デジタル土方
デジタル土方(デジタルどかた)とは、システムエンジニアやプログラマなど情報技術産業で働く労働者の俗称。IT土方(アイティどかた)やコンピュータ土木作業員(こんぴゅーたどぼくさぎょういん)、システム屋(システムや)とも呼ばれる。
概要[編集]
パソコンや各種情報端末を駆使するIT産業は、現代の花形産業というマスコミが作り出した華やかなイメージやその専門性の高さとは裏腹に、実際の労働は地味で単調で長時間に及ぶため厳しい労働環境となるケースが多い。また、元請企業であるゼネコンが下請企業を支配し仕事を丸投げする建設業界によく似た多層式の産業構造になっているほか、多重派遣や偽装請負が頻繁に行われており、この様な構造によりIT業界そのものが維持され、その利益が上へ上へと吸い上げられているのが実態である。
このことから、末端の労働者が割に合わない低賃金の労働現場で厳しい労働実態を強いられている自らを卑下して表現する形で、デジタル土方、IT土方あるいはコンピュータ土木作業員などという表現がなされるようになった。
また、人月計算と呼ばれる日数と必要人数の掛け算という単純な計算によるシステム発注の金額の設定方法も土木作業員と同様の待遇といわれるゆえんである。
IT系人材派遣会社の存在[編集]
IT産業の元請企業が下請企業に仕事を丸投げする構造はたびたび批判されるが、そういった産業構造はIT産業以外でも珍しくない。とりわけIT産業が批判の対象となる理由は、IT系人材派遣会社の台頭にある。IT系人材派遣会社の多くは表向きは上流のSI企業だが、実態は未経験者歓迎を謳い文句に多くの人材を安価で調達し、上流のSI企業に提供する人材派遣業者である。未経験者は上流SI企業で働くことによるスキル向上を望んでいる場合が多いが、実際任される仕事は専門性を必要としないテスト作業であったり、作業単価の安いプログラミング作業である場合が多い。また未経験の多くは研修という名目でサービス残業を強要されるケースが後を絶たない。そのため、IT業界は搾取型のビジネスモデルによって成り立っているとされ、批判の対象となっている。
IT系人材派遣会社の多くは、有効求人倍率が低く就職氷河期の渦中であった1998年から2000年に起こったITバブル(過剰なIT投資ブーム)の波に乗り急伸した。ある程度の信用力と企業規模が求められる上流SIに比べ、参入が容易でリスクが低く確実なリターンが得られたIT系人材派遣会社は乱立した。また、請け負う仕事の量に応じて事業者間で人材を融通しあうことから、元請企業まで人材が届くまで5つ以上の会社を経由することは今でも珍しくない。ITバブル崩壊以後は業績悪化を理由に上場企業を中心にM&Aがさかんに行われるも、IT系人材派遣会社の多くは中小のワンマン企業で、乱立した企業群と人材を安価で提供するだけの搾取型ビジネスは今でも根強く残っている。
独立系システムインテグレータ[編集]
デジタル土方という言葉の流行は独立系システムインテグレータに起因する。独立系システムインテグレーターは過酷な労働環境を提供し、従業員は奴隷のごとく働く。独立系以外にはメーカー系、ユーザー系などがある。
- メーカー系 電機メーカーなどの子会社を指す、福利は親会社に準ずることが多く、本社のソフトウェア関連の仕事を受け持つ事が多い。
- ユーザー系 金融、流通、インフラストラクチャー、総合商社などのITと関係のない子会社か資本関係をもつ会社、親会社の仕事が多く福利も親会社に準ずることが多く、親会社のシステム部門が独立したものが多い。
- 独立系 親会社を持たない企業を指す。「一定の知名度と信頼があり顧客から直接業務を受注できる」「独自の人気コンテンツやソフトウェアがある」「組込みソフトウェアや回路設計など高度な技術を持っている」などで、安定した収入源を持っている企業もあるが、これらが無い場合は他の企業からの業務を下請することでしか収入がなくなってしまう。この事が収益の悪化と社員への待遇の悪化へ繋がっている。
新3K職場[編集]
労働環境の悪さを揶揄する意味として、従来のブルーカラーの労働環境を表す「きつい、汚い、危険」の3Kになぞらえ、新3Kあるいはニュー3Kと呼ばれる。2007年には、NTTデータの代表取締役である浜口友一が決算発表でこの言葉を例えに挙げて業界を憂えたと報道された。
新3Kの中身は諸説あるが2007年に開かれた情報処理推進機構によるITフォーラムでは、学生がIT業界に対して持つイメージとして「きつい、帰れない、給料が安い、休暇取れない、結婚できない、子供作れない」などの他に、多くのネガティブイメージの存在が明らかにされた。
一方、情報処理推進機構理事として2000年代に日本のIT国家戦略の支援に携わってきた藤原武平太は、企業新卒採用の課題を複数回答でまとめた表(第一位は、46.5%、業界の仕事のイメージが良くない)を踏まえて、「3K、5K、7K、10Kなど私自身は根拠がないと思っていることが、面白おかしく伝わっている。――略――。私は由々しき事態と思っている」と述べている。