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'''ロバート・クオック'''（'''{{lang-en|Robert Kuok Hock Nien}}'''、'''{{lang-zh|郭鶴年}}'''、[[1923年]][[10月6日]] - ）は、[[マレーシア]]の[[クオック・グループ]]、[[香港]]の{{仮リンク|ケリー・グループ|en|Kerry Group}}を率いる[[実業家]]。

== 経歴 ==
=== 生い立ち ===
1923年10月6日、[[ジョホール・バル]]で、郭欽鑑（Kuok Keng Kang）と鄭格如（Tang）夫人の次男として生まれる{{Sfn|Sia|1994|p=74}}。兄・郭鶴挙（Philip Kuok Hock Khee、フィリップ）は当初一族の企業に関わっていたがのちに[[外交官]]となり、弟・[[郭炳清|郭鶴麟（William、ウィリアム）]]は[[マラヤ共産党]]に参加し早逝した{{Sfn|Sia|1994|p=74}}{{Sfn|リー|1987|pp=137,143}}。

1939年、{{仮リンク|ジョホール・バル英語学院|en|English College Johore Bahru}}卒、[[シンガポール]]の[[ラッフルズ大学]]入学{{Sfn|Sia|1994|p=74}}。

戦時中はシンガポールで[[三菱商事]]の米穀部門に勤務{{Sfn|Sia|1994|p=78}}。

=== 食料品産業 ===
1948年、父・欽鑑が死去{{Sfn|Sia|1994|p=77}}。父の死後、一族が経営していた東昇公司（Tong Seng & Co.）<ref>ジョホール・バルで米・砂糖・小麦粉などを扱う食料品店を営み、道路建設事業にも進出（{{Harvnb|Sia|1994|pp=74,76-77}}）。</ref>は整理・解散され{{Sfn|Sia|1994|pp=74,76-77}}、郭は翌1949年4月に[[クアラルンプール]]で設立された東昇公司の事業承継会社・'''郭兄弟有限公司（Kuok Brothers Sdn. Bhd.：KB）'''の取締役となった{{Sfn|Sia|1994|pp=74,78}}。同社の初代会長兼社長は兄・鶴挙{{Sfn|Sia|1994|p=78}}。

1955年、郭はシンガポールの貿易会社・リクウド社（Rickwood & Co.）を買収、同社は1960年代に郭兄弟シンガポール有限公司 Kuok Brothers Singapore と改称した{{Sfn|Sia|1994|p=79}}。KBは同社を通じて世界的な商品取引に進出することになった{{Sfn|Sia|1994|pp=74,79}}。

1959年10月、KBは[[日新製糖]]・[[三井物産]]と合弁で、北マラヤの{{仮リンク|プライ (マレーシア)|ms|Perai}}に{{仮リンク|マラヤ製糖|ms|Malayan Sugar Manufacturing Co. Bhd}}（MSM）を設立{{Sfn|Sia|1994|pp=78,80-81,82}}。マレーシアにおける砂糖消費の増加を背景に、砂糖の生産・精製に乗り出した{{Sfn|Sia|1994|p=74}}。MSMは1964年に精糖業を開始した{{Sfn|Sia|1994|p=84}}。

1960年、郭は[[ロンドン]]を訪問した際に、{{仮リンク|ロンドン砂糖取引所|en|London International Financial Futures and Options Exchange}}（Sugar Terminal）の会員権を購入{{Sfn|Sia|1994|p=84}}。国際的な砂糖の取引網に関わり、東南アジアの「砂糖王（Sugar King）」として知られるようになった{{Sfn|Sia|1994|p=84}}。

1962年2月、KBは政府と合弁で<ref>{{仮リンク|マレーシア政府巡礼基金|label=メッカ巡礼基金運営庁|en|Tabung Haji}}（Lembaga Urusan dan Tabung Haji: LUTH）が主要株主となっていた（{{Harvnb|Sia|1994|p=85}}）</ref>{{仮リンク|ポート・クラン|en|Port Klang}}の自由貿易区に[[小麦粉]]の生産会社フェデラル・フラワー・ミルズ（Federal Flour Mills Bhd.: FFM）を設立した{{Sfn|Sia|1994|pp=84-85}}。

1966年、兄・鶴挙がKBの会長・社長を退任<ref>{{Harvtxt|Sia|1994|p=78}}。[[オランダ]]・[[西ドイツ]]・[[フランス]]のマレーシア大使として外交職につくため（同）。</ref>。

1968年11月、KBは[[プルリス州]]・{{仮リンク|チュピン|en|Chuping}}で[[サトウキビ]]栽培を行う{{仮リンク|プルリス・プランテーション社|en|Perlis Plantations Berhad}}（PPB）を設立<ref>{{Harvtxt|Sia|1994|p=85}}。プルリス州政府と提携して用地を取得し、1968年投資奨励法（Investment Incentives Act 1968）を利用して設立された（{{Harvnb|Sia|1994|pp=81,85}}）。</ref>。同社は1973年に生産を開始した{{Sfn|Sia|1994|p=85}}。また{{仮リンク|連邦土地開発庁|en|Federal Land Development Authority|preserve=1}}（FELDA）と合弁で第2の製糖工場を運営するフェルダ・プルリス製糖社（Kilang Gula Felda Perlis Sdn. Bhd.）を設立、PPBが株式の50％を保有した{{Sfn|Sia|1994|p=85}}。

1976年にPPBはMSMを買収し、栽培、加工、精製、流通など砂糖産業の主な要素を統轄する会社となった{{Sfn|Sia|1994|p=85}}。PPBは1988年にはFFMも買収した{{Sfn|Sia|1994|p=85}}。

=== 海運業 ===
1960年代にマレーシア政府は国有の海運会社創設を志向し、原糖の輸入に船をチャーターしていたKBに、海運会社創設の可能性について調査を依頼した{{Sfn|Sia|1994|p=86}}。

1967年9月に日本とマレーシアの間で[[血債協定]]が締結された際に、マレーシアの[[トゥンク・アブドゥル・ラーマン|ラーマン]]首相は金銭賠償のかわりに特注船2隻を日本から得ることにした{{Sfn|Sia|1994|pp=86-87}}。

1968年11月、マ政府と諸企業の合弁会社で{{仮リンク|マレーシア国際海運公社|en|Malaysian International Shipping Corporation}}（MISC）が設立され、{{仮リンク|マレーシア政府巡礼基金|label=メッカ巡礼基金運営庁|en|Tabung Haji}}（Lembaga Urusan dan Tabung Haji: LUTH）と[[曹氏有限公司]]（Frank Tsao & Co. Ltd. (Liberia)）およびKBが設立当初の主要株主となり、郭はMISCの初代会長となった{{Sfn|Sia|1994|pp=86-87}}。

=== シャングリラ・ホテルと観光業 ===
1967年に、 シンガポールに[[シャングリ・ラ・ホテルズ&リゾーツ|シャングリラ・ホテル]]の建設を決定{{Sfn|Sia|1994|p=88}}。

1968年、[[マレーシア航空|マレーシア・シンガポール航空]]会長{{Sfn|Sia|1994|p=87}}。

{{いつ|date=2016年4月}}{{仮リンク|マレーシア政府観光局|label=マレーシア観光開発公社|en|Tourism Malaysia}}（Tourist Development Corporation Malaysia）会長に就任{{Sfn|Sia|1994|p=87}}。

1971年6月 [[ペナン]]で[[ラサ・サヤン・ビーチ・ホテル (ペナン)|ラサ・サヤン・ビーチ・ホテル]]社（Rasa Sayang Beach Hotel Bhd.）設立{{Sfn|Sia|1994|p=88}}。

{{いつ|date=2016年4月}}同ホテルのほか、{{仮リンク|バトゥ・フェリンギ|en|Batu Ferringhi}}にある[[ゴールデン・サンズ・ホテル (ペナン)|ゴールデン・サンズ・ホテル]]（Golden Sands Hotel）と[[パーム・ビーチ・ホテル (ペナン)|パーム・ビーチ・ホテル]]（Palm Beach Hotel）も支配{{Sfn|Sia|1994|p=88}}。

1970年代、KBと{{仮リンク|マレーシア都市開発庁|label=都市開発庁|en|Urban Development Authority of Malaysia}}の投資部門・プレンバ（Peremba Sdn. Bhd.）との共同所有企業・Uda ブキ・ナナス社（Uda Bukit Nanas: UBN Holdings）が、クアラルンプールに「シャングリラ多目的ビル」を建設<ref>{{Harvtxt|Sia|1994|p=88}}。ラサ・サヤン・ビーチ・ホテル社とUda ブキ・ナナス社は1991年に合併した（{{Harvtxt|Sia|1994|p=88}}）。</ref>。

郭は上記のほか、[[香港]]、[[タイ]]、[[フィジー]]にもホテルを建設し{{Sfn|Sia|1994|p=88}}、{{要出典|範囲=[[シャングリ・ラ・ホテルズ&リゾーツ]]の経営など多角的な事業を展開するグループを作り上げた|date=2016年4月}}。

== 交友関係 ==
=== 学友 ===
学生時代に郭は、[[スジャク・ビン・ラヒマン]]（Datuk Haji Sujak bin Rahiman）<ref>のちに[[マレーシア関税諮問委員会]]（Tariff Advisory Committee）に勤務（{{Harvnb|Sia|1994|p=89}}）。</ref>や{{仮リンク|タイブ・アンダク|ms|Taib Andak}}<ref>[[フセイン・オン]]の従兄弟で、のち連邦土地開発庁（FELDA）と[[メイバンク|マラヤ銀行]]の会長を歴任（{{Harvnb|Sia|1994|p=89}}）。フェデラル・フラワー・ミルズ社（FFM）の取締役になった（同）。</ref>とともに学んだ<ref name="編注">{{Harvtxt|Sia|1994|p=89}}。編注：出典元に「ともに学んだ」とあるが、同級生なのか何なのかはっきりしない。ジョホールバル時代のことなのか、ラッフルズ学院の話かも不明。</ref>。

また後にマレーシア首相となる[[アブドゥル・ラザク|ラザク]]と[[フセイン・オン]]、シンガポールの[[リー・クアンユー]]、{{仮リンク|エドモンド・W・バーカー|label=エディー・バーカー|en|Edmund W. Barker}}とも共に学んだ<ref name="編注" />。マレーシア第2代副首相の{{仮リンク|イスマイル・アブドゥル・ラーマン|label=トゥン・イスマイル|en|Ismail Abdul Rahman}}（Tun Dr. Ismail）もジョホールの出身で、同窓生{{Sfn|Sia|1994|pp=89-90}}。

=== 王室 ===
郭一族は東昇公司時代に{{仮リンク|ジョホールのスルタン・イブラヒム|en|Ibrahim of Johor}}と親密な関係を築いており{{Sfn|Sia|1994|p=76}}、その後もスルタン・イブラヒムの孫{{仮リンク|トゥンク・スレイマン・シャー|label=トゥンク・スレイマン|en|Tengku Sulaiman Shah}}（Y.T.M. Tengku Suleiman ibni Tengku Abu Bakar）がPPBの総務部長兼取締役、{{仮リンク|マレーシアの王位継承図|label=トゥンク・オスマン|en|Line of succession to the Malaysian throne}}（Y.A.M. Tunku Osman Ahmad）が[[プランギ社]]（Pelangi Bhd.）の会長となるなど、関係が続いた{{Sfn|Sia|1994|p=90}}。

=== 株主 ===
KBは華人企業の中では早くから[[ブミプトラ政策|ブミプトラ]](地元のマレー系住民）を株主とすることに努め、1970年以前のMSMの個人株主は全てブミプトラだった{{Sfn|Sia|1994|pp=90-91}}。またKBはジョホールの官吏を株主とすることで関係を強化した{{Sfn|Sia|1994|p=91}}。

経営基盤が北部の{{仮リンク|プロヴィンス・ウェルズリー|en|Province Wellesley}}やプルリス州へ拡大すると、プルリスのラジャの{{仮リンク|トゥンク・サイド・ブトラ・ジャマルライル|ms|Tuanku Syed Putra ibni Almarhum Syed Hassan Jamalullail}}や{{仮リンク|サイド・ナハル・シャハブディン|ms| Syed Nahar Bin Tun Syed Sheh Shahabuddin}}<ref>ラーマン首相の甥</ref>も株主となり、また1964年には政府機関である{{仮リンク|マレーシア政府巡礼基金|label=メッカ巡礼基金公社|en|Tabung Haji}}（Perbadanan Wang Simpanan Bakal-bakal Haji:Malaysian Muslim Pilgrims Saving Corporation）<ref>1969年にペナン巡礼管理局（Pajabat Urusan Haji Penang: Pilgrims Office in Penang）と合併してメッカ巡礼基金運営庁（LUTH、前出）となった。</ref>や[[:en:List of banks in Malaysia#Defunct, merged, acquired or renamed banks|プルモダラン・クバングサアン社（Syarikat Permodalan Kebangsaan Limited）]]も株主となっている{{Sfn|Sia|1994|p=91}}。

== 近況 ==
2009年にPPBグループを売却し、マレーシアの製糖業から撤退したものの、2010年には子会社を通じて[[オーストラリア]]の製糖会社・スクロージェンを買収。依然としてアジアの製糖業に影響力を有する<ref>{{cite news |title=「精糖王」クオック氏一族、豪の砂糖ビジネス買収 |newspaper=マレーシア・ナビ |date=2010-07-07 |url=http://www.malaysia-navi.jp/news/100706064118.html  |accessdate=2011-02-20}}{{リンク切れ|date=2016年4月}}</ref>。

2018年5月、[[マハティール]]政権の経済・財政政策に助言する顧問団に参加{{Sfn|日経新聞|2018-5-25}}。

2018年の米国・[[フォーブス]]誌の富豪ランキングによると、資産額は148億ドル（約1.6兆円）でマレーシアで首位{{Sfn|日経新聞|2018-5-25}}。

2020年の米国・フォーブズ誌の富豪ランキングによると、資産額は96億ドルでマレーシアで首位、世界で141位<ref>[https://www.forbes.com/billionaires/ The Richest in 2020 &gt; The Complete List &gt; Malaysia], Forbes</ref>。

== グループ企業 ==
*ケリー・プロパティーズ　香港の大手不動産会社。
*[[シャングリ・ラ・ホテルズ&リゾーツ]]　世界各地で高級ホテルをチェーン展開。本社は香港。
*[[サウスチャイナ・モーニング・ポスト]](SCMP Group)　香港の英字新聞。
*[[ウィルマー・インターナショナル]]　シンガポールに本拠を置く、アグリビジネス会社。
*オールグリーン・プロパティーズ　シンガポールの不動産開発会社。
*{{仮リンク|PPBグループ|en|PPB Group}}　マレーシアで小麦精製、映画館、海運、不動産開発、環境事業など多角経営。

==付録==
===関連文献===
*{{Aya|Tanzer|year=2018}} Andrew Tanzer, ''Robert Kuok - A Memoir'', John Beaufoy Publishing, ISBN 9814189731
*中国語版：郭鶴年（口述）Andrew Tanzer（編著）《郭鶴年自伝》香港・商務印書館、ISBN 9620757599

=== 脚注 ===
{{Reflist|20em}}

=== 参考文献 ===
*{{Aya|日経新聞|date=2018-5-25}} 「[https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30966700V20C18A5FFE000/ 94歳クオック氏、92歳マハティール氏に助言]」『日本経済新聞 電子版』2018年5月25日 23:00
*{{Aya|Sia|year=1994}} Irene Sia「第3章 郭鶴年（Robert Kuok Hock Nien）‐大班（Taipan）株式会社」原不二夫（編）『マレーシアにおける企業グループの形成と再編』〈ASEAN等現地研究シリーズ 23〉アジア経済研究所、ISBN 4258200239、pp.73-94
*{{Aya|リー|year=1987}} リー・クーンチョイ（著）花野敏彦（訳）『南洋華人‐国を求めて』サイマル出版会、ISBN 4377307339

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[[Category:マレーシアの実業家]]
[[Category:中国系マレーシア人]]
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[[Category:1923年生]]
[[Category:存命人物]]