失敗国家
失敗国家(しっぱいこっか、英: failed state)、破綻国家(はたんこっか)、崩壊国家(ほうかいこっか)とは、国家機能を喪失し、内戦や政治の腐敗などによって国民に適切な行政サービスを提供できない国家のことである。
目次
定義[編集]
失敗国家の定義については統一されたものは無いが、アメリカ合衆国のシンクタンクの一つである平和基金会は以下の通り定義している。
- 領土支配の喪失、あるいは公権力の独占の喪失 (loss of control of its territory, or of the monopoly on the legitimate use of physical force therein)
- 正統な合議制意思決定機関の腐敗 (erosion of legitimate authority to make collective decisions)
- 公益事業の提供不能 (inability to provide public services)
- 国際社会の一員としての外交活動の不能 (inability to interact with other states as a full member of the international community)
失敗国家にしばしば見られる特徴は、社会的、政治的もしくは経済的な破綻である。
特徴[編集]
失敗国家の国民生活は例外無く悪化する。これは政府の無力、腐敗によって行政が機能しなくなり、警察、医療、電気、水道、交通、通信等の社会インフラストラクチャーが低下する為である。中でも治安は急速に悪化し、給料の遅配等により軍隊や警察では職場放棄やサボタージュが発生する。軍や警察が自ら犯罪行為をすることも起こる。この治安の悪化により、生産力と国民のモラルが低下する。農民が土地を捨てて難民化し飢餓が蔓延したり、略奪などが日常化したりする。
名目的に存在する政府は腐敗しており、統治能力はほぼ無い。例えばソマリアのバーレ政権末期では、大統領官邸を中心にした数百メートルの範囲にしか支配力が及ばなかった。
その他の地域で支配力を行使しているのは軍閥 (warlord) 等地域の有力者であり、彼らの持つ私兵集団である。これらの中には元は正規軍であったが兵士の給料の不払い等が続いた結果、私兵化した者も多い。地方ごとに有力者が勝手に独自の軍事組織を持ち、その他にも大小様々な自警団や盗賊が出没する。失敗国家の政府は一般に、国際的に国家主体と認められ徴税権やODA等の利権を持っているだけであり、実態は私兵組織と変わらない事が多い。
失敗国家とテロリストとの関係[編集]
失敗国家は国際的なテロリストの隠れ場所となる。これは、テロリストを逮捕できるような出入国管理や警察力がないためである。アルカーイダは失敗国家の一つであるアフガニスタンに潜伏していた。また、最近ではソマリアがアルカーイダの拠点となっているともされ、実際にアメリカ軍やエチオピア軍による軍事行動も行われている。
脆弱国家ランキング (旧・失敗国家ランキング)[編集]
2005年から毎年、アメリカのシンクタンクの一つである平和基金会が失敗国家ランキングを発表していた[1](下記外部リンクも参照)。2014年より、脆弱国家ランキングに名称が変更されている[2]。
この評価では、不安定の要因となる12の指標を各10点満点合計120点で採点し、高い国ほど失敗と評価している。この指標は、脆弱国家指標 (The Fragile States Index)と呼ばれている(2013年までは失敗国家指標(The Failed States Index))。90点以上を警報状態(Alert)、90点未満60点以上を要注意(Warning)、60点未満30点以上を普通(Moderate)、30点未満を安定(Sustainable)と区分している。
2014年度のランキングにおける最下位、即ち最も安定した国とされているのはフィンランド(178位)である。アフガニスタンは7位、パキスタンは10位、イラクは13位、ミャンマー(ビルマ)は24位、北朝鮮は26位、中国は68位、2008年度で中国と順位が同じだったエクアドルは79位、タイは80位、ロシアは85位、2008年度でロシアと同じ順位だったスワジランドは51位、韓国は156位、アメリカは159位。イタリア(148位)・フランス(160位)・イギリス(161位)・ドイツ(165位)らヨーロッパの先進諸国は、下位ではあるが、安定ではなく、普通としてランキングされている。日本(157位)は2014年に前年(156位)から順位を1つ落とし、157位となった。2011年まではG8先進国では168位のカナダに次いで安定した国とされていたが、2012年と2013年は6番目、2014年は4番目に安定した国に位置している。
また、日本は2008年まで30点未満の安定した国に属していたが、2009年以降はランキングの総合得点が30点以上となり、安定した国の1ランク下の普通の国家に属することになった。更には2012年は東日本大震災の影響により2011年と比べて12.5ポイント増加し、40点を超えた。しかし、2013年には改善して、36.1点に下がったが、2014年は少し上がり36.3点となった。そして、2008年度と2014年度で比較すると、最も悪化した指標はI-2の難民および国内避難民の大量移動(Massive Movement of Refugees and IDPs)であり、2.4ポイント上がっていた。2番目はI-6の急激または深刻な経済状況の悪化(Sharp and/or Severe Economic Decline)で1.3ポイント上がっていた。そして、3番目がI-8の公共サービスの漸進的悪化 (Progressive Deterioration of Public Services)で+1.2ポイントである。逆に改善した指標はI-5の集団による経済発展の不均衡(Uneven Economic Development along Group Lines)の-0.4ポイント、次はI-9の大規模な人権侵害(Widespread Violation of Human Rights)とI-10の治安維持組織の派閥化(Security Apparatus as "State within a State")が-0.1ポイントである。
また、個別の指標で2.5点以上とされたものは、
- I-1:人口圧力の増大 (Mounting Demographic Pressures) [4.7点]
- I-2:難民および国内避難民の大量移動 (Massive Movement of Refugees and IDPs) [3.4点]
- I-3:集団としての不平不満が残っており、復讐への動機が残っていること (Legacy of Vengeance - Seeking Group Grievance) [4.1点]
- I-6:急激または深刻な経済状況の悪化 (Sharp and/or Severe Economic Decline) [3.6点]
- I-9:大規模な人権侵害 (Widespread Violation of Human Rights) [3.3点]
- I-11:利己的エリートの台頭 (Rise of Factionalized Elites) [2.6点]
- I-12:他の国家または外部の主体の介入 (Intervention of Other States or External Actors) [3.9点]
である。
各年のワースト20[編集]
その他[編集]
日本赤十字九州国際看護大学の喜多悦子教授は失敗国家を見分ける2つの簡単な基準として、「警察官や兵士の給料をきちんと払えていない国」と「教師の給料をきちんと払っていない国」を挙げている。
脚注[編集]
- ↑ 失敗国家ランキング(英語)
- ↑ 世界脆弱国家ランキング、南スーダンが最も脆弱 CNN.jp 2014年7月12日閲覧。
- ↑ 南スーダンは2011年7月9日に独立したため、他国と正確に比較することは困難であるため、2012年度失敗国家ランキングでは、順位が付けられていない。もし付けた場合は、順位は4位に相当する。
- ↑ 2005年、パキスタンは34位であった。
- ↑ 2006年、ウガンダは21位であった。
- ↑ 2013年、シリアは21位であった。
- ↑ 2006年、ナイジェリアは22位であった。
- ↑ 2005年、ビルマ/ミャンマーは23位であった。
- ↑ 2006年、エチオピアは26位であった。
- ↑ 2007年、レバノンは28位であった。
- ↑ ミャンマーと同率の18位。
- ↑ ギニアビサウと同率の18位。
- ↑ ニジェールと同率19位。
- ↑ 2005年、ネパールは35位であった。
- ↑ 2007年より、Timor-Leste(東ティモール)が含まれている。
- ↑ 2007年、スリランカは25位であった。
- ↑ エチオピアと同率19位。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- 松本仁一『カラシニコフ』 朝日新聞社 2004年 ISBN 4-02-257929-3
- 伊勢崎賢治『武装解除』 講談社現代新書 2004年 ISBN 4-06-149767-7