江南
江南(カンナム)は、韓国の首都ソウルにおける漢江より南側の地域を指す。特に、江南区、瑞草区、松坡区の三つの区を指すことが多い。
ソウルの伝統的な中心部は漢江の北(江北、カンブク、강북)にある鍾路区や中区などの旧市街であったが、1970年代以降の政府主導の住宅地・オフィス用地開発政策によって、1990年代よりソウルのビジネス・政治・教育・商業などの中心は江南に移りつつある。また不動産価格の急上昇も起こっており、高層アパート(日本でいうマンション)の価格上昇やバブル発生の懸念は韓国の国政上の課題となっている。
江南には地方から大学進学のため上京し、後に一流企業や政府機関等に就職した住民も多い。そのため江南は「富裕な住民の住む地域」と韓国社会では見られている。また、発展に取り残された感のある江北や全国の他地域との格差がしばしば指摘され、他地域住民や左派などから目の敵にされることも多い地域である。
江南の開発
現在は漢江はソウル市の中央部を流れる形になっているものの、第二次大戦後しばらくの間まではソウルの市街地は漢江の北(「江北」)にしかなく、江南は1963年にソウル市城東区に編入されるまでは広州郡(一部は始興郡および高陽郡)に属する農村地帯であった。1970年代から80年代にかけての政府主導による高層団地など住宅開発の勢いは激しく、1970年ごろまで8対2だった江北と江南の人口比は、1990年にはほぼ5対5にまで並んでいる。オフィス地区としての開発の進展に伴い、近年では江北から江南に本社を移す大企業や、最初から江南に本社をおく外資系企業も増えている。たとえばサムスン・グループは新本部を地下鉄江南駅付近に建設している。また政府機関も瑞草区や果川市など漢江の南側に移転した。
江南開発の時期、ソウル高校(1980年に瑞草区へ移転)や京畿高校(1976年に江南区に移転)など、名門校の江南への移転も進んだ。学校間格差是正と学閥解消のため、ソウルの高校進学は入学試験のない学区制をとることになったが、大学進学に有利な名門高校を擁する江南地区の学区に高学歴層や富裕層が集まる学区間格差が発生した。現在ではソウル市内のみならず韓国全土から江南に移住し有利な学区に入ろうという家族があとを絶たない。このため江南一帯の不動産需要は高く、さらに不動産投機もあってアパート価格は上昇を続けている。
ショッピングの中心地
この地域には狎鴎亭および江南駅周辺というソウルでも指折りのファッショナブルな地域が存在する。新興のエンターテインメント地域・文化地域として江南はあらゆる世代の人々を惹きつけている。1990年代にブームを起こした狎鴎亭に続き、2000年代には江南駅周辺の道幅の広い街路樹の道沿いにカフェ、レストラン、クラブ、映画館などが並ぶようになっている。
その他、ソウル蚕室総合運動場(オリンピックスタジアム)のあるソウル・スポーツ・コンプレックス、国際会議場・展示場(コエックス)およびショッピングモール(コエックスモール)、オペラ劇場や美術館の集まる「芸術の殿堂」も江南地域にある。
江南の光と影
李明博元大統領が進めた財閥優遇政策により、賑やかな商店街から僅か700mも離れると水道管が地面に埋設ではなく電線の様に平屋の上に設置していたりするようなスラムが現存するなど、同じ江南地区でありながら、富裕と貧困の格差が大きい。