カドミウムイエロー
カドミウムイエロー(cadmium yellow)は、黄色の無機顔料の1つであり、天然には硫カドミウム鉱として存在する。カドミウム黄(-き)とも呼ばれ、かつては優れた耐熱性を利用してプラスチックの着色に多く使われてきたことでも知られている。
化学的性質[編集]
主成分は硫化カドミウム(CdS、顔料としてのカラーコードはPigment Yellow 37)もしくは硫化亜鉛カドミウム(ZnS・CdS、顔料としてのカラーコードはPigment Yellow 35)である。硫化カドミウムを主成分とするものは橙黄色~鮮黄色を呈し、硫化亜鉛カドミウム(硫化カドミウムと硫化亜鉛の固溶体)を主成分とするものは鮮黄色~淡黄色を呈する。着色力が大きく、耐アルカリ性・耐熱性・耐光性に優れているが、酸に弱く、カドミウムを含んでいるため有毒かつ高価である。アゾ系の黄色有機顔料が登場してからも発色性に優れているためゴム・ガラス・陶磁器の着色や塗料・インクに使用されてきたが、無機顔料ながらカドミウムイエローと同等の堅牢さ・鮮やかさをもち、なおかつ無毒な黄色顔料のビスマスバナジウムイエローが登場してからはビスマスバナジウムイエローに置き換えられ、2024年現在カドミウムイエローはプラスチックの着色や絵具に使われるのみとなっている。ただ硫化カドミウムをジルコン(ZrSiO4)でコーティングしたものはセラミック顔料として使われている。
また、緑色顔料のカドミウムグリーンの原料でもある。かつてはカドミウムイエローと紺青やウルトラマリンの混合物がカドミウムグリーンとして使われたが、今日のカドミウムグリーンはカドミウムイエローとヴィリジアンの混合物である。
絵具としてのカドミウムイエロー[編集]
今日では黄色の絵具としてはアゾ系有機顔料を主成分とするパーマネントイエローが最もポピュラーであるが(但しホルベイン工業では有機顔料の欠点を補うためアゾ系黄色顔料と無機顔料ながら毒性のないチタンイエローの混合物を油絵具や透明水彩絵具のパーマネントイエローとして製造している)、有毒でありながらカドミウムイエローも未だ使用されている。その理由としては、絵具にした場合カドミウムイエローの方が伸びがよく、堅牢かつ鮮やかであることがいえる。無毒なビスマスバナジウムイエローは「ビスマスイエロー」もしくは「バナジウムイエロー」の名前で絵具として使用されているものの登場したばかりで一般的に普及しておらず、やはり毒性のない黄色無機顔料の黄土(イエローオーカー)、チタンイエロー、ニッケルイエローは単独では鮮明さに欠けることが現在でもカドミウムイエローが多くの画家や美術愛好者に好まれる要因であると考えられている。
なおカドミウムイエローはその材料となるカドミウムが有害である上入手が困難になっているため、日本以外の国では純粋な硫化カドミウムからなるカドミウムイエロー(PY37)は既に製造中止されている。従って日本以外の国で生産されているカドミウムイエローは全て硫化亜鉛カドミウムからなるカドミウムイエロー(PY35)である。特にヨーロッパでは脱カドミウムの動きが進んでいるため、同じカドミウムイエローでも毒性の強いPY37を生産中止し、カドミウムの一部が亜鉛に置き換えられておりPY37より毒性が弱いPY35に代替されている。なお日本では2024年現在PY37、PY35ともに生産されている。
カドモポンイエロー[編集]
硫化カドミウム或いは硫化亜鉛カドミウムと硫酸バリウム(BaSO4)の混合物をカドモポンイエロー(cadmopone yellow)若しくはカドモポン黄(-き)と呼ぶ。一般的なカドモポンイエローは硫酸バリウムを約60%含んでいる。
カドモポンイエローは純粋なカドミウムイエローと比べると着色力・発色性は劣る。但し、カドモポンイエローのほうが純粋なカドミウムイエローより安価であるため、高価なカドミウムイエローの代用品として使われる事がある。アメリカ合衆国でカドミウムイエローの生産が始まった時、生産されたカドミウムイエローは全てカドモポンイエローだったが、後にアメリカでも純粋なカドミウムイエローが生産されるようになった。