隠れた変数理論

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隠れた変数理論 (かくれたへんすうりろん、hidden variable theory)とは、特定の量子の特定の時刻における可観測量は、観測が困難なだけであって、決まった値を取るとする理論である。そのために、量子力学の理論に未だ組み込まれていない変数(=隠れた変数)を導入する。局所的な隠れた変数理論は一般人の日常間隔に最も近い解釈であるが、非局所的な隠れた変数理論は一般人の日常間隔からも遠い。アルベルト・アインシュタインを初めとする著名な物理学者が主張していたが、現在の支持者は少数派となっている。

歴史

マックス・ボルンは1926年に波が示す確率分布に従って粒子が観測されるとする確率解釈を提唱した。これに対して、アルベルト・アインシュタインは、「神はサイコロを振らない」と反発したとされる[1]

1932年、フォン・ノイマンは、今日の量子力学の数学的理論の元になる書籍を発行した[2]。フォン・ノイマンは、この中で、隠れた変数理論が実現しないことを証明したとされる。 これに反発したアルベルト・アインシュタインらは俗にERP論文と呼ばれる論文を発表し[3]エルヴィン・シュレーディンガーシュレーディンガーの猫と呼ばれる思考実験を発表した[4]。しかし、これらの論文では、フォン・ノイマンの数学的証明を覆すには至らなかった。

1952年、デヴィッド・ボームは、フォン・ノイマンの証明を突破した非局所的隠れた変数理論の式[5][6]を発表する。

1964年、ジョン・スチュワート・ベルが、隠れた変数理論を検証する「ベルの不等式」[7]を発表した。 この不等式の検証実験をアラン・アスペらが行ない、局所的な隠れた版数理論を否定したとされるが、実験の不備を指摘する声もある。 1967年、コッヘン・シュペッカーの定理[8]により、現在の量子力学に採用されている数学理論では、全ての可観測量に隠れた変数理論を適用できないことが証明された。 これにより、全ての可観測量に決まった値を割り振る隠れた変数理論は、事実上、潰えた。 しかし、一部の可観測量に限定して決まった値を割り振るなどの、隠れた変数理論の研究は、今でも、細々と続いている。

参考文献

  1. マックス・ボルンへの私信(1926年12月4日Albert Einstein Archives reel 8, item 180)
  2. 『量子力学の数学的基礎』 井上健・広重徹・恒藤敏彦訳、みすず書房、1957年。
  3. Einstein, A., Podolsky, B. and Rosen, N. (1935) Can Quantum-Mechanical Description of Physical Reality Be Considered Complete?, Phys. Rev. 47, 777-780
  4. E. Schrödinger, "Die gegenwärtige Situation in der Quantenmechanik" Naturwissenschaften, 23(1935) pp.807-812 [1], pp. 823-828 [2], pp. 844-849 [3], 英訳 Proceedings of American Philosophical Society 124 (1980) pp. 323-338 [4] [5]
  5. Bohm, David (1952). “A Suggested Interpretation of the Quantum Theory in Terms of "Hidden Variables" I”. Physical Review 85: 166–179. DOI: 10.1103/PhysRev.85.166.
  6. Bohm, David (1952). “A Suggested Interpretation of the Quantum Theory in Terms of "Hidden Variables", II”. Physical Review 85: 180–193. DOI: 10.1103/PhysRev.85.180.
  7. Bell, J. S. Physics 1964, 1, 195; reproduced as Bell, J. S. Speakable and Unspeakable in Quantum Mechanics; Cambridge University Press, 1987, Ch. 2.
  8. S. Kochen and E.P. Specker, "The problem of hidden variables in quantum mechanics", Journal of Mathematics and Mechanics 17, 59-87 (1967).

関連項目