鉄筋コンクリート構造
鉄筋コンクリート構造(てっきんコンクリートこうぞう)とは、鉄筋コンクリートを用いた建築の構造もしくは工法。英語のReinforced-Concrete(補強されたコンクリート)の頭文字からRC構造またはRC造と略される。
鉄筋コンクリート構造は大きく二種類に分けられ、柱と梁で構成するラーメン構造、壁面と床版など平面的な構造材で構成する壁式構造がある。実務上は低層建物の場合、この2つを組み合わせた壁式ラーメン構造である事も多い。以前は高層ビルといえば、鉄骨鉄筋コンクリート造であったが、技術の進化により高強度コンクリートを使用した、純粋な鉄筋コンクリート構造での高層ビルも多い。
歴史[編集]
フランスの植木職人モニエが、1867年、セメントで植木鉢を作る際、針金で補強したのが鉄筋コンクリートの最初と言われる。
概要[編集]
金属の鉄がもつ性質の容易に破断しない粘り強さ(靱性)と引張強度、セメントと骨材(こつざい)である砂及び砂利を水と混ぜたコンクリートがもつ高い圧縮強度を併用した構造の一つ。鉄を主な材料とする棒状に加工した鉄筋が、細長比と呼ばれる径と長さの比率が一定の限度を越えると、発生する座屈や撓み(たわみ)等の曲がりが生じてしまう性質を、コンクリートが鉄筋の周囲を拘束することで曲がらぬように抑え、他方、コンクリートが曲げや引張強度の面では脆い部分を鉄が補うようにバランスよく構造設計を行うことで、互いの弱点を相互補完する構造である。鉄とコンクリートの付着強度が大きく、また熱膨張率がほぼ等しい (1.0×10-5/K 前後) ということも、この二つの材料を組み合わせることが可能な理由として挙げられる。
化学的な性質の点では、鉄は空気中に暴露していると大気中の酸素と結合し酸化して錆が発生し、長い年月を経ると強度を担うべき断面積が錆により腐食し、当初の強度を保てなくなる。しかし、コンクリートの成分に含まれるセメントが高アルカリ性であるため、鉄筋コンクリート中の鉄筋は不動態化している。そのため、鉄筋コンクリート中の鉄筋は腐食せず、要求性能を満たしつづけることが可能となる。
その一方で、鉄筋コンクリート構造を構成する砂の産地が海か河川か山地かにより塩分を十分に脱塩しなかった場合等により、コンクリートの中性化が進むと内部で酸化が進行し、内部の鉄筋が錆により膨張してコンクリートの剥離・剥落が生じる。このような鉄筋の発錆による剥離・剥落を爆裂と称する(但し、本来はコンクリートが火災により被り部分の剥落を生ずる現象を爆裂という)。高度経済成長期には脱塩が曖昧なままに建設された建造物が多く、社会問題になった。
現在では異形鉄筋を使用して、普通コンクリートを打設するのが主流である。
海水練りコンクリートを使用した構造物[編集]
前述の通り、鉄筋コンクリートに海水を使用することは禁忌であるが、長崎県佐世保市宇久島に位置する宇久長崎鼻灯台は、1959年に海水練りのコンクリートを用いた鉄筋コンクリートにより建造され、50年以上も経過した段階でも現役の構造物として稼働している[1]。
性質[編集]
遮音性能は物質の比重の大きさに比例し、単位当たりの重量が重いほど遮音効率が良い。加えて適正な品質管理を行ない密実に打設されたコンクリートは構造体として連続性をもち、セメントが化学反応により硬化する際に発生するクラックと呼ぶひび割れが生じない限りは高い水密性が期待できる。これらの性質から防音性、保温性に優れマンション等の構造に採用されるほか、スランプと呼ぶコンクリートを打設する際の硬さや柔らかさの設定次第でいわゆるコンパネの通称で知られるコンポジットパネルにより組み立てられた型枠形状に流動性を以て追従し、平面形状や断面形状の自由度の高い形態を作り易く、意匠性の高い建物に使用されることが多い。一般戸建住宅を除き日本では多くの建物がこの工法で造られている。
経済性[編集]
一般的なマンションの住戸内の間取りは採光・換気等の法令上の条件によりベランダやバルコニー側に個室やリビングルーム等の居室が2-3室で、共用廊下側は玄関・個室・浴室や便所等のユーティリティが配置されることが多く、鉄筋コンクリート構造の柱同士の間隔は一定の範囲内におさまる傾向がある。マンションの最下階に駐車場や店舗を持ついわゆる下駄履きマンションでない限り、経済スパンと呼ぶ5-7m内外の範囲内に柱の配置計画を行なうことから建物用途としてマンションで多く採用される傾向が高くなる。
鉄筋コンクリート構造は自重が重く、ある一定限度以上の階数や体育館や展示場のように柱の無い大空間を要する建築物では構造計算上は成立しても鉄骨構造や鉄骨鉄筋コンクリート構造に比較して経済効率が悪くなるため経済性を重視する際には他の構造を採用することが多い。鉄筋コンクリート構造を採用する是非は一般的には建設材料を運搬する車輛の道路条件や立地条件により決定され、他の構造が採用できずに鉄筋コンクリート構造を用いる際にはあらかじめ鋼材に引張力を持たせるプレストレスト導入などの手段を用いなければならないことから建設工事費は通常の鉄筋コンクリート構造よりも割高になる。
鉄筋コンクリート構造を構成する材料は鉄筋及びセメントと骨材と水であり、生コン(フレッシュコンクリート)プラントから発送されるミキサー車が敷地にアクセスできる立地であれば鉄筋コンクリート構造の建物は建設可能となる。その一方で道路巾員の狭い狭隘道路の場合はミキサー車の積載重量は小さいものとなり、道路巾員が広い立地条件の敷地に比べて多数の往路回数が必要となり平方メートル当たりの価格は割高になる。
上記の条件を勘案した上で鉄筋コンクリート構造を用いた高層建築物を建設する際には他の構造を併用した複合構造によるHigh-RC等を採用することが多い。
建築基準法による使用材料の制限[編集]
建築基準法によると、梁(はり)や柱に使用するコンクリートは日本工業規格 (JIS) に基づき砂利やセメントなどを原料とするよう規定しており、それ以外の原料(溶融スラグなど)を柱等の主要構造部に使うと同法違反となる。理由として、溶融スラグを使用するとコンクリート内部が膨張し、コンクリート表面が2、3mm剥れてしまう「ポップアウト」現象が起こるからである。
鉄筋コンクリート建築規準[編集]
- 鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説
- 鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説
- 壁式構造関係設計規準集・同解説(壁式鉄筋コンクリート造編)
- 壁式構造配筋指針・同解説
脚注[編集]
- ↑ 『日経コンストラクション』2011.9.20p95
関連項目[編集]
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