉鎖する、パトロールするなどの対策がとられた公園もある。ただし、郊外の大型公園などでは昼間にハッテン行為が行われている場合もある。
冬季、特に寒冷な地域では、野外の発展場での性行為が行われる頻度は減少すると考えられるが、公園の駐車場などでカーセックスを行う者もいるといわれている。しかし、これは必ずしも男性同性愛者に限ったことではない。またカーテンやカーシェイドなどで、全体または大部分が外部に見えないよう対処がなされている場合、異性間、同性間の行為にかかわらず、当事者に告知することなく車内を確認することはプライバシーの侵害に該当する恐れもある。
また、規模の大きい駅の構内のトイレや、駅に隣接する商業施設等のトイレが発展場として利用された事例も多い。いずれのケースも警備員の巡回を増やす、警告の張り紙を張るなどして発展行為の撲滅がなされている。
公衆浴場での違法なハッテン行為もあとを絶たない。この場合においてはシャンプーの容器に電話番号を記して交換するなどのハッテン行為が見られた。特に、宿泊可能な仮眠室を持つ公衆浴場でわいせつ行為を行う者に対して一般利用者の苦情がある等として、公衆浴場側でも見回りを強化する、男性職員をおとりとして入浴・休憩させるなどの対策がとられている。公衆浴場は、一般的な入場規則として「他のお客様のご迷惑になる行為」を禁止している場合が多く、公然わいせつ行為を行わないとしても強制退店になったり、悪質な場合刑事罰の対象となり、しばしば逮捕者を出している。
ピンク映画館は、一般人(ノンケ=異性愛者)の目が届きにくく、ハッテン行為が行われることがある。これも上記同様に違法性の高い行為であるが、迷惑行為の撲滅が、男性同性愛者を排除するという発想に繋がる危険も常にある。
同性愛者の村や住宅街や、まして町内会などのような連絡会は存在しない。一部の社交的な人々や特定の運動団体に属する人々を除けば、専ら個々の価値観で、個々に判断し、行動せざるをえない状況にある。
なお、男性同性愛者専用の公衆浴場や映画館、すなわち公共施設風の有料発展場(クルージングスペース)も存在する。ことに近年はインターネットに接続可能な携帯電話などの普及により、公共の場や施設をハッテン場とするハッテン行為は減少している。
補足[編集]
なお、これまでの「語源」欄に「男性同性愛者が不特定多数の性交相手と性交することを、「発展」と呼ぶことがある。他の意味と区別するため「ハッテン」とカタカナで書くことがある。」「ハッテンの行われる場所を「ハッテン場」と呼ぶが、あくまでハッテンを行う者を含めた一部のゲイの間の特有な呼称であり、公式な呼び名ではなく施設の管理者や一般利用者はハッテン場とされていることを認知していないどころか、認知して対策に困っている、巻き込まれる被害に会う等ということもある。」「発展行為に係わりのない一般市民が、発展目的のゲイからゲイだと勘違いされ猥褻被害に遭うこともある。」との記述があるが、これらの内容は語源の説明とは明らかに無関係であり、一部その内容から「苦情」とも受け取られるが、異性愛者への「警告」的な意味合いもあるため補足説明に加えた。
ハッテン行為をめぐる問題点[編集]
違法性[編集]
不特定多数が使用する可能性のある公共の場において、人前で性器を露出する、一般人の見える場所で性行為に及ぶなどの行為は、男女を問わず、公然猥褻、場合によっては強制猥褻罪として刑事上の取締り対象となる。公共施設では、土地建物の所有者が訴えれば、建造物侵入、不法侵入、不退去罪などの罪で取り締まりを受ける場合もある。
なお、猥褻物陳列罪として知られる罪名は、日本の刑法においては「猥褻物配布罪」で、主に猥褻物の配布、販売のために「陳列」することも同名罪とされるため、よく誤用される。しかし、配布・販売の目的を認めにくい公共施設でのハッテン行為および娯楽的な露出行為に「猥褻物配布罪」を当てはめるのは必ずしも適切ではない。(「わいせつ」項目も参照のこと)
さらに、一般人を誤って、もしくは故意に乱暴するなど悪質な場合は、強制猥褻、準強制猥褻、強制猥褻致死傷などの罪に問われる。なお、故意に乱暴するなど悪質な場合は、ハッテン行為を目的とした同性愛者同士の間でも違法である。さらに、男性同性愛者も特別な団体組織に属さないかぎり「一般人」であることに変わりはない。なおSMプレイなどのように暴力的な行為であっても、相手方の同意があれば、被害を受けた者はいないことになるので、原則として犯罪は成立しない。
性行為感染症[編集]
不特定多数との性行為が行われる結果、性感染症の蔓延原因となりやすい。特に屋内では、初対面でもアナルセックスにまで致る場合があり、HIVや肝炎等の拡大の原因として考えられる。
平成8年度厚生省HIV疫学研究班の調査によると、発展場の廃棄ティッシュからの抽出液で165例に抗体が検出でき、このうち32例 (19.4%) にHIV抗体陽性であったことが確認されている。なおこの調査はHIVのみである。
2009年現在、これらHIVや肝炎等の性行為感染症の危険性は、男性同性愛者とハッテン場での行為に限られない身近な問題となっている。また発展場やクルージングスペースが同じように存在する先進諸国において、HIV感染者が増加傾向にあるのは日本だけである。ちなみに平成8年度厚生省HIV疫学研究班の調査は公共施設ではなく、営業ハッテン場「クルージングスペース」での調査であり、しかも来場者には無告知でなされたとされる。
その他の問題点[編集]
2011年10月末、東京・北新宿の「デストラクション」に警視庁の捜索が入り、公然わいせつ幇助容疑で摘発された。警視庁は2010年から同店をマークし、同1月以降、覚醒剤の使用や所持の疑いで約80人を逮捕している。捜査幹部は「薬物だけでなく、性感染症が広がる恐れがあった。何らかの規制が必要だ」としている。
「非合法な薬物の使用や売買を助長している」とされ、「一部のクルージングスペースでは、性行為に用いる違法薬物や脱法薬物が2006年ごろまで積極的に売買されていた。」とされるが、これも同性愛者のハッテン場に限られた問題ではなく、公共の場でのハッテン行為に関する問題とも異なる。非合法薬物の使用や売買の助長については無料レンタルで、誰でも簡単に複数の作成が可能な「携帯サイト」に、より大きな問題点があることはすでに周知されている。
「公共の場所でハッテンが行われることにより、周辺住民やハッテンを目的としない一般利用者とのトラブルが散見され、違法性またモラル的な問題を指摘する声もあるが、ゲイの側からこれを是正しようという積極的な動きはあまり見られない。」とされるが、「ゲイの側」に該当する男性同性愛者の普遍的なコミュニティや連絡会はそもそも存在しない。モラル向上のためボランティア的に活動する個人は存在するが、飽くまで個人的活動のため周知されていない。
ゲイ向けの出会い系サイトでは、公共施設でのハッテン行為を求める書き込みを禁じたり、公然猥褻行為に結びつく誘いを行わないよう呼びかけている場合が多くみられるが、一部の掲示板では依然としてモラルの無い一部のゲイにより公共施設でのハッテンを呼びかける書き込みが見られる。
こうしたことに対してメディアを通じて啓蒙するにしても男性同性愛者が全員同じゲイ雑誌の購読をしているわけではなく、むしろインターネットの普及により他の雑誌同様に購読の減少や、休、廃刊もある。また違法性の高いハッテン行為を好む男性同性愛者は、その全員がインターネット利用をしているとはかぎらない。
なお「公園や公衆トイレでの行為後に、精液の付着したティッシュやコンドーム等の猥褻なゴミをそのまま放置して帰る者も少なくなく、それにより施設管理者や利用者は多大な迷惑を被っている」とのことであるが、これはゴミの内容が一般的でないことを除いては、行楽地や観光地などで投げ捨てられるゴミの問題とほぼ同じモラルの問題であり、かつては「アベック」と呼ばれた男女のカップルにも同様のマナー違反があった。また精液の付着したティッシュやコンドーム等は「汚物」であって、その投げ捨ては「めいわく行為」ではあっても、その物品の放置による「猥褻」性の有無については、個別に法的な判断が必要である。
ハッテン行為での一般住人とのトラブルやマナー違反の問題以前に、男性同性愛者同士が、独自に連絡を取り合い、共通のモラルを守り共存するための連絡会などの地域共同体を構成することそのものも困難である、という現状に大問題がある。
ゲイバッシング[編集]
発展場に集まるゲイが強盗事件の餌食になったり、ゲイを狙った暴力事件もしばしば起きている。例えば、発展場として知られている公園へ来る男性が、全裸で歩いているわけでもなく特に見分けがつくような身なりでもないのに手当たり次第に少年グループに襲撃され現金を奪われるといった「ゲイ狩り」事件や、撲殺による殺人事件も発生している。過去にあった「芦花公園」で男性同性愛者が、ふとももをナイフで刺され殺害された殺人事件は犯人が逮捕され一応の解決を見たが、強盗殺人より罪状の軽い暴走族同士の抗争における「人違い殺人」として処理された。
こうした事件に男性同性愛者――あるいはまったく無関係で警察や裁判等ではとくに取りざたもされないが、死人に口なしとして同性愛者とマスコミから決めつける通りすがりの男性―――が遭遇することは、過去に「アベック」と呼ばれた男女のカップルが、夜の公園などで強盗事件や殺人事件の被害者となったことと、似た現象であろう。もっとも男女による公共施設での性行為が減ったことの要因は、モラルの向上というよりも、不衛生な環境で、貧しく、安く行われる性行為を現代女性が嫌うようになったことが大きい。
有名な発展場[編集]
- JR上野駅13番線のトイレ
- 横浜反町公園のトイレ
- 京都御所 - 22時からが本番。夜遅くの方が人がいる。いけば必ずゲイがいる有名スポット。もともとは若い子と若い子食い目的のおじさまたちが集まるゲイスポットだったが、最近は30代がメインでおじさんは減った。
「肝試し」などと称して、同性愛者が集う場所への訪問を企画…同性愛に差別的なイベントを企画したサークル、同志社大が処分(2014年8月)[編集]
同志社大学(京都市)のイベントサークルが同性愛者に対する差別的なイベントを企画したとして、大学側は20日付でサークル登録を取り消した。サークルが企画をツイッターで告知したところ、「差別的だ」といった批判が多数寄せられたという。
同志社大によると、サークルは「モチコミ企画」という名称で活動。8月上旬に「肝試し」などと称して同性愛者の出会いの場を訪問するイベントを企画していた。登録の取り消しを受け、サークルはブログで「不愉快な思いをさせ、傷つけてしまい、申し訳ござい
ません」と謝罪した。今後は一切活動しないとしているという。
同志社大広報課は「このようなことが二度と起きないよう指導を徹底する」と話している。
参考文献[編集]
- 井上章一 他編 『性的なことば』 講談社 2010年1月 p.378 -