パラドックス
パラドックス (paradox) とは、
- 一見すると筋が通っているように思えるにもかかわらず、明らかに矛盾していたり、誤った結論を導いたりするような、言説や思考実験などのこと。
- 数学において、公理系に生じた矛盾点のこと。
- 一般的な直感と反した、数学的に正しい解答や定理のこと。
- ある目標を追おうとすればするほどかえって目標から遠ざかったり、ある主義を貫こうとするがゆえにかえってその主義に反することをしなければならなかったりする状況。
逆説、逆理、背理と訳される。ギリシャ語で "para" は「反」「逆」を、"dox" は「意見」という意味を表す。有名なものに、自己言及のパラドックス、リシャールのパラドックス、ベリーのパラドックスがある。
本質的に、パラドックスは、「生か死か」「在るか無いか」のような二極が対立する論理において生じる。
目次
矛盾とパラドックス[編集]
混同されがちだが、矛盾とパラドックスとは本質的に異なる概念である。前者は本来は仮定(公理)や定義がはっきりした状況で用いる言葉であるのに対し、後者は仮定がはっきりしないからこそ起こる矛盾を指す。
例えば有名な「嘘つきパラドックス」は、「嘘」とは何か「嘘つき」とは何かがはっきりしないからこそ「パラドックス」なのである。これらがはっきり定義された状況では「嘘つきパラドックス」は「パラドックス」ではなく単なる「矛盾」に化ける。
「嘘つきパラドックス」は例えば「ゲーデルの不完全性定理」や「チューリングマシンの停止問題」の証明中で背理法の一部として用いられるが、これらの証明中での「嘘つきパラドックス」は状況がはっきりしているので「パラドックス」ではなく単なる「矛盾」である。
ゲーデルの不完全性定理の証明中に「嘘つきパラドックス」を使っているがゆえにゲーデルの不完全性定理は間違っていると主張する向きもあるが、これは以上の理由により、全くの嘘である。前述のように、ゲーデルの不完全性定理の証明中で使っているのは「パラドックス」ではなく「矛盾」である。
(数学に関わる)既存のパラドックスは全て、仮定をはっきりさせないいい加減な論理が原因になっているのであって、仮定をはっきりさせさえすればパラドックスは解消される。19世紀までの数学は、今に比べればだいぶいい加減なものだったので、様々なパラドックスを内包していた。しかし20世紀以降、数学者の努力により、数学はより厳密なものへと変化し、これら全てのパラドックスは解消された。
見かけ上のパラドックス[編集]
真の意味でのパラドックスは、上述のように仮定や定義のいい加減さが原因で起こる現象を指すが、 これとは別に「論理的には正しいが直観にあわない定理」の事も「パラドックス」という事がある。 この意味でのパラドックスは、真の意味でのパラドックスと区別する為、「見かけ上のパラドックス」と呼ばれる事がある。
例えば「誕生日のパラドックス」は見かけ上のパラドックスとして知られる。 これは「23人のクラスの中に誕生日が同じである2人がいる確率は50%以上」というもので、 数学的には正しい事実だが、多くの人は50%よりもずっと低い確率を想像する。
他にも「ヘンペルのカラス」、「バナッハ・タルスキの逆理」などが見かけ上のパラドックスとして知られる(が、これら2つは、数学の公理の妥当性に疑問を投げかける、重大なパラドックスである)。
数学以外のパラドックス[編集]
数学以外の分野では、「パラドックス」という言葉はよりラフに用いられ、 「ジレンマ」、「矛盾」、「意図に反した結果」、「理論と現実のギャップ」等、文脈により様々な意味に用いられる。
パラドックスの一覧[編集]
哲学[編集]
- ゼノンのパラドックス
- 最も有名なものは下記の「アキレウスとカメのパラドックス」。
- 他のものについてはリンク先記事を参照。
- カメを追いかけてカメのいた地点にたどり着いても、その時点でカメはさらに先に進んでいるため永久にカメに追いつくことはできない。
数学・記号論理学[編集]
- バナッハ=タルスキーのパラドックス:球を5個以上に分割して組み立てなおすと、もとの球と同じ大きさの球が2個できる、というもの。選択公理の不自然さを指摘したもの。
- ヘンペルのカラス:カラスを一羽も見る事無く「カラスは黒い」を証明できる、というもの。対偶論法の不自然さを指摘したもの。
- 抜き打ちテストのパラドックス:「期間内に抜き打ちテストを行う」という特に間違ってなさそうな言説から矛盾を導く。このパラドックスを解消するには様相論理を必要とする。
- 料金の紛失のパラドックス:見かけ上のパラドックス。というよりも単なる論理パズル。
自己言及パラドックス関連[編集]
- ラッセルのパラドックス:自分自身を要素としない集合の集合は、自分自身を含んでいるか
- ベリーのパラドックス:「19文字以内で記述できない最小の自然数」は何か? (「」内の文章自体が19文字であることに注意)
- 嘘つきのパラドックス:「この文章は嘘である」。ゲーデルはこれを「この命題は証明出来ない」という命題に改めて、第一不完全性定理を導いた。
- カリーのパラドックス:「この文章が正しいならばAである」(Aが真でない場合、矛盾する)
- 床屋のパラドックス:ある村の床屋は自分で髭を剃らない村人全員の髭だけを剃ることになっている。それではこの床屋自身の髭は誰が剃るのか。
- 張り紙禁止のパラドックス:「この壁に張り紙をしてはならない」という張り紙は許容されるか。
- リシャールのパラドックス
無限の濃度に関するもの[編集]
- ガリレオのパラドックス
- ヒルベルトの無限ホテルのパラドックス
- 無限に部屋のあるホテルは、満室であってもそれぞれn番目の客室の客にn+m番目の客室に移ってもらうことにより、さらにm人の客を泊めることができる。無限の客がやってきても入室可能。
これら2つは一見真のパラドックスに見えるが、実は見かけ上のパラドックスにすぎず、数学的に正しい事実を述べている。基数を見よ。
確率論関連[編集]
- 誕生日のパラドックス
- 何人の人が集まると、その中に同じ誕生日の2人がいる確率が50%以上となるか?
- モンティ・ホール問題
- 聖ペテルスブルグのパラドックス
- シンプソンのパラドックス
- 集団を2つに分けた場合にある仮説が成り立っても、集団全体では正反対の仮説が成立することがある。
これらは全て見かけ上のパラドックスに過ぎない。
物理[編集]
宇宙論関連[編集]
- オルバースのパラドックス
- 宇宙が一様かつ無限であれば一つの星の光は僅かでも総和として夜空は無限に明るくなるはずだというパラドックスだが膨張宇宙の発見により回避された。
- ゼーリガーのパラドックス
- 宇宙が一様かつ無限であれば一つの星の重力は僅かでも総和として地球はあらゆる方向から無限に強く引かれるはずだというパラドックスだがオルパースのパラドックスと同様。
相対論関連[編集]
量子論関連[編集]
- EPRのパラドックス
- シュレーディンガーの猫のパラドックス
経済学[編集]
SF[編集]
- 親殺しのパラドックス
- タイムマシンのパラドックス
- タイムマシンで過去に旅をすると、その途中でタイムマシンの製造過程を通過するためタイムマシンは分解してしまう。
未分類[編集]
- 投票の逆理(コンドルセのパラドックス)
- 投票行動のパラドックス
- 寛容のパラドックス
- 情報化社会のパラドックス
- ライオンのパラドックス
- アビリーンのパラドックス
- 全能の逆説
- エレベーターのパラドックス:エレベーターはいつも一方にばかり動いているように見える。