黒蜥蜴

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黒蜥蜴』(くろとかげ)は、江戸川乱歩の長編探偵小説。乱歩の代表作の一つで、宝石等の財宝を盗む女賊と名探偵明智小五郎が対決する。初出は連載小説として雑誌「日の出」1934年(昭和9年)1月号から同年12月号に連載された。

1957年(昭和32年)12月、ポプラ社刊・名探偵明智小五郎文庫2 『黒い魔女』は、少年向けにリライトされた作品で、氷川瓏による代作である。ポプラ社刊・少年探偵シリーズにも収録され、ロングセラーとなった。

三島由紀夫を始め複数の作家によって戯曲化され、多くの団体により幾度も舞台上演された。高階良子JET北沢バンビによる3度の漫画化、大映松竹による2度の映画化の他、テレビドラマ化もたびたびなされている。

登場人物[編集]

黒蜥蜴(緑川夫人)
表向きは社交界の華だが、真の姿は「美しいもの」特に宝石や、若い男女(殺害し剥製にする)を蒐集する女賊。大胆不敵かつ手段を選ばず、一度狙いを定めた獲物は逃がさない。
岩瀬庄兵衛
在阪の富豪で宝石商を営む。所有する大型ダイヤモンドの逸品「エジプトの星」と、愛娘・早苗を黒蜥蜴に狙われている。
岩瀬早苗
庄兵衛の令嬢。秀でた容貌ゆえ、「エジプトの星」共々黒蜥蜴の標的になってしまう。
雨宮潤一
恋人と恋敵を死なせ、追われの身の青年。黒蜥蜴に部下としてかくまわれている。
松公
黒蜥蜴の従僕で火夫ボイラーマン)。
桜山葉子
天涯孤独の失業女性。偶然にも早苗とそっくりな容貌だったため本件に巻き込まれていく。
(※高階漫画版には未登場)
明智小五郎
幾多の難事件を解決してきた名探偵。

なお、乱歩自身の原作と、それぞれの戯曲・漫画等の派生作品では、各作品発表時点においての「現代」に設定されたものが多いために時代設定がバラバラで、話のこまごました点でも差異もある。

例えば、高階版の「雨宮潤一と岩瀬早苗」、三島版の「雨宮潤一と桜山葉子」のように原作にはない恋愛模様が描かれたり、高階版のように潤一が早苗に同情して黒蜥蜴を裏切り、早苗と逃亡を図って黒蜥蜴の部下の凶弾に仆れたり(原作では潤一は死なない)、黒蜥蜴と庄兵衛との間で行われる「エジプトの星」の取引場所が原作の通天閣から、三島版や高階版では東京タワーなどに変更されたりなどの差異がある。

しかし、明智と警察の裏をかいた黒蜥蜴の犯行遂行、相並び起たぬ存在ながら互いに恋愛にも似た感情に陥る明智と黒蜥蜴、黒蜥蜴の自殺という大団円などの大筋は共通している。

戯曲・舞台化[編集]

舞台の脚本は多くの脚本家が手掛けており、黒蜥蜴役もまた多くの名優たちによって演じられてきた。

有名なものとしては三島由紀夫による戯曲が挙げられ、これは1961年(昭和36年)、「婦人画報」12月号に初掲載されたものである。単行本は1969年(昭和44年)5月に牧羊社より刊行。豪華限定版も1970年(昭和45年)1月に同社より刊行された。現在は2007年(平成19年)9月に『黒蜥蜴』(学研M文庫)が、解説・対談などを網羅し再刊されている。

初の舞台化は1962年(昭和37年)3月にサンケイホールで、黒蜥蜴を初代・水谷八重子、明智を芥川比呂志で上演。

舞台作品における黒蜥蜴といえば、美輪明宏の代表作で彼は丸山明宏時代から数十年にわたり幾度も演じている。美輪は主演のみならず、演出・美術・衣装・音楽・人選等も自ら手がけ、明智小五郎役に天知茂名高達男榎木孝明高嶋政宏などの演技派二枚目俳優を代々起用している。しかし、この美輪の黒蜥蜴がイメージ的にあまりにも鮮烈過ぎるためか、近年は他の役者が黒蜥蜴を舞台で演ずると、美輪の黒蜥蜴との比較で論じられる事も多く、それゆえに芳しくない評価に終わるケースも少なからず見られる(裏を返す形であるが同じく美輪の代表作である『毛皮のマリー』(寺山修司)と、『黒蜥蜴』については「美輪明宏以外が演じても成功しない」などと芸能マスコミなどでジンクス的に語られる事もある)。これもあってか、美輪の関連しない『黒蜥蜴』の舞台についての企画は、キャスティングを巡って非常に難航する事があるという。

おもな公演[編集]

プロデューサー・システムによる3月サンケイ公演 1962年(昭和37年)3月3日 - 26日 東京・サンケイホール

脚本:三島由紀夫。演出:松浦竹夫。舞台監督:佐々木忠次
出演:初代・水谷八重子芥川比呂志田宮二郎大空真弓小川虎之助賀原夏子名古屋章、ほか
千秋楽に三島由紀夫がボーイ役で特別出演。
※ 1962年(昭和37年)3月24日、31日にフジテレビで舞台中継。

松竹東急提携15周年記念 名作特別公演

1968年(昭和43年)4月3日 - 26日 東京・東横劇場、4月28日 東京・歌舞伎座アンコール公演)、
8月1日 - 7日 名古屋・御園座、8月24日 - 29日 京都・南座
脚本:三島由紀夫。演出:松浦竹夫。舞台監督:田中基
出演:丸山明宏(現・美輪明宏)、天知茂広瀬みき中山仁村上冬樹新村礼子夏八木勲、ほか
石原慎太郎潤色『若きハイデルベルヒ』と併演。
※ 東横劇場公演千秋楽に三島由紀夫が生人形役で特別出演。
※ 1968年(昭和43年)7月16日、23日に日本テレビで舞台中継。

丸山明宏大阪公演

1969年(昭和44年)7月1日 - 25日 大阪・新歌舞伎座
脚本:三島由紀夫。演出:松浦竹夫。舞台監督:田中基
出演:丸山明宏岡田真澄青山良彦広瀬みき村上冬樹新村礼子、ほか
アレクサンドル・デュマ作『椿姫』と併演。

小川真由美中山仁特別公演

1982年(昭和57年)5月1日 - 25日 京都・南座
脚本:三島由紀夫。演出:篠崎光正。舞台監督:種倉保夫
出演:小川真由美中山仁光田昌弘長谷直美田島義文斎藤美和、ほか

東京オペラ・プロデュース第22回定期公演 創立10周年記念

1984年(昭和59年)9月11日 - 12日 東京・日本都市センターホール
脚本:三島由紀夫。作曲:青島広志。指揮:三石精一。演出:出口典雄。舞台監督:増田啓路
出演:中村邦子本宮寛子山村民也工藤博、ほか
※ オペラ化

11月特別公演

1984年(昭和59年)11月2日 - 27日 東京・新橋演舞場
脚本:三島由紀夫。演出:栗山昌良。舞台監督:加藤三季夫
出演:坂東玉三郎北大路欣也村上弘明賀来千香子菅原謙次南美江、ほか
※ 昭和59年度芸術祭参加。

中日劇場公演

1986年(昭和61年)4月3日 - 26日 名古屋・中日劇場
脚本:三島由紀夫。演出:栗山昌良。舞台監督:中川寿夫
出演:坂東玉三郎草刈正雄村上弘明賀来千香子菅原謙次南美江、ほか

3月特別公演

1990年(平成2年)3月2日 - 26日 東京・新橋演舞場
脚本:三島由紀夫。演出:坂東玉三郎福田逸。舞台監督:遠藤宣彦
出演:松坂慶子津嘉山正種荻野目慶子井上純一伊藤敏八南美江、ほか
※ 三島由紀夫20年祭

フロムスリー製作公演

1993年(平成5年)4月1日 - 18日 東京芸術劇場中ホール、
4月20日 - 21日 名古屋・愛知厚生年金会館大ホール、4月23日 高松市民会館大ホール、
4月27日 - 5月2日 大阪厚生年金会館中ホール
脚本:三島由紀夫。演出:美輪明宏。舞台監督:北条孝
出演:美輪明宏榎木孝明宇梶剛士佐倉しおり有田麻里田口計、ほか

ドラマチックオフィス企画制作公演

1997年(平成9年)5月30日 - 6月22日 東京・青山劇場
脚本:三島由紀夫。演出:美輪明宏。舞台監督:北条孝
出演:美輪明宏名高達男宇崎慧藤谷美紀有田麻里田口計、ほか

篠井英介ひとり芝居『女賊』

1999年(平成11年)11月9日 - 23日 東京・三軒茶屋シアタートラム
脚本・演出:橋本治。舞台監督:伊達一成。出演:篠井英介鈴木規依示田中謙次、ほか

パルコ劇場30周年記念公演

2003年(平成15年)3月5日 - 30日 東京・ル・テアトル銀座、4月3日 郡山市民文化センター
4月5日 - 6日 仙台・宮城県民会館、4月10日 - 12日 名古屋・愛知厚生年金会館
4月15日 - 16日 広島郵便貯金ホール、4月18日 - 19日 福岡サンパレスホール、
4月23日 富山・オーバード・ホール、4月26日 長野県民文化会館大ホール、
4月29日 浜松・アクトシティ浜松、5月2日 - 10日 大阪厚生年金会館芸術ホール、
脚本:三島由紀夫。演出:美輪明宏。舞台監督:北条孝佐川明紀
出演:美輪明宏高嶋政宏木村彰吾須藤温子有田麻里田口計、ほか

T.P.T 「THEATRE PROJECT TOKYO」58

2006年(平成18年)11月24日 - 12月20日 東京・ベニサン・ピット
脚本:三島由紀夫。演出:デヴィッド・ルヴォー門井均
出演:麻実れい(緑川夫人・黒蜥蜴)、千葉哲也(明智小五郎)、山崎雄介(雨宮潤一)、宮光真理子(岩瀬早苗)、清水綋治(岩瀬庄兵衛)、岡本竜汰(堺)、ほか
※ この舞台により麻実れいは、第6回朝日舞台芸術賞舞台芸術賞と、第14回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。

宝塚歌劇団花組公演 『明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴』

2007年(平成19年)2月9日 - 3月19日 宝塚大劇場、4月6日 - 5月13日 東京宝塚劇場
脚本・演出:木村信司。出演:春野寿美礼桜乃彩音真飛聖壮一帆愛音羽麗未涼亜希桜一花野々すみ花、ほか
※ 新人公演(2月27日)は、主演:野々すみ花朝夏まなと日向燦初姫さあや、ほか

三島戯曲の単独刊行本[編集]

  • 『黒蜥蜴』(牧羊社、1969年5月20日) 1,000円
装画:FIDUS。題簽:蕗谷虹児。造本:三島由紀夫。A5変型判。154頁。紙装、貼函、帯。
口絵カラー写真4頁6葉(舞台写真:丸山明宏、ほか。撮影:山田健二)。
本文2色刷(活字は紫色、囲み飾り罫は銀色)。
  • 特装限定版『黒蜥蜴』(牧羊社、1970年1月15日) 15,000円
装画:FIDUS。造本:直木久蓉。A4変型判。154頁。総革装、天金、左右合わせ函、段ボール外函。
口絵カラー写真1頁1葉(舞台写真:丸山明宏。撮影:山田健二)。
本文2色刷。本文に蜥蜴のレリーフ(空押し)あり。本文、奥付、扉に装画6葉(FIDUS)。
限定350部(記番・署名入)。350部本の表紙は紅色で天金装だが、中にベージュ色のもの、三方金のものあり。
※ 非売品の著者本(表紙は紫色、三方金)も50部あり。
  • 文庫版『黒蜥蜴』(学研M文庫、2007年6月25日) 850円
口絵カラー写真4頁4葉(舞台写真:美輪明宏高嶋政宏、ほか。撮影:御堂義乗山田健二
付録として、自作解題、座談会(三島由紀夫×江戸川乱歩、ほか。三島由紀夫×美輪明宏)、解題(『黒蜥蜴』上演データ、美輪明宏『黒蜥蜴』のこと)
  • 英文版『Mishima on Stage the Black Lizard and Other Plays』(訳:Mark Oshima)(Univ of Michigan Center、2007年1月)

映画化[編集]

本作は過去に2度映画化されているが、いずれも江戸川乱歩の原作よりも三島由紀夫の戯曲にのっとった内容となっている。

1962年版[編集]

ミュージカル映画『黒蜥蜴』 1962年(昭和37年)3月14日封切。カラー 1時間42分。

製作・配給:大映。監督:井上梅次。原作戯曲:三島由紀夫。脚本:新藤兼人。音楽:黛敏郎
作詞:三島由紀夫。(主題歌「黒蜥蜴の歌」、挿入歌「黒とかげの恋の歌」、「用心棒の歌」)

1968年版[編集]

映画『黒蜥蜴』 1968年(昭和43年)8月14日封切。カラー 1時間26分。

製作・配給:松竹。監督:深作欣二。原作戯曲:三島由紀夫。脚本:成沢昌茂、深作欣二。音楽:冨田勲
※ 三島由紀夫が端役で特別出演。

テンプレート:深作欣二

漫画化[編集]

高階良子が月刊「なかよし」1971年(昭和46年)4月号 - 8月号に『黒とかげ』のタイトルで連載した。「学園・青春モノに限界を感じ、作風を変えるべく挑戦した一作(本人談)」。なお高階はその後も、江戸川乱歩作品に限っても、『パノラマ島奇談』(漫画化題『血とばらの悪魔』)・『孤島の鬼』(同『ドクターGの島』)を発表した。

JET朝日ソノラマより単行本として2002年(平成14年)12月、『黒蜥蜴 名探偵登場!』のタイトルで作品を発表した。

北沢バンビは2007年(平成19年)、雑誌「コーラス」3月号・4月号に発表。

テレビドラマ化[編集]

江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎「黒蜥蜴」より『ダイヤモンドを喰う女』

テレビ東京 1970年(昭和45年)4月25日
脚本:長谷川公之宮田達男。出演:野川由美子滝俊介山田吾一橘ますみ岡田裕介山村聡鹿内タカシ村上冬樹水上竜子岡部行宏イクサン・サフアギク・メイヤー津田まり子右田洋子滝波錦司川部修詩伊藤慶子出良豊、ほか

『明智探偵事務所』

NHKテレビ 1972年(昭和47年)4月3日
演出:山田勝美佐藤満寿哉北村充史。脚本:中島貞夫福田善之
出演:倍賞美津子夏木陽介田村奈巳米倉斉加年麻田ルミ高橋長英佐藤蛾次郎斎穏寺忠雄六人部健市、ほか

土曜ワイド劇場江戸川乱歩の美女シリーズ第7作「黒蜥蜴」より『悪魔のような美女』

テレビ朝日 1979年(昭和54年)4月14日
演出:井上梅次。脚本:ジェームス三木。出演:小川真由美天知茂荒井注五十嵐めぐみ柳生博、ほか

江戸川乱歩傑作シリーズ『黒蜥蜴』

TBSテレビ 1990年(平成2年)10月24日
演出:関本郁夫。脚本:田波靖男。出演:島田陽子小野寺昭なべおさみ、ほか

月曜ドラマスペシャル『美しき悪女の伝説 黒蜥蜴』

TBSテレビ 1993年(平成5年)1月25日
演出:河野宏。脚本:八木柊一郎。出演:岩下志麻伊武雅刀谷啓野村真美佐野圭亮、ほか

『乱歩R』第4話「黒蜥蜴2004世紀末美少年ランド」

日本テレビ 2004年(平成16年)2月2日
演出:長川千佳子。脚本:福本義人。出演:松坂慶子藤井隆(三代目・明智)、石垣佑磨上山竜司須之内美帆子峰岸徹嶋田久作、ほか

ラジオドラマ化[編集]

青春アドベンチャー『黒蜥蜴』

NHK-FM 2009年(平成21年)5月11日 - 5月15日(全5回)
脚色:棚瀬美幸。選曲:水津雅幸。演出:江澤俊彦。技術:糸林薫。音響効果:巽浩悦
出演:篠井英介(明智小五郎)、清水ミチコ(黒蜥蜴)、清水隆伍(潤一)、山野史人(岩瀬)、藤井美波(早苗・葉子)、福井裕子(岩瀬夫人)。ナレーション:冷泉公裕

黒蜥蜴を演じた女優・俳優[編集]

(☆印は、明智小五郎役の俳優)

戯曲
オベラ
宝塚歌劇
映画
テレビドラマ
ラジオドラマ

参考文献[編集]

  • 『決定版 三島由紀夫全集第42巻・年譜・書誌』(新潮社、2005年)
  • 三島由紀夫『黒蜥蜴』(学研M文庫、2007年)

関連項目[編集]