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生活保護は全国を市町村単位で6段階に分けている。また、冬期加算の基準にのみ使用される5段階の区分がもうけられている。
 
生活保護は全国を市町村単位で6段階に分けている。また、冬期加算の基準にのみ使用される5段階の区分がもうけられている。
  

2011年10月15日 (土) 17:53時点における版

生活保護その1
生活保護その2
生活保護その3
生活保護その4
生活保護その5

生活保護(せいかつほご)とは、日本の政府自治体が経済的に困窮する国民に対して生活保護費を支給するなどして最低限度の生活を保証する制度。

概要

水際作戦や不正受給などの問題点については生活保護問題を参照。

生活保護とは憲法第25条に規定する理念(生存権)に基づき、が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに自立を助長することをいう。最低限の生活ができない人間を放置せず、社会全体で支え合うべきであるという価値観が背景にある。高齢化社会に伴って高齢者の受給が増えているため多大な財政負担が発生しており、深刻な問題となっているが、その反面、累進税率に基づいて徴収した税を財源として最も困窮している者に対して支給されるので、所得の再分配機能=格差是正効果もあるとされる。

生活保護の原則

生活保護は次の原則に則って適用される。

  • 無差別平等の原則(生活保護法第2条)
    • 生活保護は、生活保護法4条1項に定める補足性の要件を満たす限り、全ての国民に無差別平等に適用される。生活困窮に陥った理由や過去の生活歴等は問わない。この原則は、法の下の平等日本国憲法第14条)によるものである。
  • 補足性の原則(生活保護法第4条)
    • 生活保護は、資産(預貯金・生命保険・不動産等)、能力(稼働能力等)や、他の法律による援助や扶助などその他あらゆるものを生活に活用してもなお、最低生活の維持が不可能なものに対して適用される。
    • 民法に定められた扶養義務者の扶養、その他の扶養は生活保護に優先して実施される。
  • 申請保護の原則(生活保護法第7条)
    • 生活保護は原則として要保護者の申請によって開始される。申請権は、要保護者本人はもちろん、扶養義務者や同居の親族にも認められている。ただし、急病人等、要保護状態にありながらも申請が困難な者もあるため、法は急迫保護(職権保護)が可能な旨を規定している。
  • 世帯単位の原則(生活保護法第10条)
    • 生活保護は世帯を単位として要否を判定し、その程度を決定する。
      • 例外として、世帯分離という制度がある(大学生など)。

生活保護の種類

生活保護は次の8種類からなる。

生活扶助
生活困窮者が、衣食、その他日常生活の需要を満たすための扶助であり、飲食物費、光熱水費、移送費などが支給される。主として第一類と第二類に分け計算され、第一類が個人ごとの飲食や衣服・娯楽費等の費用、第二類が世帯として消費する光熱費等となっている。
教育扶助
生活に困窮する家庭の児童が、義務教育を受けるのに必要な扶助であり、教育費の需要の実態に応じ、原則として金銭をもって支給される。
住宅扶助
生活困窮者が、家賃、間代、地代等を支払う必要があるとき、及びその補修、その他住宅を維持する必要があるときに行われる扶助である。原則として金銭をもって支給される。
医療扶助
生活困窮者が、けがや病気で医療を必要とするときに行われる扶助である。原則として現物支給(投薬、処置、手術、入院等の直接給付)により行われ、その治療内容は国民健康保険と同等とされている。なお、医療扶助は生活保護指定医療機関に委託して行われるが、場合により指定外の医療機関でも給付が受けられる。予防接種などは対象とならない。
介護扶助
要介護又は要支援と認定された生活困窮者に対して行われる給付である。原則として、生活保護法指定介護機関における現物支給により行われる。介護保険とほぼ同等の給付が保障されているが、現在普及しつつあるユニット型特養、あるいは認知症対応型共同生活介護、特定施設入所者生活介護は利用料(住宅扶助として支給)の面から制限がある。
出産扶助
生活困窮者が出産をするときに行われる給付である。原則として、金銭により給付される。
生業扶助
生業に必要な資金、器具や資材を購入する費用、又は技能を修得するための費用、就労のためのしたく費用等が必要なときに行われる扶助で、原則として金銭で給付される。平成17年度より高校就学費がこの扶助により支給されている。
葬祭扶助
生活困窮者が葬祭を行う必要があるとき行われる給付で、原則として、金銭により給付される。

これらの扶助は、要保護者の年齢、性別、健康状態等その個人または世帯の生活状況の相違を考慮して、1つあるいは2つ以上の扶助を行われる。

生活保護の地区分けと基準額

生活保護6
生活保護6

生活保護は全国を市町村単位で6段階に分けている。また、冬期加算の基準にのみ使用される5段階の区分がもうけられている。

生活保護/級地区分表

生活保護/冬期加算地区別区分表

生活保護/基準額/生活扶助1級地の1

生活保護/基準額/生活扶助1級地の2

生活保護/基準額/生活扶助2級地の1

生活保護/基準額/生活扶助2級地の2

生活保護/基準額/生活扶助3級地の1

生活保護/基準額/生活扶助3級地の2

生活保護/基準額/生活扶助共通

生活保護/基準額/教育扶助

生活保護/基準額/出産扶助

生活保護/基準額/住宅扶助

生活保護/基準額/生業扶助

生活保護/基準額/一時扶助

生活保護/基準額/医療扶助

生活保護の財政

生活保護にかかる費用は平成17年度において約2兆7千億円となっており増加中である。高齢者の生活保護受給世帯が増加傾向であり、今後、団塊世代の生活保護受給世帯の増加に伴い、倍増していくことが確実である。

生活保護の支給例

平成17年度の基準(第61次改訂生活保護基準額表より) 東京都特別区内在住(1級地の1)

  • 単身世帯 31歳
    • 第1類 40,270円(20-40歳)
    • 第2類 43,430円(単身世帯)
    • 住宅扶助 (最大)53,700円

合計 137,400円(月額)

  • 4人世帯 41歳(障害者1級、障害年金無)、38歳、12歳、8歳、妊娠中(7ヶ月)
    • 第1類 38,180円(41歳)、40,270円(20-40歳)、42,080円(12-19歳)、34,070円(6-11歳)
    • 第2類 55,160円(4人世帯)
    • 各種加算
      • 妊婦 13,810円(妊娠6ヶ月以上)
      • 障害者 26,850円(障1・2級/国1級)
      • 特別介護料 12,090円(世帯員)
      • 児童養育加算 5,000円(第1・2子)
    • 住宅扶助 (最大)69,800円
    • 教育扶助 2,150円(小学校)、4,180円(中学校) 学級費等(最大)610円(小学校)、740円(中学校)

合計 344,990円(月額) ※小中学校の教材費、給食費、交通費等は実費支給。

東京都区部と地方郡部などの比較
東京都区部など 地方郡部など
標準3人世帯(33歳、29歳、4歳) 234,980円 199,380円
高齢者単身世帯(68歳) 80,820円 62,640円
高齢者夫婦世帯(68歳、65歳) 121,940円 94,500円
母子世帯(30歳、4歳、2歳) 177,900円 142,300円

実施機関

生活保護の実施機関は、原則として、都道府県知事市長及び福祉事務所を管理する町村長であり、これらの事務は法定受託事務である。なお、福祉事務所を管理していない町村(ほとんどの町村)においては、その町村を包括する都道府県知事がこの事務を行う。

また、都道府県知事、市町村長の下に福祉事務所長及び社会福祉主事が置かれ、知事・市町村長の事務の執行を補助し、民生委員は市町村長、福祉事務所長又は社会福祉主事の事務の執行に協力するものとされる。

社会福祉法では、生活保護を担当する現業員、いわゆるケースワーカーを市部では被保護世帯80世帯に1人、町村部では65世帯に1人を配置することを標準数として定めている(第16条)。

これら実施機関では原則として厚生労働省が示す実施要領に則り保護を実施しているが、厚生労働省は技術的助言として実施要領を示すだけであって個別の事例の判断は一切行わない(監査や再審査請求での裁決を除く)。そのため、法及び各種通達等において定めることができない事例については、法の趣旨と実施機関が管轄する地域の実情などを勘案して判断される。

保護施設

都道府県市町村は、生活保護を行うため、保護施設を設置することができる。なお、市町村が保護施設を設置する場合、都道府県知事への届出が必要である。また、保護施設が設置できるのは、都道府県・市町村のほか、社会福祉法人日本赤十字社だけである。

保護施設の種類

保護施設には次の5種類がある。

  • 救護施設
  • 更生施設
  • 医療保護施設
  • 授産施設
  • 宿所提供施設

生活保護の対象者

1946年の旧生活保護法においては全ての在住者を対象としたが、1950年の改訂で国籍条項が加わり、日本国内に住む日本国籍を持つ者のみが対象とされた。

その後1954年の厚生省社会局長通知「正当な理由で日本国内に住む外国籍の者に対しても、生活保護法を準用する」を根拠として、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者などの日本国への定着性が認められる外国人に対して、予算措置という形で保護費の支給を実施している。このことから、外国籍の者は生活保護法上の行政処分に対する行政不服審査法に基づく不服申立てはできないとされている。

被保護者の権利と義務

審査の結果、生活保護費を受給できると認められた者を被保護者という。被保護者は生活保護法に基づき次のような権利を得るとともに義務をも負う。
(権利)

  • 不利益変更の禁止 - 正当な理由がない限り、すでに決定された保護を不利益に変更されることはない(第56条)。
  • 公課禁止 - 受給された保護金品を標準として租税やその他の公課を課せられることはない(第57条)。
  • 譲渡禁止 - 保護を受ける権利は、他者に譲り渡すことができない(第59条)。

(義務)

  • 生活上の義務 - 能力に応じて勤労に励んだり支出の節約を図るなどして、生活の維持・向上に努めなければならない(第60条)。
  • 届出の義務 - 収入や支出など、生計の状況に変動があったとき、あるいは居住地または世帯構成に変更があったときは、速やかに実施機関等へ届け出なければならない(第61条)。
  • 指示等に従う義務 - 保護の実施機関が、被保護者に対して生活の維持・向上その他保護の目的達成に必要な指導や指示を行った場合(法第27条)や、適切な理由により救護施設等への入所を促した場合(法第30条第1項但書)は、これらに従わなければならない(法第62条)。
  • 費用返還義務 - 緊急性を要するなど、本来生活費に使える資力があったにも関わらず保護を受けた場合、その金品に相当する金額の範囲内において定められた金額を返還しなければならない(法第63条。主に、支給されるまでに時間がかかる年金などが該当する)。

生活保護世帯数の推移

厚生労働省の社会福祉行政業務報告によれば、生活保護を受けている世帯の数(被保護世帯数)は、1980年度の746,997世帯から1992年度には585,972世帯にまで減少していたが、その後増加に転じ2004年度は998,887世帯と1980年度の約1.3倍に増加している。2005年度には、一月の平均被保護世帯数が100万世帯を突破、増加傾向にある。2009年度には更に増えて、119万世帯を超えている[1]。激増する高齢受給者の問題や不況により更に増えて、150万世帯に近づきつつあると想定されており、保護費財源の問題をどうするか、避けて通れなくなってきている。

被保護世帯を世帯類型別に見ると、高齢者世帯、障害者世帯、傷病者世帯、母子世帯、父子世帯、その他の生活困窮世帯と分けることができ、1980年頃から1990年代半ばまでは減少傾向にあったが、バブル崩壊による経済の悪化によって、現在は増加に転じている。被保護世帯の中で、高齢者世帯は趨勢的に増加しており、1980年度は全体の30.2%であったが2004年度には46.6%とほぼ半数を占めるようになっている。なお、ここ数年不況による雇用環境の悪化で、失業による生活保護受給も増加中である。

一方、所得が生活保護支給基準以下となるケースの内、実際に受給している割合を示す「捕捉率」は、イギリスでは87%、ドイツは85~90%なのに対し、日本は約10~20%となっている[2]

生活保護をめぐる事件

生活保護をめぐる訴訟

生活保護をめぐる訴訟として「朝日訴訟」が有名である。それ以外には「学資保険訴訟」、「加藤訴訟」、「柳園訴訟」、「高生活保護訴訟」、「林訴訟」などがある。

地方分権と生活保護

2005年、国(厚生労働省)と地方との間で「三位一体の改革」の一環として、生活保護費の国と地方自治体との負担率を変更しようとの議論が行われた。

現制度では支給される保護費について国3/4、地方1/4の割合で負担しているが、これを国1/2、地方1/2に変更しようとするものである。さらに住宅扶助の一般財源化(地方交付税交付金に含めて国が交付)、保護基準(最低生活費)を地方が独自に設定することができるようにしようとした。

厚生労働省の主張は、生活保護行政事務の実施水準が低いところは保護率が高い水準にあり、保護費の負担を地方に大きく負わせることで生活保護行政事務の実施水準を向上させざるを得ない状況にして、国と地方を合わせた保護費の総額を減らそうというものである。

しかしながら地方六団体は、憲法第25条で国が最低生活の保障を責任を持っていること、最低生活を保障するという事務は地方自治体に裁量の幅がほとんど無いこと(幅を持たせるとすれば、最低生活費を下げるあるいは上げるということになる)、仮に現段階での地方の負担増に合わせて税源を移譲されたとしても今後保護世帯数が増加すればその分が総て地方の負担となること、等から猛反発した。福祉行政報告例第1表~第4表並びに第6表の生活保護関連統計の国への報告を停止する行動に出た自治体もあった。

保護率が高い地域を都道府県ごとにみると、北海道青森県東京都大阪府福岡県沖縄県等であり、地域経済が活発ではない地域(北海道、青森県、沖縄県)、過去の炭坑閉鎖の影響を引きずる地域(北海道、福岡県)が主である。その反面、東北地方の中でも青森県が突出して保護率が高い、四国では保護率が高い県(高知県徳島県)と低い県(香川県愛媛県)に明確に分かれる等、単に経済状況だけでは説明しきれない面もある。

逆に保護率が最も低い県は富山県であり次いで島根県である。理由として両地域は保守的で生活保護を恥と見る人々が多い事があげられる。また富山県は持ち家率や世帯所得が日本一高くそもそも生活保護の対象となる家庭が少ないと予想される。

保護率の高低は、経済状況だけでなくその地域の世帯の状況(1世帯当たりの世帯員数、3世代同居比率等)や県(道)民性、住民の意識(権利として主張する、恥だから受けたくない)等様々な要因が絡み合い、一概に言い切れるものではない。

なお、この問題については後に撤回され、現行通りの負担割合とすることで決着した。

関連項目

出典

  1. 厚生労働省の福祉行政報告
  2. 「細かいデータ分析■実態の把握――貧困率 活用になお課題」『朝日新聞』2009年11月19日付朝刊、第13版、第3面。

参考文献

  • 東京ソーシャルワーク編 『How to 生活保護(介護保険対応版)―暮らしに困ったときの生活保護のすすめ』 現代書館、2000年5月。ISBN 4768434223
  • 尾藤廣喜・松崎喜良吉永純編 『これが生活保護だ―福祉最前線からの検証』 高菅出版、2004年3月。ISBN 4901793101
  • 水島宏明 『母さんが死んだ―しあわせ幻想の時代に ルポルタージュ「繁栄」ニッポンの福祉を問う』 社会思想社、1990年2月。ISBN 4938536412
  • 生活保護制度の現状等について」『生活保護費及び児童扶養手当に関する関係者協議会』 厚生労働省、2005年4月20日。
  • 『生活保護VSワーキングプア 若者に広がる貧困』大山典宏著 PHP新書 2008年01月15日 ISBN978-4-569-69713-0
  • 『生活保護が危ない~「最後のセーフティーネット」はいま~』産経新聞大阪社会部著 扶桑社新書 2008年8月30日 ISBN 978-4-594-05745-9
  • 『生活保護手帳 2008年度版』生活保護手帳編集委員会 中央法規出版 2008年7月30日 ISBN 978-4-8058-4823-4

外部リンク