美人局
美人局(つつもたせ)とは夫婦が共謀し行う恐喝または詐欺行為である。妻が「かも」になる男性を誘って姦通し、行為の最中または終わった瞬間に夫が現れて、妻を犯したことに因縁をつけ、法外な金銭を脅し取ることである。また、妻でなく、他の女で同等行為に至った場合でも類推される。
概要[編集]
出会い系サイトやツーショットダイヤルなどで知り合った女に部屋に誘われ衣服を脱ぎ、いざ性行為などを行おうとしたときに女の仲間の男が登場して「おれの女に何をする」というのが典型的なパターンである。
これらに類される行為で典型的なものは男性が女と会う約束をして実際に行ってみると、屈強な男に囲まれ金品を巻き上げられるという手法である。また呼び出されてラブホテルに入っていく所を写真に撮られ、後日家族や会社に曝露すると脅迫してくるケースもある。
また加害者の女が18歳未満だったりすると、被害者の男性も淫行条例違反や児童福祉法違反や児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童買春罪)に問われる危険があるので警察に被害届や告訴状が出せず、泣き寝入りになりやすい。もちろん加害者側もそれを見越してそのような女を用意する傾向も見られ、おやじ狩り等に代表される青少年犯罪の一形態として同種事件が起こるケースも報告されている。実際には強盗殺人事件に発展したり、脅し取った金が暴力団の資金源になっているケースがある。
続発する古典的手口「美人局」の今は「LINE」[編集]
「美人局」といえば、古くからある詐欺的行為で、手口は古典的ながらも大阪で今も続発している。少女と待ち合わせをしたはずが、現れるのは男たちで、現金などを奪われているという。ただ、現代事情に合わせ、その手段にはスマートフォンの無料アプリ「LINE」が使われており、古典的な犯罪に最新の文明がミックスされているという。
美人局-。男女が謀り、関係を持とうとした別の男性を陥れて現金を奪ったりする事件だ。古くは700年近く前の中国・元の時代にルーツがあるとされる。
現代では、テレホンクラブや出会い系サイトが被害者を探し出す舞台に使われていたが、ここに新たなツールが加わった。スマートフォンの無料通話アプリ「LINE」だ。
大阪では2014年7月、ラインで女性と待ち合わせていた男性が襲われて現金を奪われる美人局事件が10件近く相次ぎ、大阪府警はうち1件の事件に関与したとして、男女3人を逮捕するなどした。話題に上り、便利になったモノには犯罪者も寄ってくる。ただ、いくら技術が進歩しても、犯罪の根幹は古典的。時代が変わっても、注意すべきは「甘い誘い」なのだ。
「一緒に遊ぼう」
大阪市内の男性(28)が、府内の高校3年の少女(17)と知り合ったのは7月初旬ごろ。きっかけはスマホの出会い系アプリだった。
少女はこのアプリ内の掲示板に自身のラインのIDを掲載しており、男性はラインで少女にメッセージを送信。何度か連絡を取り合ううちに、親しくなり、2人きりで食事にも行ったという。一度会ったのは男性を信用させるための手口だったのか。それとも、出会った後に何かあったのか。
男性は7月12日、少女から「一緒に遊ぼう」というメッセージを受け取り、車を走らせて約束の場所へ向かった。これが罠だった。
あらかじめ指定されていた待ち合わせ場所の大阪市天王寺区の路上に到着すると、複数の男が控えており、男性はたちまち取り囲まれた。男たちは、別の車の後部座席に男性を無理やり押し込め、まもなく車を走らせ始めた。
「殺されたいんか」
「しばかれたことあるんか」
男らは車内で男性を脅し続けた。そして、男性の財布から現金約4万円を奪ったが、それでは足りなかったのか、最初の現場から北東約16キロ離れた守口市金田町のコンビニまで移動し、ATMで約18万円を引き出させた。ここでようやく、男性は解放されたという。
府警は「美人局事件」とみて捜査を開始。やがて、コンビニの防犯カメラに犯行で使用されたレンタカーが写っていたことなどから、少女らが浮上し、強盗容疑で少女と、20代の男らを逮捕した。
大阪では7月、同様の美人局事件が相次いでいた。例えば、以下のような被害が判明している。
《17日未明、守口市の路上で、男性会社員(24)が3人組の男に警棒のようなもので暴行された》
《17日午後11時20分ごろ、大阪市住吉区で、男性(39)が3人組の男に襲われ、現金約6万5千円を奪われた》
いずれの男性も出会い系アプリで知り合った女と会う約束をしており、ラインで呼び出されていた。府警は逮捕した少女らが関与した可能性もあると見て捜査を続けている。
広辞苑(第六版)によると、「美人局」という漢字は、中国・元の時代(1271~1368年)に記された「武林旧事」という書物に登場する。梅花女子大の米川明彦教授(日本語学)によると、娼妓が少年を誘い、後から出てきた男が娼妓を妻などと偽って少年を脅した-とのエピソードがあるという。もともとの意味も、現代の犯罪に通じていたようだ。
これが日本では、室町時代ごろから「つつもたせ」という言葉が出てくるというが、当時は、現在のような意味はなかったようだ。「つつ」は博徒が丁半ばくちで使う際にサイコロを入れる「筒」を指したとされる。博徒が客を相手にイカサマをすることから、人をだますという意味になり、妻を使って男性をだます犯罪を「つつもたせ」と呼ぶようになったという。
米川教授は「元の故事と日本の『つつもたせ』の意味が良く似ていたことから、『つつもたせ』に美人局の漢字を当てるようになった」と話す。
江戸時代には落語にもなった美人局。演目「駒長(こまちょう)」では、長兵衛という男が女房のお駒とともに借金取りを相手に美人局を企て、逆にお駒を借金取りに口説かれて、一緒に出て行ってしまうというエピソードが描かれている。
古典落語に詳しい情報科学芸術大学院大の小林昌広教授(日本芸能史)は「江戸の町民は美人局をある種、滑稽な犯罪としてみていたのだろう」とする。
「『自分はひっかからないだろう』などと考え、安易によく知らない女性と会うのは禁物」
こう警告するのは、第一東京弁護士会の服部梢弁護士。これまで美人局の絡んだ複数の事件を担当したことがあるといい、以下のような例を紹介してくれた。
ケース1《居酒屋で女性に声をかけられた男性。女性とすっかり意気投合し、毎日のように酒を酌み交わすように。やがて、ホテルで関係を持ったが、その後、男の声で「大人のけじめを見せてほしい」と電話がかかってきた》
ケース2《男性は突然、交際していた女性から「あなたとのことが夫にばれてしまい、慰謝料がいる」と言われ、その後、夫を名乗る男からも金銭を要求された。本当に夫婦だが「ばれた」と嘘をついたのか、もともと夫婦を装って金を脅し取ろうとしたのか、分からない》
服部弁護士は「美人局は男女間のトラブル。被害を受けた側は言い出しにくい。後ろめたい気持ちをたくみについた悪質な犯罪だ」と非難する。「表に出てこない被害も多く、弁護士に相談に来る人は氷山の一角に過ぎないのではないか」とした上で、「自分の危機管理力を見直してほしい」と話す。
服部弁護士の担当したケースの中には、数百万円を奪われた男性もいたという。笑えないオチである。
語源[編集]
本来は漢語の「美人局」と、日本語の「つつもたせ」とは、全く別のことばである。
「美人局」は、中国の元のころからの文献に見られる犯罪名で、明の時代に書かれた金瓶梅や紅楼夢抔の小説や、中国の笑話の大系である笑府などに、この手の話が良く出てくる。中国の元の時代、公娼を妾(めかけ)と偽って少年などをあざむく犯罪の名称で、これに和語「つつもたせ」を当て字とした(熟字訓)。江戸時代に作られた日本の風流滑稽譚にもいくつか出てくるが、当時、既婚女性は「お歯黒」をつけるのが原則だったため、実際にはほとんどなかったものと思われる。
一方つつもたせは、胴元の都合のいい目が出るような仕掛けがしてあるさいころを使った「いかさまとばく」のことで、そこから二束三文の安物を高く売りつける行為をさすようになり、さらに法外な料金で売春させることもそう呼ぶようになった。つつもたせの「つつ」とは暴力団の使う女性器の隠語で、これを持った女性を標的とする男性と一時的に同伴させて(女は華、それを「もたせる」)良い思いをさせた後で恐喝することから「筒持たせ」転じて「つつもたせ」となったとするのは根拠の無い俗説である。
歴史[編集]
不倫が文化的タブーとして扱われた歴史は古く、御成敗式目の第34条にすでに不倫についての罰則規定が見られる。
- 他人の妻を密懐する罪科の事 右、強奸、和奸を論ぜず、人の妻を懐抱するの輩、所領・半分を召せ被れ、出仕を罷め被る可し。所帯・無んば、遠流に処す可き也。女の所領・同じく之を召せ被る可し。所領・無んば、又、之を配流せ被る可き也。
不倫は男女とも所領半分没収(無ければ遠流)の上、男は公務罷免とされ、武家の家門にとって致命的な処罰が規定されている。武家社会においては美人局が恐ろしい罠(ハニートラップ)であった。
被害を受けないための対策法と対処法[編集]
- 出会い系サイトやツーショットダイヤルを使わない。
- 知らない人に声をかけられても相手にしないこと。
- 被害届や告訴状が出せなくても、民事訴訟で加害者に賠償金を請求できるので被害を受けても泣き寝入りせずに毅然とした態度で対応すること。
関連項目[編集]
- 同悪徳商法では無料プレゼント等といった「餌」を提示して相手を事務所などに呼び出し、逃げ出し難い状況を作って長時間拘束、強引に契約を結ばせる点がよく似ている。また、デート商法という恋愛感情を相手に錯覚させ、物品の購入を迫る悪徳商法もある。
- 親しい家族が美人局に引っ掛かり、金品を脅し取られていると誤認させる事で金銭を要求するケースも報告されている。
- ある意味、手法が共通している。
- 電車内で痴漢被害証言をでっちあげ、通報或いは告訴取り下げをネタに示談金をせしめる。
- 社内において経営者などの権力者が遅刻など因縁をつける要因を作るように煽り、別の経営者が罰金の名目で給料から法外な金額を給与天引きにより詐取すること。従業員を最低賃金以下で働かせることができるので習慣化しやすい反面、訴訟になるケースも多い。労働基準法第16条違反。