ABO式血液型

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ABO式血液型(ABOしき けつえきがた)とは、血液型の分類法の一種。A、B、O、ABの4型に分類する。

歴史

最も初期に発見された血液型分類である。1900年オーストリアの医学者カール・ラントシュタイナー(Karl Landsteiner, 1868年 - 1943年)により発見され、翌年の1901年に論文発表された[1]

ラントシュタイナーはまずA、B、C型の3つの血液型を発見し、1902年にアルフレッド・フォン・デカステロとアドリアノ・シュテュルリによって第4の型が追加発表された[2]。さらに、1910年にエミール・フライヘル・フォン・デュンゲルンとルードビッヒ・ヒルシュフェルドにより、第4の型にはAB型という名称が与えられ、C型の名称はO型に変更された[3]

機構

A型はA抗原を発現する遺伝子(A型転移酵素をコードする遺伝子)を持っており、B型はB抗原を発現する遺伝子(B型転移酵素をコードする遺伝子)を、AB型は両方の抗原を発現する遺伝子を持っている。A抗原、B抗原はH抗原からそれぞれA型転移酵素、B型転移酵素によって化学的に変換される。

3種の遺伝子の組み合わせによる表現形、ABO式血液型を決定する遺伝子は第9染色体に存在する。H物質発現をコードする遺伝子は第19染色体に位置し、H前駆物質をH物質へ変換させる。この遺伝子が発現しない場合はボンベイ型となる(後述)。

  • A型 - A遺伝子をすくなくとも一つ持ち、B遺伝子は持たない(AA型、AO型)→A抗原を持つ。B抗原に対する抗体が形成
  • B型 - B遺伝子をすくなくとも一つ持ち、A遺伝子は持たない(BB型、BO型)→B抗原を持つ。A抗原に対する抗体が形成
  • O型 - A遺伝子・B遺伝子ともに無い(OO型)→H抗原のみ持つ。A,B抗原それぞれに対する抗体が形成
  • AB型 - A遺伝子・B遺伝子を一つずつ持つ(AB型)→A抗原、B抗原両方を持つ。抗体形成なし

A抗原とB抗原は、持っていないとそれに対する自然抗体が形成される。そのため、基本的には型違い輸血は行われないが、O型からA,B,AB型、A,B型からAB型への輸血では凝集せずに輸血できる場合がある。これは、抗A抗体と抗B抗体はIgMであり、血球に対して抗原抗体反応が起こるには複数の抗体が抗原と結合しなくてはならないからである。輸血される血液は受血者の血液より少量のため、血漿によって希釈されて抗原抗体反応が起こらなくなる。そのため、かつてはO型は全能供血者、AB型は全能受血者と呼ばれていたが、ABO以外の型物質(Rh因子やMN式血液型など)が存在することもあり現在では緊急時を除いては通常行われない。2010年4月には大阪大学医学部附属病院で治療を受けた60代の患者がO型の血液の輸血の後死亡する事故が発生している(但し、この患者は搬送当時すでに意識がなかったことから輸血が原因でない可能性もある)。


なお、自然抗体を持っている理由は不明であるが、細菌感染説(ただし、細菌感染ならIgGが発現するはずだという異論がある)などが存在する。

これらの抗原が最初に血液から発見されたために「血液型」という名称を冠するもので、血液以外にも唾液精液など、すべての体液にも存在する。ただし1/4の人は抗原が出ないもしくは微量(Se酵素欠損による非分泌型→Lewis式血液型参照)のため、この場合は検出が難しい。

割合

日本国民のABO式血液型の分布は大まかに、A型が約40%、O型が約30%、B型が約20%、AB型が約10%となっている。ただし、ABO式血液型の割合は母集団(地域や民族など)によって差が大きく、たとえば南アメリカに住むインディオの場合は90%以上がO型で、地域によっては99%を超えるところもある。

動物・植物のABO式血液型

動物に人間と同様に凝集反応検査をしたときの反応で擬似的にABO式の反応が得られる。

特殊なABO式血液型

稀血(まれけつ)などとも呼ばれる亜種がある。

Rh-型も稀血扱いされる事があるが、その存在率はABO式の稀血よりずっと高い。また、判別方法として異なるので重複(Aint-やシスAB-型など)することがある。シスAB-型は非常に少ない。以下には簡潔な説明を記すが、実際はより複雑である。

A型の亜種

A1 
普通のA型。A型の人のうち約80%を占める。A抗原90%、H抗原10%。
Aint 
A1よりも弱くA2よりも強い。
A2 
弱いA型。A抗原20%、H抗原80%。
A3 
かなり弱いA型。A抗原10%以下、H抗原90%以上。
Ax 
A3よりさらに弱いA型。A抗原1%~0.2%、H抗原99%以上。
Am 
Axよりさらに弱いA型。A抗原0.2%~0.01%、O型血液99.8%以上。
Ael 
ものすごく弱いA型。特定の抗原が存在しないか、ごくわずかしか存在しない。
Aend 
ものすごく弱いA型。特定の抗原が存在しないか、ごくわずかしか存在しない。

B型の亜種

B型はあまり研究が進んでいないが、A型同様のバリエーションがあると思われる。

B1 
普通のB型。A型と異なり、B型血液50%、O型血液50%の割合である。
Bint 
B1よりも弱くB2よりも強い。
B2 
弱いB型。
B3 
かなり弱いB型。
Bx 
B3よりさらに弱いB型。
Bm 
Bxよりさらに弱いB型。
Bel 
ものすごく弱いB型。特定の抗原が存在しないか、ごくわずかしか存在しない。
Bend 
ものすごく弱いB型。特定の抗原が存在しないか、ごくわずかしか存在しない。

AB型の亜種

シスAB型 (cisAB) 
普通、A型遺伝子とB型遺伝子が重なった際にAB型になる(例・A×B=AB)。しかし、シスAB型の人には、AB型遺伝子ともいえるものが存在し、相手がO型などでもAB型が生まれる事がある(例えばcisAB×Oの場合は全ての型が生まれる可能性がある)。ちなみに、普通のAB型はトランスAB型と呼ばれる。

他にも、上記のA型とB型が結合したA1B型A1Bx型など多くの亜種がある。これは、A型・B型の亜種がくっついたものである。

O型の亜種

ボンベイ型
本来、赤血球にはH抗原が付いており、それにA抗原・B抗原がぶら下がっている。ところが、ボンベイ型にはH抗原が存在しておらず、赤血球からA抗原・B抗原が検出されないので、通常の検査上ではO型と判定されてしまう。なお、ボンベイ型は抗H抗体を自然抗体として持つ。O型の亜種ではあるが、O型の血液を輸血することはできず、その逆もできない。ボンベイ型に輸血できるのはボンベイ型の血液のみである。O型と区別してOh型と書くこともある。インドのボンベイ(現在のムンバイ)で発見されたことから、この名前がついた。
遺伝子工学の発達により、ボンベイ型はO型の亜種ではなく、独立した型だという意見もある。

稀血と献血

献血などに訪れた人が特殊な血液型であることが判明した場合、赤十字社のコンピュータに情報が登録され、血液はマイナス80度以下の超低温で冷凍され長期保存(現在の基準では10年)される。特殊血液型の人が輸血などを必要とする状況になった場合には、この冷凍血液を解凍して使用するか、登録している同じ型の他の人への緊急献血協力を依頼(電話や速達便などで)、または日本国外の赤十字社へストック要請をすることになる(逆に、日本国外から要請があれば同様に冷凍パックを送る)。「Rhマイナス友の会」という登録グループが存在する。

判定方法

試薬の抗A血清と抗B血清とを用いて、採取した赤血球と反応させて凝集の有無により判定する方法(おもて検査)で仮に判定される(抗H血清も使用することがある。抗H血清を使用するとボンベイ型の判定も出せる)。どちらかの血清で凝集が見られた場合はその血液型、どちらとも凝集が見られた場合はAB型、凝集が見られない場合はO型と判定される。これに加え、血液の血清を用いて判定する方法(うら検査)で判定して結果が一致した場合に、血液型が確定される。誕生時には、うら検査で判定するのに必要な血液型決定因子が不足しているので判定できず、おもて検査では、凝集が起きにくいタイプの場合や凝集の有無を間違って、誤って仮判定されるケースがある。そのため、成長してから正しい血液型が確定された場合に、ABO型の血液型が変わったかのように見える場合がある。なお、おもて検査とうら検査の判定が一致しなかった場合は再検査する。それでも一致しなかった場合は稀血の可能性も考慮する。おもて検査とうら検査には優劣がないため、どちらかの判定を優先して血液型を決定するということはしない。 血液ではなく、遺伝子から判定するという手法もあり、血清による判定に比べ、誤判定が生じにくいことが特徴である。


ABO型における親子の理論的な血液型の組み合わせ

※あくまでも、メンデルの法則に基づいた、単純化した理論による血液型および確率である。現実には亜型等による例外が存在する。(例・シスAB型とO型によるAB型やO型の子供など)

ABO式血液型は、人の第9番染色体に存在する複対立遺伝子によって決定する。通常、存在する遺伝子遺伝子型はA、B、Oの3種類であって、AとBとはOに対して優性遺伝し、AとBとの間には優性劣性の差異は存在しない。すなわち、2本の第9番染色体のうち少なくとも一方にA遺伝子が存在しいずれにもB遺伝子が存在しなければ表現型はA型、少なくとも一方にB遺伝子が存在しいずれにもA遺伝子が存在しなければ表現型はB型、A遺伝子・B遺伝子の双方が存在すれば表現型はAB型、2本の染色体の双方にO遺伝子が含まれる場合は劣性遺伝するO型が表現型となる。

下の表のように、表現型がA型とB型の場合は複数の遺伝子型が存在する。

A型 B型 O型 AB型
AA AO BB BO
A型 AA A型 (AA) 100% A型 100%
(AA 50%、AO 50%)
AB型 100% A型 (AO) 50%、
AB型 50%
A型 (AO) 100% A型 (AA) 50%、
AB型 50%
AO A型 100%
(AA 50%、AO 50%)
A型 75%
(AA 25%、AO 50%)、
O型 25%
B型 (BO) 50%、
AB型 50%
A型 (AO) 25%、
O型 25%、
B型 (BO) 25%、
AB型 25%
A型 (AO) 50%、
O型 50%
A型 50%
(AA 25%、AO 25%)、
B型 (BO) 25%、
AB型 25%
B型 BB AB型 100% B型 (BO) 50%、
AB型 50%
B型 (BB) 100% B型 100%
(BB 50%、BO 50%)
B型 (BO) 100% B型 (BB) 50%、
AB型 50%
BO A型 (AO) 50%、
AB型 50%
A型 (AO) 25%、
O型 25%、
B型 (BO) 25%、
AB型 25%
B型 100%
(BB 50%、BO 50%)
B型 75%
(BB 25%、BO 50%)、
O型 25%
B型 (BO) 50%、
O型 50%
B型 50%
(BB 25%、BO 25%)、
A型 (AO) 25%、
AB型 25%
O型 A型 (AO) 100% A型 (AO) 50%、
O型 50%
B型 (BO) 100% B型 (BO) 50%、
O型 50%
O型 100% A型 (AO) 50%、
B型 (BO) 50%
AB型 A型 (AA) 50%、
AB型 50%
A型 50%
(AA 25%、AO 25%)、
B型 (BO) 25%、
AB型 25%
B型 (BB) 50%、
AB型 50%
B型 50%
(BB 25%、BO 25%)、
A型 (AO) 25%、
AB型 25%
A型 (AO) 50%、
B型 (BO) 50%
A型 (AA) 25%、
B型 (BB) 25%、
AB型 50%

ABO式血液型と病気の関係

1980年代はABO式血液型と病気関係の仮説について持てはやされていたが、ヒトゲノム計画が終りつつあった2000年に、科学雑誌『Nature』にて総説が掲載され、その内容は「胃腸管に関するいくつかの形質に弱い相関が確認できるが、血液型と疾患の相関については再現性よく示されたものは無い」というものであった。

血液型の変化

後天的な変化

白血病の治療などで造血幹細胞移植を行った場合には、原則としてドナーのABO式血液型に変わる。

骨髄性白血病などで、特定の抗原糖の産出が停止し、血液型が変わることがある。

細菌感染症で、細菌が出すジアセチラーゼにより抗原糖が変質し、血液型が変わることがある。

原則として、現在の知見では病気やその治療以外の原因で血液型が変化することはありえないので、献血等で血液検査を行ったときに血液型が異なっていた場合は、本人や親の単純な思い込みや新生児での血液検査が間違っていたと考えた方が良い。

血液型の変更

2007年4月にA型、B型、AB型の赤血球をO型に変えることのできる酵素開発米国ハーバード大学などの国際研究チームが成功した。O型の血液はボンベイ型を除く全ての血液型の人に輸血が可能であるため、この技術が確立すれば、輸血の際に血液型を考慮する必要がほとんどなくなることとなる。

関連項目

脚注

  1. Dr. Karl Landsteiner: "Ueber Agglutinationserscheinungen normalen menschlichen Blutes", Wiener klinische Wochenschrift, 14 Jg., Nr.46 (14. November 1901), S.1132-1134.
  2. Dr. Alfred v. Decastello und Dr. Adriano Sturli: "Ueber die Isoagglutinine im Serum gesunder und kranker Menschen", Münchener medicinische Wochenschrift, 49 Jg., No.26 (1. Juli 1902), S.1090-1095.
  3. Prof. E. v. Dungern und Dr. L. Hirschfeld: "Ueber Vererbung gruppenspezifischer Strukturen des Blutes, II", Zeitschrift für Immunitätsforschung und experimentelle Therapie, 1 Teil, Bd.6, H.1 (22. Juni 1910), S.284-292.

外部リンク

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