マツダ・RX-8
RX-8(アールエックス-エイト)はロータリーエンジンを搭載し、マツダが製造・販売していた自動車である。2012年6月22日をもって生産終了した[1][2]。略称は「8(エイト)」。開発コードは「J60」。
概要[編集]
プラットフォームの型式名はRX-7に引き続くFE型だが、マツダのロータリースポーツ車の新規車種として設計・生産され、2003年に発売が開始された[3]。搭載されるエンジンも、型式こそ従来と変わらない13B型であるが、ポートやハウジングを含めほとんどを新設計されたものを搭載し、プラットフォームはマツダ・FEプラットフォームが用いられた。月間1,000台の販売を計画した。
RX-7の後部座席は「ワンマイルシート」と揶揄されるような補助的なもので、乗員の長距離移動には不向きであったが、RX-8ではアメリカなどの保険の関係により4ドアがフォード側の絶対条件であったため、大人4人が乗れるかたちでの登場となった。 しかし、4ドアにすると車体が大きくなり重量も増し、ロータリースポーツの旨みである「軽快さ」がスポイルされてしまう。そこでマツダが開発したのが前後観音開きになる「フリースタイルドア」である。アウターパネルがアルミ製の後部ドアは室内にドアノブが存在し、前部が開くことによって初めて開閉が可能となり、前部が後部ドアをロックする役割も兼ね備えている。したがって、後席の乗員の降車時は、前席の乗員もしくは外からフロント側のドアを開けてもらう必要がある(前席の乗員がいない場合には、前席を倒した後で身を乗り出してフロント側ドアを開けることで単独降車は可能であり、助手席側後部座席には、前シートを倒すレバーも付いている)[4]。
また、ピラーと呼ばれるボディーの上下を結ぶ骨組みをドアに組み込んだビルトインピラーを他社に先駆け採用、ピラーレス構造を実現しつつ開口部拡大による剛性低下を防いでいる。ブレーキキャリパーはフロント/リアとも片押し1ピストンであるが、フロントのディスクローター径はグレードにより大径となる。MT仕様のプロペラシャフトはカーボンファイバー強化樹脂とスチールを組み合わせた軽量ワンピース型を採用(AT仕様はスチール製)。パワーステアリングはモーター制御の電動を採用した。
安全面では国土交通省による衝突安全性能総合評価において、運転席、助手席とも最高ランクの六つ星を獲得[5]し、ブレーキ性能試験においても100km/hからの停止距離が38.6m(湿潤時は44.4m)と、この記録は試験を行った歴代全車両の中で、2013年現在もトップである。一方、歩行者頭部保護性能試験では頭部保護機能を持ったボンネットを採用しているものの、低いフロント形状の特性ゆえレベル1に留まる。
軽量化のため、全グレードにわたってスペアタイヤは搭載されず、パンク修理キットで代用している(テンパータイヤは販売店装着オプション)。
運動性能向上のためエンジンやトランスミッションを車体中心へ寄せてマウントしたこと、触媒が右座席乗員の左ヒザ裏下付近にあることなどから、室内床面およびセンターコンソールが高温になる傾向があり、のちに断熱材追加などの対策がなされている。
2005年12月13日放送のプロジェクトX「技術者魂永遠に~新ロータリーエンジン 革命車に挑む~」では、開発者から家族4人で乗ることができる「ファミリーカー」として開発したことが語られている。
エンジン[編集]
前述の通り、搭載エンジンは『ロータリーエンジン』である。排気ガス規制の強化や燃費向上のため、ターボチャージャーは搭載せず自然吸気(NA)となっているが、レブリミットは9,000rpm(マツダ・787BのR26B型エンジンと同数値)という高回転型ユニットとなっている。設計の変更により、この「RENESIS RE」は従来のロータリーエンジンと比較して燃費も向上しており、より大きなトルクを発生するものとなっている。イギリスの「エンジン・テクノロジー・インターナショナル」が主催する「インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー2003」を、過去最高の審査員50人中44人の得票を得て受賞した。「RENESIS RE」は、ターボチャージャーを廃したことで、伸びやかでストレスなくレブリミットまで回転する、よりロータリーエンジンの旨みを引き出したエンジンとなった。このエンジンの基となったものを搭載した車が、次期RX-7と呼ばれたコンセプトカー「RX-01」(1995年東京モーターショー展示車)で、吸気と同じく排気もサイドポート(これ以前はペリフェラルポート)にすることによりオーバーラップ0が実現できたため、数値通りの圧縮比が出せるようになり、低回転域のトルクも向上した。同時に燃費向上とクリーンな排ガスを実現した。しかし、サイド排気にした事により「熱だまり」ができてしまい、13B-REWよりも冷却が厳しくなった。プラグ周りやインターミディエイトハウジングの放熱性に難があり、ローターハウジングは、マイナーチェンジ前だけでも予告なしで改良された3種類のものが存在する。またセルモーターやオイルパン、ブローバイ関連にも難があり、途中より改良品が導入されている。
マツダのスポーツカーに継承されてきたフロントミッドシップをさらに推し進めた、「アドバンストフロントミッドシップ」レイアウトを採用。車両の重量配分はRX-7の最終型であるFD3S型と同様に「前後50対50」の比率を確保し、エンジンの搭載位置をより低くしたため、FD3S型よりもヨー慣性モーメントが5%低減され、高い旋回性能を誇っている。
なお、ロータリーエンジンはローターハウジング内で吸気、圧縮、爆発、排気の行程が異なる場所で行われるため、耐ノッキング性能に優れ、水素燃料などのガス燃料を燃焼するのに安全性が高く、一番効率が良いとされ、水素ロータリーエンジン「HYDROGEN RE」を搭載した水素型RX-8「ハイドロジェンRE」が開発されている。スイッチ一つでガソリンと水素を切り替えて使用できるバイフューエルとなっている。2006年現在広島県・山口県・岩谷産業・出光興産に計8台を貸与して公道試験走行が行われている。2009年からはノルウェーのHyNorプロジェクトに参加、30台を納入する[6]。
エンジンの最高出力は、カタログデータで標準モデル(5速MT/4速AT)が210PS、TYPE-E(6速AT)は215PS、TYPE-S(6速MT)250PS(以上マイナーチェンジ前の数値)である。ハイドロジェンREの水素使用時は110PSの出力に留まる。マイナーチェンジ前の210PSモデルは吸気ポートが4つであり、215PS、250PSのモデルは6PI(吸気ポートが6つ)であるが、マイナーチェンジ後に全て6PIで統一された。また後期型はハイパワー版が250PSから235PSに修正されている。この理由はレギュラーガソリンへの適合のためとされているが、より実測出力値に近い数値に合わせたともいわれている。ロータリーエンジン搭載車としては、初めて電子スロットルを採用し、各種走行安定装置(電子制御)も導入されたモデルである。
なお、メーカーによる慣らし運転推奨車種(取扱説明書に記載)となっている。
なお、NAエンジンではあるが社外品としてのターボキットも多数存在する。
マイナーチェンジ[編集]
RX-8は2008年3月10日、マイナーチェンジされた。右端に見える上の写真は今までの前期型、その一つ下が2008年からのマイナーチェンジされたRX-8である。写真を見比べて、外見だけでも細かい変更点があることがわかる。そのほかの変更点は、新しくでた「タイプRS」がハイパワーモデルとなったことで、カタログ記載の最高出力が250PSから235PSに低下した事である。因みにこれは先述の変更によるものである。しかし、タイプSは依然250PSのままであった。[7][8]。また、ノックセンサーの数が増やされ(1個→2個)、燃料マップの変更により、レギュラーガソリンへの適応が拡大した。さらにエンジン内部へのメタリングポンプによるオイル供給も、インジェクターが2本から3本に増設され細かく制御されるようになった。またメタリングポンプ自体も機械式から電磁式に変更された。デジタル表示スピードメーター一体型のタコメーターには「可変レッドゾーンシステム」が採用され、水温が上昇するまでエンジン回転が低めに設定されるようになった。これにより、スピードが出過ぎることの防止に役立った。マイナーチェンジ前の日本国内販売RX-8については、シングルオイルクーラーのみであった(輸出仕様はツインオイルクーラーがあった)が、マイナーチェンジによりタイプRSなどの上級グレードにツインオイルクーラーが設定された。また、オイルフィルターの位置がバルクヘッド近くのエンジン上面から、エンジン下面に移動され、デフケースの冷却フィンの追加や、オイルパン、オイルパン部分のアンダーカバーの形状変更がなされた。サスペンションジオメトリーの変更もした。具体的にはリアサスペンションアームの取り付け位置が変更され、バネレートも高められた。併せてフロントはタワーバーの採用でねじり剛性をアップすると同時にスプリング・レートを高めている。電動パワステもソフトウェアのパラメータを変更し、以前より優れた操舵感を手に入れた。ソフトウェアは欧州/日米で異なり、欧州のものはセンターフィールを重視、日米のものはクイック感を重視という味付けの違いがある。タワーバーでフロント回り、助手席インパネメンバー接合強化でステアリングマウント部の剛性感を向上。さらにドア開口部の接合強化によって車体の剛性をアップ。 すべてのエンジンが6ポート(6PI)となり、4ポートのエンジンは消滅した。触媒とマフラーが変更された。6速ミッションがアイシン製から自社製となり耐久性が向上した。カーボン製シンクロの採用。前後バンパーの形状変更、左右のフロントフェンダーの形状変更、ライトの形状変更。リアコンビネーションランプをLED式に変更。リアの「Mazda」エンブレムを省略。新グレードRSには、専用フロントバンパーとウレタン充填フロントクロスメンバー、専用19インチタイヤ、ビルシュタイン社製ダンパー、レカロ社製シートなどが標準装備された。
特別仕様車『スピリットR』[編集]
スピリットRは、RX-8の生産を終了する日、2012年6月22日が近づいてくるにつれ、ファンのRX-8生産終了を惜しむ声が高まったのと、マツダのサプライズ的な計らいにより、要出典2011年11月24日発売。内外装の装飾品の取り付けと、様々な箇所への配色の変更を施した限定車。駆動系やエンジンは「タイプS」のものを変更なしの状態で流用。同じくシャシーなども「タイプS」の流用で変更はなし。2000台が生産され、予定通りRX-8は2012年6月22日に華々しい生産の終了を迎えた。
レース[編集]
エンジンが高出力化しがたい構造なので、プロレースにおいてはエンジンスワップを行った車両が使用されることが多い。
- スーパー耐久にて、一部プライベーターチームによりレースに投入されたが、短期間の参加に留まった。
- マツダが、アマチュア向きに「RX-8パーティレース」というワンメイクレースを開催していた。改造範囲は限定され、専用のロールバーなども発売されていた。レースの運営は、マツダではなく専業業者が行ったが、現在では終了している。
- レースではないが、D1グランプリにて、FD3Sのエンジンに換装されたマシンが出走している。
- 2008年3月と2010年1月アメリカにおいて デイトナ24時間レースで 3ローターNAを搭載したRX-8がクラス優勝している。
- MAZDA-USAでは、20Bペリポートエンジンを搭載したRX-8が、レース用としてコンプリート販売されている。
- JAF全日本ジムカーナ選手権で川北忠選手のRX-8 typeS(平成15年式)が2010年度SA1クラスにてシリーズチャンピオンを獲得している。
歴史[編集]
- 1999年10月23日
- 東京モーターショーでコンセプトカー「RX-EVOLV(エボルブ)」を出品[9]。
- 2001年1月
- デトロイト・ショーで「RX-8」と名付けられた車が最初に発表される。外観はRX-EVOLVの流れを引き継いでいた[10]。
- 2001年10月
- 第35回東京モーターショーでの発表。デトロイト・ショーの時のスタイルが若干変更された[11]。
- 2003年1月7日
- 北米国際自動車ショーで市販モデル発表[12]。
- 2003年1月10日
- 東京オートサロンで量産型が出展。右ハンドル仕様。
- 2003年1月29日
- エンジンの生産開始[13]。
- 2003年2月17日
- 宇品第1工場で生産開始[14]。
- 2003年4月9日
- 発表(販売開始は同年5月)[15]。
- 2003年12月24日
- 限定車「マツダRX-8 マツダスピードバージョン」の販売を発表(販売開始は翌年2月)[16]。
- 2004年8月20日
- 一部改良。また、限定車「マツダRX-8マツダスピードバージョンII」を販売開始[17]。
- 2004年10月
- 水素ロータリー車の公道走行開始[18]。
- 2004年11月24日
- 特別仕様車「Sport Prestige Limited」を発売[19]。
- 2005年10月
- 特別仕様車「Sport Prestige Limited II」を発売
- 2006年8月
- 一部改良。6速ATの設定、車体色の追加などが行われた(販売開始は同年10月中旬)[20]。
- 2007年8月8日
- 限定車「マツダRX-8ロータリーエンジン40周年記念車」を発売[21]。
- 2008年1月
- 東京オートサロンにマツダスピードコンセプトを出品[22]。
- 2008年3月10日
- マイナーチェンジ。新グレード「Type RS」の追加[23]。
- 2009年5月25日
- 一部改良。レインセンサーワイパー(フロント)、オートライトシステム、撥水機能、アドバンスドキーレスエントリー&スタートシステムを標準装備化し、オーディオレス仕様に変更。ボディカラーは「アルミニウムメタリック」と「メトロポリタングレーマイカ」を追加し、体系を整理。また、ベースグレードは5MTを廃止し6ATのみとした上で「Type G」に名称変更した[24]。
- 2010年5月
- 欧州での排ガス規制ユーロ5に適合しなくなるため、欧州での販売終了を決定。なお、日本とアメリカでの販売は継続される[25]。
- 2011年11月24日
- 特別仕様車『スピリットR』発売[26][27][28]。マツダでは「RX-8最後の特別仕様車」とアナウンス。なお、本仕様は当初販売計画の1,000台を超える受注を得たため、2012年4月26日に1,000台の追加生産を行うことを発表した[29]。
- 2012年6月22日
- 生産終了[1][2]。これにより新車購入可能なロータリーエンジン搭載車は姿を消した(ただし、マツダはロータリーエンジンの研究開発自体は行っているとの発表がある[2])。
- 2013年4月11日
- 公式サイトが削除された。
型式[編集]
- SE3P
脚註・出典[編集]
- ↑ 1.0 1.1 マツダ、RX-8最後の生産 - 中国新聞 2012年6月23日
- ↑ 2.0 2.1 2.2 マツダ、RX-8の生産を終了…最終モデルがラインオフ - レスポンス 2012年6月27日
- ↑ RX-7のSA・FC・FDの各モデルチェンジでも変更点は大きく、RX-8の新規設計をことさら言うにはあたらない。
- ↑ 4ドア形式はマツダ独自であるが、片側のみの3ドア形式であればサターン・Sシリーズのクーペモデルや初代トヨタ・bBのオープンデッキなどに前例がある。
- ↑ 自動車アセスメント情報安全性能試験結果詳細データ(Type S)
- ↑ マツダ、ノルウェー仕様の水素自動車『マツダRX-8 ハイドロジェンRE』の第1号車を完成
- ↑ xaCAR、5月号、20P(三栄書房、2008年)
- ↑ ちなみにベースグレードは、210PSから215PSにパワーアップした以外は変更なし。
- ↑ マツダ、新型ロータリーエンジン搭載のコンセプトカー「RX-EVOLV」他を出品 - マツダ 1999年10月13日
- ↑ 「RX-8」のデザインモデルを北米国際オートショーに出品 - マツダ 2001年1月9日
- ↑ マツダ、「アテンザ」 「RX-8」を東京モーターショーに出品 - マツダ 2001年10月17日
- ↑ コンセプトカー「Mazda 鷲羽(わしゅう)」と「Mazda RX-8」量産車を北米国際自動車ショーに出品 - マツダ 2003年1月7日
- ↑ マツダ(株)、新世代ロータリーエンジン「RENESIS」の生産を開始 - マツダ 2003年1月29日
- ↑ マツダ(株)、「Mazda RX-8」の生産を開始 - マツダ 2003年2月17日
- ↑ 4ドア・4シーターのスポーツカー「Mazda RX-8」を発表 - マツダ 2003年4月9日
- ↑ 「マツダRX-8 マツダスピードバージョン」を限定発売 - マツダ 2003年12月24日
- ↑ 「マツダRX-8マツダスピードバージョンII」を限定発売 - マツダ 2004年8月20日
- ↑ マツダ(株)、RX-8水素ロータリーエンジン車の公道走行を開始 - 2004年10月27日
- ↑ マツダRX-8の特別仕様車「Sport Prestige Limited(スポーツ・プレステージ・リミテッド)」を発売 - マツダ 2004年11月24日
- ↑ [http://www.mazda.co.jp/corporate/publicity/release/2006/200608/060822.html 「マツダRX-8」を一部改良して発売 マツダ 2006年08月22日
- ↑ 限定車「マツダRX-8ロータリーエンジン40周年記念車」を発売 - マツダ 2007年8月8日
- ↑ 「マツダアテンザ マツダスピードコンセプト」を東京オートサロン2008に出品 - マツダ 2007年12月14日
- ↑ 「マツダRX-8」をマイナーチェンジして発売 - マツダ 2008年3月10日
- ↑ 「マツダRX-8」を一部改良 - マツダ 2009年5月25日
- ↑ マツダ RX-8 欧州販売終了…次世代ロータリーの行方は? - レスポンス 2010年5月7日
- ↑ 【MAZDA】RX-8 SPIRIT R
- ↑ マツダ、「RX-8」最後の特別仕様車を11月に発売 来夏に生産終了 - 財経新聞 2011年10月7日
- ↑ マツダRX-8終了へ ロータリーエンジン搭載車は未定 - asahi.com 2011年10月7日
- ↑ 「マツダ RX-8」の最後の特別仕様車「SPIRIT R」を追加生産 - マツダ株式会社 ニュースリリース 2012年4月26日