江東マンション神隠し殺人事件
江東マンション神隠し殺人事件とは、2008年4月18日に東京都江東区のマンションでOLの東城瑠理香さん(23歳)が神隠しにあったように行方不明となった事件。
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事件の概要[編集]
2008年4月18日(金曜)の夜、東城瑠理香さん(当時23歳)が東京都江東区潮見二丁目の自宅マンションから忽然と消え、親族から捜索願いが出される。
最上階の自室の玄関に少量の血痕が残った状態であったことに加え、マンションに設置された監視カメラの記録に、東城瑠理香さんがマンション建物から外出した形跡がないことから、「神隠し事件」として、マスメディア各社がトップニュースで報じた。また、同マンションは当時3分の1近くが空室であり、東城瑠理香さん宅の両隣は空室であった。
警視庁は、マンション住民全員から事情聴取、任意での指紋採取、家宅捜索を行った。事件発生から約1ヶ月後の同年5月25日、東城瑠理香さん宅の2つ隣の部屋に住む派遣社員の星島貴徳(当時33歳)を住居侵入容疑で逮捕した。その後の捜査で、星島貴徳は死体損壊、遺棄の疑いで再逮捕(同年6月13日)、殺人容疑で再逮捕(同年6月25日)されている。
逮捕後、星島貴徳からの供述により事件の全貌が明らかとなった。
事件の全貌[編集]
- 拉致・殺害
- 2008年4月18日夜、星島貴徳は性奴隷獲得目的で東城瑠理香さんの帰宅を待ち伏せし、帰宅直後を狙い東城瑠理香さん宅へ侵入。東城瑠理香さんに騒がれたため頭部を殴打し拉致、自室へ連れ帰り、縛って部屋に寝かせておいた。まもなく、東城瑠理香さんと同居していた姉が帰宅し、室内の異変に気付いて警察へ被害届を提出した。早くも警察の捜査が始まったことを知った星島貴徳は、事件の発覚を恐れ、東城瑠理香さんの首に包丁を刺し殺害した。
- 解体・隠蔽
- 殺害後、星島貴徳は東城瑠理香さんの遺体を包丁2本とのこぎりでバラバラに切断し、冷蔵庫やベッドの下、段ボール箱などに隠した。翌日、警察がマンション全室に行った任意の家宅捜索の際には、事件とは無関係な段ボール箱を捜査員に見せて中身を確認させた上、警察が中身を詳しく調べないだろうと考え、遺体の一部が入っていた段ボール箱をあえて自ら示し、中身確認を促すなど巧妙かつ大胆に振る舞った。結局、遺体が入った段ボール箱は見逃すこととなる。
- 星島貴徳は東城瑠理香さんの遺体を細かく切断してトイレに流したり、出勤時にゴミ捨て場に捨てるなどして、同年5月1日までに遺体の全てを処理した。
- 指紋照合
- 東城瑠理香さん宅に残っていた指紋を警察が調べた結果、星島貴徳が東城瑠理香さん宅に侵入した際に、指紋をわずかに残していたことが判明。事件直後には星島貴徳を含むマンション住民全員から任意で指紋を採取していたが、その時は、星島貴徳は何らかの薬品を使って指先の皮膚を荒らしていたため、10指とも紋様が読み取れず、照合が不可能だった。事件から1ヶ月後に再び警察が星島貴徳の指紋を採取した際には、皮膚は再生しており、東城瑠理香さんの部屋で発見された指紋と一致したため、星島貴徳の逮捕へと至った。
- DNAの一致
- 星島貴徳の逮捕後、警察が下水管などを調べた結果、わずかに残った遺体肉片と東城瑠理香さんのDNAが一致した。また、星島貴徳の部屋の一室や浴槽から採取された血痕と東城瑠理香さんのDNAが一致した。その他、東城瑠理香さんが所有していた財布や免許証などの切断された一部を発見した。
星島貴徳のプロフィール[編集]
星島貴徳は岡山県出身、岡山県立玉野光南高等学校の情報処理科を卒業後、ゲーム業界大手のセガに入社。プログラマー志望で入社したが、与えられた仕事はゲームセンターの店長であったため、仕事に対して不満がありセガを退職、その後、派遣社員としてコンピューター会社に勤務していた。星島貴徳は生活に不便をきたす状況になく、逮捕当時、月収50万円を稼いでいたと報じられた。
東城瑠理香さんは当時23歳、東京都内の会社法人に勤務し、事件現場となったマンションには姉と同居していた。星島貴徳と東城瑠理香さんの間に面識はなく、星島貴徳は東城瑠理香さんの名前も年齢も知らなかった。若く太っていない女性を無差別に狙った、強姦、性的暴行、婦女暴行目的の犯行であった。
殺害後、星島貴徳は東城瑠理香さんの父親とエレベーターで乗り合わせた際に「大変なことになりましたね」と言い、マンションの管理会社に対して監視カメラが足りないなどと言ってクレームの電話までかけたり、マンションの外で待ち構える多くのマスメディアのインタビューに応じて自分が殺害した東城瑠理香さんの失踪を心配するそぶりを見せたり(このインタビューは後にメディアに報道された)、事件と無関係を装っていた。
星島貴徳の逮捕から2週間後に秋葉原通り魔事件が発生したため、この事件の報道は小さくなった。
裁判[編集]
初公判始まる[編集]
2008年4月に東京都江東区のマンションで帰宅直後のOLを拉致し、自室に連れ込んで殺害したとして殺人やわいせつ目的略取などの罪に問われた同じマンションに住む無職、星島貴徳被告(34)の初公判が2009年1月13日、東京地裁で開かれる。
都会のマンションからOLが忽然と消えたこの事件は「現代の神隠し」とも呼ばれ、殺害の立証が難しいと予想されたが、被告は起訴事実を認める方針という。公判前整理手続きでは責任能力も認め、精神鑑定は行わない予定。争点は量刑に絞られたが、ポイントは検察の「訴因変更」にあるようだ。
事件が起きたのは約9カ月前。昨年4月18日午後8時45分ごろ、会社員の東城瑠理香さん=当時23歳=と同居する姉は、マンション9階の自室に帰宅するや、異様な光景に息をのんだ。玄関ドア付近に付着する血痕。転がるピアス。部屋の電気はついたまま…。そして東城さんがいない。
この直前に東城さんは帰宅を告げるメールを姉に送っていた。その経緯からみて、帰宅した東城さんが何らかのトラブルに巻き込まれた疑いが濃厚に漂っていた。
姉からの110番通報を受けた警視庁は、直ちに捜査を始める。ともかく東城さんを探し出すことが先決だ。状況からみて、拉致された東城さんがマンションの外に連れ出された形跡は薄い。どこかの部屋に監禁されている可能性が高いとみられた。
東城さんの失踪直後から約1週間、警視庁はマンションのエントランスに約15人の捜査員を配置して出入りを制限、マンション全150戸の室内を任意で捜索した。が、東城さんは見つからない。
マンションの2部屋隣の918号室に住む星島が逮捕されたのは約5週間後の5月25日。東城さん宅から検出された指紋が、何の交友関係もないはずの星島のものと判明したのが決め手になった。だが、東城さんはいぜん見つからない。
被告は「殺害し、遺体をバラバラにしてトイレに流したりした」と供述したのだ。被告の部屋からは、東城さんのものとみられる血液反応が出た。
実は警視庁は、星島の部屋に捜査員が事件の翌日、翌々日に立ち入らせ、トイレや風呂場から天井裏まで調べさせている。しかしこのときは東城さんの気配すら察知できていない。警視庁は「任意捜査の限界」と言ったが、5週間も捜査の時間を費やしてしまったことは痛恨の極みだ。
その星島は事件発生翌日の4月19日午後、マンション前で報道陣に囲まれると、取材に応じ、約20分間、饒舌に話し続けた。
「(東城さんは)派手な印象で、ホステスでもやっているのかと思ったが、警戒されると思って話しかけたことはない。若い女性は苦手なので…」
「叫び声は聞こえなかった。ひとり暮らしなので怖い」
事件に無関係であるとアピールする半面、被告には、目が泳いだり、あごをしきりになでたりするなど落ち着かない様子もあった。いったい被害者をどうするつもりだったのか?
星島は住居侵入、わいせつ目的略取、殺人、死体損壊、死体遺棄の5つの罪で起訴されている。
起訴状によると、星島は昨年4月18日夜、わいせつ目的で東城さん宅に玄関から押し入り、東城さんの顔を殴打。タオルで両手首を縛り、ジャージーのズボンを顔に巻いて目隠しすると、首に文化包丁を突きつけ、自室に連れ込んだ。
文化包丁で首を切って失血死させると、その遺体は翌月1日ごろにかけて、のこぎりで切断。トイレに流したり、別のマンション外のごみ置き場に捨てたりした。その手口は残忍としかいいようがない。
切断された骨片の数は150超。星島はトイレに流せなかった遺留品や遺体の一部を、小分けにして冷蔵庫や段ボールに隠し、ビジネスバッグで持ち出した。解体作業は夜中に行い、勤務先では遅刻や早退、居眠りを繰り返していたという。
なぜ、こんな凶行に至ったのだろうか。
「部屋が近くて、手っ取り早いのでねらった。乱暴目的で自分の支配下に置きたかった」
捜査で星島は、暴行目的の犯行だと認めた。ストーカーのように東城さんを偏愛していた形跡はなく、実際は姉妹2人暮らしだった東城さんを「一人暮らし」だと思い込んでいた。自宅の両隣が空き部屋で狙いやすかったことも犯行につながったようだ。
「(捜索などの)騒ぎで解放できなくなったので消すしかないと思った」
被告はこうも供述している。警視庁が星島に最初に聞き込みしたのは失踪から約2時間半後。星島は玄関先で応対した。この時点で、東城さんは生存しており、当初から殺害するつもりではなかった、というのだ。
よくわからないのは、具体的な犯行計画だ。
監禁したとして、星島はその期間をどの程度想定していたのか。その後は解放するつもりだったのか。捜査関係者の1人も「ずっと自分の意のままにしておくつもりだったのだろうか」と首をかしげるのだ。
星島は、平成2年まで約9年間、少女を監禁し続けた「新潟少女監禁事件」と同様の犯行を思い描いていたのだろうか。
「1週間前に初めて見かけた」
星島は岡山市出身。4人兄弟の長男として生まれ、同県玉野市の岡山県立玉野光南高等学校の情報処理科に進んだ。当時からパソコンが得意で、勉強もできたという。ただ、おとなしくクラスでも目立つ存在ではなく、「女性と話すのを恥ずかしがっていた」(当時の同級生)という。
卒業後はセガに就職したが退職。昨年1月から東京・お台場のプログラム開発会社に派遣社員として勤め、プログラム開発に携わっていた。ゲームやアニメが好きだったことから「アキバ系」とも言われた。
税理士の父親を嫌悪しており、「殺したいぐらい」と話して周囲を驚かせたこともあった。
一方、殺害された東城さんは3人姉妹の次女として長野市で生まれ、同県内の県立高校では柔道部のマネジャーを務めた。神奈川県内の私立大に進学したが、学費はアルバイトでためるという努力家ぶりだった。大学時代にはカナダに留学。英語が堪能で、周囲には「得意の語学を生かした仕事に就きたい」と夢を語っていた。
卒業後は都内の広告関連会社にいったん就職。昨年1月から、契約社員として別の会社に勤め始めたばかりだった。勤務先は「企業セミナーを1人で任せようとしていた」といい、仕事への順応も早かったようだ。
これまでの捜査の結果、両者をつなぐ接点は、「同じマンションの居住者である」という点以外は浮かび上がっていない。星島は事件の約1週間前に東城さんを初めて見かけ、監禁を計画したと供述しているという。
あす行われる初公判を皮切りに公判は1月に集中的に開かれ、判決は7回目公判となる2月10日に言い渡される予定となっている。「神隠し」とも騒がれたこの事件の裁判のポイントはどこにあるだろうか。
元最高検検事の土本武司・白鴎大法科大学院長は、東京地検が昨年7月17日に殺人罪で起訴した際、訴因変更で住居侵入罪にわいせつ目的略取罪を追加したことに着目する。
「量刑判断では犯行動機が重視される。動機にも直結するわいせつ目的略取罪をあえて加えて立件したということは、検察側に極刑に近づけたい意識があることの表れだ。求刑は死刑も考えられるのではないか。それを踏まえて、裁判所は星島に酌量すべき事情があるかどうかを判断することになるだろう」
土本氏は犯行手口が似ている例として、薬物を吸引させて女性10人に乱暴、うち英国人ルーシー・ブラックマンさん=当時21歳=ら2人を死亡させた事件を指摘する。この事件の犯人は、昨年12月の控訴審判決で死体損壊・遺棄罪は認定されたものの、準強姦致死罪については認められず、無期懲役刑となった。
殺人事件をはじめ重大な犯罪が対象となる裁判員制度が5月21日から始まる。
神隠し公判4日目「お前の性奴隷なんてならない」「ケダモノ以下」[編集]
…母の怒声響く
《「最も連れ去りが成功する可能性が高い」という考えだけで、星島貴徳被告から狙われた東城瑠理香さん。母親ら遺族は、犯人がどういう顔をしていたのかを瑠理香さんに見せるため、遺影を抱えて毎回裁判を傍聴し、瑠理香さんの当時の恐怖や理不尽な犯行への怒りを代弁するために証言に立ったという。検察官の質問は続く》
検察官「瑠理香さんは怖がりでしたね」
母「はい。とても怖がりでした」
検察官「そんな瑠理香さんが、被告に襲われて殴られた際に1度しか悲鳴を上げず、あとはだまっていましたよね。どうしてだと思いますか」
母「瑠理香は頭の良い子でした。『また悲鳴を上げれば、殴られたり、もしかしたら殺されたりするのではないか』と考えていたと思います」
検察官「被告は公判で『瑠理香さんを性奴隷にしたかった』と言っていますよね。これを聞いて瑠理香さんはどう言うと思いますか」
母「なるわけないじゃないですか。『お前なんかの性奴隷なんてならない』『何を考えているんだ』と罵倒していると思います」
《検察官の質問にも、あまり感情的にならず冷静に答えていた母親だが、『性奴隷』の点には、声を荒らげて答え、法廷には遺族らのすすり泣く声も漏れた》
《星島被告は、帰宅した東城さんを襲い、目隠しした上で包丁で脅し、2軒隣の自室に連れ込んだ。ベッドの上に寝かし、両手足を縛った。室内の電気を消したままだった。母親による瑠理香さんの心境の代弁が続く》
検察官「連れ去られた瑠理香さんは、どんな気持ちだったと思いますか」
母「恐怖の中、『早く帰してほしい』『とにかく助けて』。これだけを考えていたと思います」
検察官「このとき(部屋に連れ去られた後)も、瑠理香さんは声を出しませんでしたね」
母「本当は『ここから出して』と叫びたかったと思います」
《母親の代弁を星島被告はじっと下を向いて聞き入る。当時の状況を思いだしてか、耳を赤らめて耐えているようだ》
《瑠理香さんの行方不明を知った同居の姉からの通報で警察がマンション内の捜索を始めた直後の4月18日午後10時20分ごろ、捜査員が星島被告宅を訪問していた。この際には瑠理香さんは生存していた。検察官は核心の状況についても母親に代弁を求める》
検察官「警察官が(星島被告宅の)ドアをノックした際には、瑠理香さんはどう思っていたでしょうね」
母「『だれかが助けに来てくれた』と思ったはずです」
検察官「その際にも、瑠理香さんは声をあげていませんね」
母「『せっかくここまでがんばってきたのだから、声をあげたら努力が水の泡になる』。そう思って必死で耐えていたのだと思います。瑠理香は我慢強い子でしたから…」
《しかし、その忍耐も星島被告には届かず、東城さんは包丁を首に突き刺される。それも何の前触れもなく、無言で刺された》
検察官「刺された瞬間はどう思っていましたか」
母「…。痛みと苦しみと…。それでも『絶対に生きよう』と考えていたと思います」
検察官「瑠理香さんは生きて何をしたいと思っていましたか」
母「やり残していることはいっぱいありました。仕事が楽しくなってきたころでしたし、瑠理香は結婚にもあこがれていました。『ウエディングドレスも着たい』と言っていましたし、結婚して子供も産んでいたでしょう」
《いつしか母親は代弁に変わり、自らの感情を抑えられないように思い出を語り始める》
母「(事件)直前に瑠理香と話していたことがありました。『もう少ししたら家族で旅行に行こう』と話していました。あと友だちとおいしいものも食べたかったでしょうし、いとこともカラオケにも行っていたでしょう。やり残したことは限りありません」
《東城さんは首を刺されてから10分間は生存し、痛みに必死に耐えていた》
検察官「星島被告は『なかなか死ななかった』と公判で話していましたが…」
母「死ななかったんじゃない。死ねなかったんです!絶対に生きようと死ねなかったんです!」
《母親は感情を抑えられない様子で大声で答える。母親は、東城さんの同居の姉からの連絡で長野から現場に向かった。殺害された時刻は、向かっていた最中だったことになる。母親は当時を振り返る》
母「何もしてあげられなかった。母親として、すごく情けないというか、そういう気持ちになりました」
《星島被告は『性奴隷』にしたいと連れ去った瑠理香さんを殺害した理由について、公判で『瑠理香さんが犯行(連れ去り)の証拠になり、自分の生活を守るために殺害した』などと話していた》
検察官「瑠理香さんが殺害される理由は何か思いあたりますか」
母「何も思いあたりません」
検察官「殺害の動機を星島被告が公判で話しているのを瑠理香さんが聞いたら、どうしていると思いますか」
母「『何で、そんな理由で』と、たぶん発狂していると思います」
《星島被告は、瑠理香さんを殺害したばかりか、遺体を原形をとどめないほどに切断して捨てていた。心配した母親がマンションに着いた際に、切断を始めていたという》
母「もし、あのとき分かっていれば、(現場検証で規制する)警察官を振り切って乗り込み、瑠理香を連れて帰ってきたと思う」
検察官「でも、被告はトイレに流しましたね」
母「瑠理香はとてもきれい好きでした。とても、とても…。そんな子の腕を傷つけ、生ゴミや汚物と一緒に切り刻んで流すなんて…。絶対に許せません。人間じゃないと思います。ほんとにケダモノか、それ以下だと思います」
検察官「『下水道から骨が見つかった』と警察から聞かされたときは、どう思いましたか」
母「瑠理香だと確信しました。小さいときからがんばり屋で、そんなところに流されても、流れの中で必死に耐えて、『自分を見つけてほしい』と…。だから発見を聞いて、瑠理香だと確信しました」
第一審[編集]
2009年1月13日、東京地方裁判所(平出喜一裁判長)で初公判が開かれた。星島貴徳は起訴事実を認めた。公判のなかで、事件の全貌や、星島貴徳の陵辱を好む性癖が明らかにされた。この裁判は裁判員制度のモデルケースとしても注目され、検察側は証拠として被害者女性の遺体の一部を65インチのモニターに表示するなどし、再度クローズアップされることになった。
同年1月26日、検察は論告でわいせつ目的略取という身勝手な動機、完全犯罪を目論んだ徹底した罪証隠滅工作、部屋の血液反応という物証が提示されるまで犯行を否認したこと、永山基準以降で殺人の前科がない一人殺人で死刑が確定した3事件の例を提示し、死刑を求刑した。弁護側は最終弁論で、前科がないことや逮捕後は犯行を供述して謝罪していることや下半身に大やけどを負った過去の生い立ちなどを提示して死刑回避を求めた。
同年2月18日、東京地方裁判所は、「性奴隷にしようとして拉致し、事件の発覚を防ぐには被害者の存在自体を消してしまうしかないと考えた自己中心的で卑劣な犯行で、酌量の余地はない」と厳しく指弾したが、「死刑選択には相当強い悪質性が認められることが必要となるが、この殺害では執拗な攻撃を加えたものではなく、残虐極まりないとまではいえない」「自ら罪を悔いており、死刑は重すぎる」として、検察の死刑求刑に対し無期懲役を言い渡した。同月、検察は量刑不服として控訴した。
控訴審[編集]
同年6月11日、東京高等裁判所(山崎学裁判長)で控訴審初公判が開かれた。検察側は控訴趣意書で、死刑求刑に対して無期懲役とした一審判決を、「犯行は類を見ないほど凶悪で危険極まりない。一審の刑は軽すぎる」として、改めて死刑を求めた。一方の弁護側は殺害された被害者が1人で死刑の適用が争点となった事件と比較し、「無期懲役が最も適切」と控訴棄却を求めた。同月16日、控訴審結審。
9月10日、控訴審判決公判があり、東京高裁は犯行を「殺人などの重大犯罪で、冷酷かつ残虐で人倫にもとる犯行」と指摘したが、殺害方法の残虐性や殺人、死体損壊・遺棄の計画性を否定するなどし、「前科などもなく、自らの罪を悔いて謝罪の態度を示し、矯正の可能性がある」として、永山基準や、被害者が1人でも死刑となった過去の事案との違いを指摘し、「極刑がやむを得ないとまでは言えない」と結論づけ、一審東京地裁判決を支持し、検察側の控訴を棄却した。
検察(東京高検)は「憲法違反や判例違反などの明確な上告理由がない」と上告を断念し、被告側も上告しなかったため、同月25日、無期懲役が確定した。
その他[編集]
- 埼玉愛犬家連続殺人事件
- 過去に、死体を消すことで殺人の立件を困難にして完全犯罪を狙った殺人事件に、埼玉愛犬家連続殺人事件がある。埼玉の事件は警察の捜査がない中で、自営業で他にも従業員を働かせることが可能である複数犯が、死体を消失させた事件であった。しかし、今回の江東区の事件は、警察の捜査が入る中で、仕事のため勤務先と自宅を往復している単独犯が死体を消失させた事件であったため、その手際のよさが注目された。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 江東マンション神隠し殺人事件(産経新聞)