三位一体の改革
三位一体の改革(さんみいったいのかいかく)は、日本において国と地方公共団体に関する行財政システムに関する3つの改革、すなわち(1)国庫補助負担金の廃止・縮減、(2)税財源の移譲、(3)地方交付税の一体的な見直し、をいう。「三位一体改革」とも。なお、「三位一体」はもともとキリスト教の教義にもとづくものであるが、それとは関係がない。
経緯[編集]
三位一体の改革は、2001年に成立した小泉純一郎内閣における聖域なき構造改革の「目玉」として、「地方に出来る事は地方に、民間に出来る事は民間に」という小さな政府論を具現化する政策として推進されているものである。
2002年(平成14年)6月の「骨太の方針2002」で方針が決まった。公式文書としては2004年11月26日の政府・与党合意「三位一体の改革について」が初出とされる。
2004年度はこの改革によって、国庫支出金が1兆300億円、地方交付税が2兆9000億円、それぞれ削減され、6600億円の税源移譲が行われた。税源移譲額よりも補助金削減額のほうが大きいため、地方自治体からは税源移譲が不十分だとの意見もあがった。加えて、地方交付税と財源対策債とを合わせて約2兆9000億円が削減された(削減率12%)。このため2004年度の予算が組めず、基金の取り崩しや管理職の給与カット等でしのいだ地方自治体もあった。
このような経緯で地方の改革への不信感が募ってきたため、「骨太の方針2004」で3兆円規模の税源移譲を明記した。これに合わせて補助金削減が検討された。
主な沿革[編集]
- 2002年(平成14年)6月 「骨太の方針2002」
- 2004年6月 骨太の方針で3兆円の税源移譲をすると決定
- 2004年11月 政府・与党が2.4兆円分の税源移譲に合意
- 2005年11月 政府・与党が0.6兆円分の税源移譲に合意
2006年までに決まったこと[編集]
2004~2006年度(当初予算)における全体像
- 国庫補助負担金改革 約4.7兆円
- 地方交付税改革(地方交付税及び臨時財源対策債) 約5.1兆円
- 税源移譲 約3兆円
- 2006年度税制改正で所得税から個人住民税への税源移譲を実施。(2007年分所得税、2007年度分個人住民税から、個人住民税所得割を一律10%に(都道府県4%、市区町村6%)
- ちなみに、本来は所得税減税を1年先行させる必要があるのに個人住民税の税制改正と同年に改正した結果、2006年の収入については旧所得税率と新住民税率が適用された。そのため、課税所得約1100万円以下の者にとっては1年分だけ増税され、それより高所得の者は1年分だけ減税になるという現象が生じた。中・低所得層(全体の95%弱)の増税分は約3.5兆円、高所得層の減税分は約0.5兆円と推定される。税源移譲初年度分の約3兆円はこの両者の差額によってまかなわれている。
上記のように、一応の決着をみたとされる2006年現在において、増減の差引の不均衡は大きく、特に交付税改革は地方にとっては「予定外」ということになる。このため地方では危機感が強い。
2006年以降[編集]
積み残しになった課題は多い。
特に、交付税については改革が不十分との意見も根強く、「新型交付税」構想も表明されている。ただ、交付税のこれ以上の削減では「地方が持たない」との意見も政界では多く、「骨太の方針2006」では交付税の抑制の盛り込みは見送られた。
評価[編集]
- 地方分権の立場からの批判
- 地方分権をより推進していくための改革とすとれば、全く不十分との批判がある。
- 三位一体改革の検討過程においては財務省が推進しようとする国の財政再建の論理のみが先行し、地方分権の推進の意思が感じられないとの批判がある。(例えば、神野直彦教授の主張)
- 要するに財政改革なのか分権改革なのかという「そもそも論」である。
- 進め方における新たな傾向
- 進め方においては、いくつかの特徴がみられた。
- 議論をオープンにしたことは大きい。経済財政諮問会議の場で議論を進め、各メンバーがそれぞれの応援団を使って資料を用意し、主張を戦わせた。議事は公開され、またマスコミも積極的にこれを報道し、解説記事でフォローした。
- また、国庫補助金の問題については、地方六団体側にボールを投げ返した。これでかなり混乱した面は否めず、地方も単に「税源を与えよ」と叫ぶだけではない理論武装を迫られた。ただし、その議論の収束にはかなりの調整を要した。国庫補助負担金改革では、どの項目を対象とするかで大激論があった。特に、「義務教育費国庫負担」が焦点になった。
- 官僚の抵抗が明らかになった
- 税源の偏在から生じる不協和音
- 税源移譲をめぐり、地方交付税の不交付団体である東京都と、総務省及び交付団体である他の道府県が委譲分をめぐる対立を起こすなど、都市と地方間の対立を煽る様相をみせているという側面もある。但し、三位一体改革の進める税源移譲は、予算の移譲ではなく、課税権の移譲である。即ち、税源移譲そのものが地方経済を潤すのではなく、さらなる課税権を手にした地方公共団体が地方経済を活性化し、如何なる租税をかけるかが三位一体改革の本来的な課題である。
- 特に法律に定められた税金、法定外税の課税をも可能にするこの改革をもってしても、住民の理解が得られる課税でなければ、住民が流出し、改革の目的である地方の自立は達せられない。その意味でも、今後における三位一体改革の流れに対応する地方の施策が注目されるところである。