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2022年9月4日 (日) 22:01時点における最新版

テンプレート:宇宙機 かぐやSELENE, Selenological and Engineering Explorer、セレーネ)は、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の周回衛星。この衛星を利用した月探査計画はSELENE Projectセレーネ計画)と呼ばれ、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のアポロ計画以降、最大の月探査計画とされる。主衛星と2機の子衛星で構成され、搭載する14種類の観測機器を用いて、月を周回しながら約1年間様々な観測を行う計画である。NHKハイビジョンカメラを搭載し、 かぐやの周回に伴って月に隠れていた地球が見えてくる『地球の出(アース・ライズ)』なども撮影されている。

SELENEはギリシア神話の月の女神セレネ (Σελήνη, Selene) にちなんだ名称である。

かぐやの愛称は、JAXAの行った一般公募によって決定された。後に子衛星2機にも愛称がつけられ、リレー衛星は「おきな」(OKINA)、VRAD衛星は「おうな」(OUNA) と命名された。それぞれ、竹取物語の中で月へと帰るかぐや姫と、育ての親の翁(おきな)、嫗(おうな)にちなむ。

当初は2007年8月16日に打上げが予定されていたが、コンデンサの取り付けミスや天候悪化などのため9月14日に延期された。打ち上げ後は順調に飛行を続け、予定通りに月周回軌道に入り、2機の子衛星を分離後に月面から高度100kmの月周回観測軌道に投入された。

目的[編集]

月の起源と進化を解明するためと将来の月の利用のため、さまざまな観測をすることを目的としている。

同時に周回衛星に搭載された観測機器で、プラズマ電磁場高エネルギー粒子などの月周辺空間の環境・計測を予定している。

将来的には、かぐや後継機による月面着陸の構想もある。

主衛星による主な観測項目[編集]

  • 月表面の元素/鉱物組成
  • 地形
  • 表面付近の地下構造
  • 磁気異常
  • 重力場の観測

VRAD衛星による主な観測項目[編集]

  • VLBI(超長基線電波干渉法)による、主衛星/リレー衛星との電波差異による月の周回運動の詳細観測。


機器概要[編集]

リレー衛星をRstar、VRAD衛星をVstarと呼称する。両者は軽量化のために姿勢制御装置やスラスターモータを搭載しないため、主衛星からの分離時の姿勢とスピンが重要な開発研究の要点として進められた。

主衛星[編集]

  • 縦・横: 2.1 m
  • 高さ: 4.2 m(上部モジュール: 2.8 m、下部モジュール: 1.2 m)
  • 重さ: 1.6トン
  • エンジン: 500Nメインエンジン1台、20Nスラスタ4本×3系統、1Nスラスタ4本×2系統

上部モジュールにリレー/VRAD衛星が取り付けられ、周回軌道投入時に切り離される。

月表面の画像撮影のために、高信頼性ハイビジョン (Hi-Vison) カメラを搭載。その他、月の物理学・測地学探査に重要な観測機器を搭載。観測機器の安定のため、スラスターモータ及び3軸加速度計による3軸安定姿勢制御システムによる制御を実施。

リレー衛星(おきな)[編集]

八角柱の形でダイポールアンテナを持つ。主目的は、主衛星の電波を月の裏側から中継、及び重力測定。姿勢を安定させるため、主衛星からの切り離し時にばね仕掛けで回転が与えられる(VRAD衛星も同様)。

VRAD衛星(おうな)[編集]

VRADとは differential Vlbi RADio sources の略。八角柱の形でダイポールアンテナを備える。主目的は、主衛星、リレー衛星、VRAD間でのVLBI測定。そのための、電波送信源としての送信機。

搭載機器[編集]

元素分析[編集]

蛍光エックス線分光計
太陽から放射されるX線によって月面の元素が放つ光を捉えることで、における元素の分布を調べる装置。
ガンマ線分光計
銀河宇宙線が降り注ぐことにより月面から放射されるガンマ線や、天然放射性元素から放出されるガンマ線を捉えることで、月面におけるチタンマグネシウムアルミニウムカリウムトリウムウランカルシウム珪素酸素、及び極域の水素といった元素の分布を調べる装置。

地質学鉱物学分析[編集]

マルチバンドイメージャー
広い波長で光を観測することによって、地質鉱物の放つ光を観測し、その分布や組成を調査する装置。特に、元素分析装置との違いは、面で捉えることが出来る点である。
スペクトロプロファイラ
鉱物が放つ光を分光解析し、その分布や組成を調査する装置。鉱物の放つ光は、原子間の結合力と電磁波との共振によるため、単なる元素の相違のみならず、結晶構造の相違もある程度まで判別可能である。

地形表層構造[編集]

地形カメラ
立体視の原理を活用して、月表面の標高や地形データを調査する装置。
月レーダーサウンダ
レーダーの原理を用いて、衛星と月との間の距離を測定する装置。
レーザ高度計
衛星と月との間の距離を精密に測定するための基準となる装置。

月環境[編集]

月磁場観測装置
主として月の異常磁場を詳細に測定することを目的とした観測装置。
粒子線計測器
ヘリウムイオン電子などを測定することによって、太陽活動と月環境との関連性について調査する計測器。
プラズマ観測器
主に太陽風中の水素イオンと電子、月面から放出される比較的重いイオン、異常磁場によって月から反射される電子などを観測することによって、月周辺のプラズマ現象を理解することを目的とした装置。
電波科学
精密な電波観測によって、月周辺の電波環境を測定することなどが行われる観測装置。
プラズマイメージャ
プラズマ現象を点で捉えるのがプラズマ観測器ならば、面で捉えることが出来る観測装置。

月の重力分布[編集]

リレー衛星中継器と衛星電波源による観測
リレー衛星に搭載された中継器は、主観測機が月の裏面にあるときに地球へ電波を中継するためのものである。この中継局として使用される子衛星の電波源と主衛星自体の電波源を元に、主衛星と子衛星が地球に向いた軌道を周回中に同じ地点を通った場合、個々の衛星の軌道のブレを測定する事が可能である。
この楕円軌道を回る主衛星と子衛星の電波源の軌道遷移を測定し、月の重力分布による重力変動を捕らえる事が可能である。この軌道変動遷移の差を利用し、月の地下構造やクレータ内部に残る隕石起源の鉱物資源などを探ることができると考えられている。

ハイビジョンカメラ[編集]

概要
日本放送協会 (NHK) が開発した宇宙探査機用ハイビジョンカメラ。打ち上げ時の衝撃に耐えるために、大型ハンマーで叩くなどの実験を経て開発。心臓部は、高感度CCDカメラ。理論衝撃耐久能力は、120G。実効衝撃耐久能力は15G/h。ちなみにこの強度は、カシオのG-Shockを上回る。
広角カメラと望遠カメラを背中合わせにして機体に固定されている。動画の送信には実時間の約30倍かかるため、生中継はできない。
主な撮影対象
画像の公開
動画と静止画がJAXAのWebサイトで公開されているほか、2007年11月14日にはNHKで『探査機“かぐや”月の謎に迫る』として特集番組が放送された。
「地球の出」に関しては、アポロ計画時代の映像と「かぐや」からの映像を比較することによって、技術の進歩を実感できる映像も公開する予定である。

ミッションスケジュールと進捗[編集]

打ち上げ後から観測開始までのスケジュールおよび進捗を以下に示す。日時はすべて日本標準時 (JST) による表記。

活動名称 日時 事象/結果
打ち上げ 2007年9月14日 10時31分01秒 (JST) H-IIAロケット13号機にて種子島宇宙センターより打ち上げ
パドル類展開 2007年9月14日 11時44分 太陽電池パドルを展開
2007年9月14日 18時52分 ハイゲインアンテナを展開
軌道修正 2007年9月15日 1時32分 1回目の軌道調整(軌道投入誤差修正マヌーバ ΔVC1
2007年9月16日 8時00分 2回目の軌道調整(軌道制御誤差修正マヌーバ ΔVA1
2007年9月19日 9時52分 3回目の軌道調整(周期調整マヌーバ ΔVP1
2007年9月20日 4時59分 4回目の軌道調整(周期誤差修正マヌーバ ΔVC2
2007年9月29日 11時58分 5回目の軌道調整(周期調整マヌーバ ΔVP2
ハイビジョン撮影 2007年9月29日 軌道修正時及びその前後 ハイビジョンカメラで約11万km離れた地球を撮影。
軌道修正(実行省略) 2007年10月 6回目の軌道調整は誤差が極めて小さかったため実施せず(月周回軌道投入 (LOI) 条件調整マヌーバ ΔVC3
月周回軌道投入補正 2007年10月4日 5時55分~6時20分 月周回軌道へ投入(月周回軌道投入マヌーバ (LOI1))

翌日、近月点高度101km、遠月点高度11,741km、周期16時間42分の月周回軌道へ投入を確認。

月周回軌道変更 2007年10月6日 8時01分 第1回月周回軌道変更マヌーバ (LOI2)
2007年10月7日 7時40分 第2回月周回軌道変更マヌーバ (LOI3)
リレー衛星分離、軌道投入 2007年10月9日 9時36分 リレー衛星分離

遠月点高度2,400 kmの月周回楕円軌道へ投入。モニタ用カメラで月を撮影。

月周回軌道変更 2007年10月10日 9時24分 月周回軌道変更マヌーバ (LOI4)
VRAD衛星分離、軌道投入 2007年10月12日 13時28分 VRAD衛星分離。遠月点高度800 kmの月周回楕円軌道へ投入。

同日、リレー衛星とVRAD衛星の愛称が発表され、かぐや姫にちなんでそれぞれ「おきな (OKINA)」と「おうな (OUNA)」と命名。

月周回軌道変更 2007年10月14日~18日 月周回軌道変更マヌーバ (LOI5, LOI6)
予定軌道投入確認 2007年10月19日 かぐや本体が月の両極をまわる高度約100 kmの月周回観測軌道へ投入されたことを確認

投入された軌道は、遠月点高度123km、近月点高度80km、周期1時間58分。やや楕円だが、JAXAによると月の重力のひずみの影響で次第に円軌道へ近づくという。軌道の許容誤差は100km±30km。

クリティカルフェーズ終了宣言 2007年10月21日 JAXAの記者会見で、クリティカルフェーズ終了[1]初期機能確認フェーズへの移行[2]が発表された。主衛星と子衛星2基の状態は正常。主衛星の姿勢制御は、観測機器を常に月側へ向ける定常制御モードへ移行した。

同日、搭載機器確認用のモニタカメラで撮影された月や地球の画像が大量に公開された。

ミッション機器の展開・伸展 2007年10月28日~31日 月磁場観測装置 (LMAG)、月レーダサウンダー (LRS)、プラズマ観測装置 (UPI) の展開・伸展を行い、正常に動作していることを確認。
  • 11月上旬頃 定常観測軌道へ投入。搭載機器の初期確認を開始。
  • 12月中旬頃 初期確認が完了、定常観測を開始。

この後、それぞれの探査機は1年間に渡り、月探査を実施する予定。

これからの計画[編集]

後継機・無人探査車・月面着陸機[編集]

かぐやは月を周回して観測するが、JAXAは「かぐや」後継機で、月面着陸機を降下し、無人探査車を走行させる直接探査計画も進めている[3]。早ければ2013年頃に後継機 (SELENE-B[1]) で探査車を送り込み、2018年頃に月の岩石サンプルを地球へ持ち帰る予定。JAXAは2006年に月着陸探査検討チームを作り研究を重ねてきたが、技術は完成に近付きつつある。

しかしながら、まだまだ未解決の問題[4]等があり、かぐやから得られたデータを下にして、慎重に準備を進める予定である。2013年頃の打ち上げ予定ならば、2008年春頃に宇宙計画委員会へ審議提案、さらに2008年浜松にて予定している技術詳細発表(ISTS[2]: 宇宙技術および科学の国際シンポジウム)、国会や財務省には2009年度の予算編成の頃には詳細な計画や搭載探査装置等について正確な報告がなされると思われる。

キャンペーン[編集]

本探査計画を世界に広く知らせるために、また日本の宇宙航空技術への理解を深めるために、2006年12月1日から2007年2月28日まで月に届けたいメッセージを一般公募した(キャンペーン募集ページ)。 メッセージは名前とともに専用の応募用紙、またはインターネットから応募でき、名前とメッセージは衛星に載せられ月を周回する。

また、2007年4月11日から1ヶ月間、セレーネの愛称募集キャンペーンが実施され、5月30日に愛称は“かぐや”とすることが決定した。愛称に選ばれた応募者に対し、JAXAから認定証、ピンバッチ、クリアファイル及び“かぐや”のA4サイズポートレートが送付された。その中から抽選で種子島宇宙センターでのかぐや打ち上げに招待された。

かぐや応援キャンペーン[編集]

JAXAはかぐやを応援する団体を募集しており、さまざまな企業、団体、個人商店などがキャンペーンに参加している。音楽ユニットのSOUL'd OUTも参加しており、サポートソングとして「COZMIC TRAVEL」を発表している。

注釈[編集]

  1. クリティカルフェーズとは、衛星の打ち上げから予定軌道へ投入されるまでの期間のこと。姿勢制御の確立・地球との通信の確立・太陽電池パネル展開、軌道変更などの重要な作業が集中する。
  2. 初期機能確認フェーズとは、衛星に搭載された機器の電源投入や機能確認を行う期間のこと。
  3. 「SELENE」に着陸機を搭載することも検討されたが、技術的課題とスケジュールの関係で後継機に回された。
  4. 自動制御で月着陸を実施するとなると、通信のディレイタイム(遅延時間)が片道1.3秒、往復で2.6秒に達する。そのため、着陸地点の選定や探査目標等について現在も検討が行われている。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]