「左翼 (政治)」の版間の差分
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2022年4月28日 (木) 10:50時点における最新版
左翼(さよく)・左派(さは)とは、政治思想・政治勢力を大きく二分した場合における革新(対義語は保守)側のことである。右翼と対立する。 20世紀以降は市場原理を認める穏健な社会民主主義から革命を志向するアナキズム、社会主義や共産主義まで、幅広い勢力を指す語として用いられる。社会主義や社会民主主義、共産主義は赤、アナキズムは黒で表されることが多い。
アメリカ合衆国では社会主義に対するアレルギーが強いため、実際には社会民主主義的な立場の人々でも左派・左翼の用語を嫌い、「リベラル」として自らを表現することが一般的である。日本では、1996年の総選挙で惨敗した旧社会党(現社民党)が失地回復を狙って「リベラル結集」を旗印に掲げた。
語源はフランス革命第一期の国民議会で、議長席から見て左側に主に非特権階級である第三身分(商工業者・労働者など)の意思を代弁する共和派が席を占めた事に由来する。
概説[編集]
初期[編集]
フランス革命第二期では右翼のフイヤン派が没落し、今まで左翼だった共和派が支配的となる。しかし、政策を巡って再び左右で割り、新しい軸が生まれる。そして右側には穏健派のジロンド派が座り、左側には過激派のジャコバン派が座ることとなった。
1793年には左翼のジャコバン派が国民公会からジロンド派を追放し、ジャコバンが目指した共和政ローマに似た独裁政治が敷かれた。しかし、ジャコバン派は新興資本家寄りのダントン派と労働者層寄りのエベール派に分裂する。ロベスピエールは両者を粛清して、恐怖政治を強めた。1794年にはテルミドールのクーデターが起き、ジャコバン派が次々と投獄・処刑される(当時はジャコバン派の熱烈な支持者だったナポレオン・ボナパルトもこれに含まれた)。このクーデターによって王党派が復活し、左翼は一時衰退する。
1871年には史上初の社会主義政権であるパリ・コミューンが成立した。
20世紀[編集]
20世紀は専ら大学教員などの知識人が大衆の左翼運動を指揮し、欧州やロシアではマルクス主義が台頭した。また、欧州では同時に穏健派の社会民主主義も勢力を増大させた。絶対王政が続くロシアでの革命は成功したが、レーニン死後は世界革命を主張するトロツキーが失脚させられ、レーニンの後継として一国社会主義を主張するスターリンが権力を掌握した。スターリンの独裁体制は、政敵や無辜の民に対する大粛清を行うなど恐怖政治が横行した。
絶対王政からの解放者としてのソ連共産党が全体主義的な傾向を強めていき民主主義色が薄れていったため、マルクス・レーニン主義から欧州の知識人も離反していった。それゆえ、西欧の共産党や急進左派は反ソ連・反スターリンの傾向を強め、リベラリズムとの親和性が高いユーロコミュニズムを提唱していくことになった。
市場原理を認める穏健左派などと呼ばれるリベラリズム・社会民主主義は欧州(特にフランス・ドイツ・北欧など)において福祉国家を建設した。資本側と労働者側が話し合いで協調し(コーポラティズム)により、世界トップレベルの経済力を誇るなど成功を収め、近年では第三の道を主唱している。
共産党・コミンテルン主導の革命で成立した共産主義国は、スターリン以降のソ連や中国の様に、一党独裁と権威主義的な全体主義に転じてしまうことが多い。共産党独裁の中国やベトナムはマルクス主義の経済発展段階の学説に基づいて市場原理を導入したが、中国では国内に大きな経済格差と富裕階級を持ち、事実上資本主義独裁国である。
世界的に見た場合左翼と呼ばれる勢力は、多かれ少なかれ根底に資本主義と帝国主義への懐疑があると言われている。世界を経済力・軍事力で支配し、世界の画一化(アメリカ化)の推進と新自由主義を徹底する米国に対しては反米の姿勢かまたは一定の距離を置くのが普通である。もっとも、イギリス労働党のようにアメリカと同盟しているものもある。また、反米のために稀に反米保守と連携する左翼も一部ではあった。
急進派[編集]
左翼の中でも極端に急進的な変革・革命を求めるものは極左と呼ばれるが、共産党などの伝統的左翼内の急進派と、トロツキストなどの新左翼とは考え方が大きく異なり、アナキストは思想が根本的に異なっている。
日本の左翼[編集]
日本における主要な左翼政党は日本共産党と旧日本社会党と社民党が挙げられる。しかし、これらは社会主義・共産主義的なプロレタリアート革命を、革命ではなく、投票行動による議会制民主主義の枠内で成し遂げるという目標を掲げており、新左翼の側からは既成左翼、旧左翼と呼ばれて批判された。また、日本国内では右翼と同様に左翼団体として暴力団が偽装しているケースも多い。
政治思想[編集]
日本の旧左翼は積極的に平和主義を理想として掲げるものが多いことが特徴であり、その目標の為に日本国憲法第9条の改正を阻止する護憲を唱えている(ただし、日本共産党などは憲法制定後しばらくは九条改正志向だった)。旧来は天皇制にも批判的な場合が多かったが、近年では天皇制には無関心か、民主化した上で存在を認める左翼が多くなっている。また、日米安全保障条約や在日米軍問題を中心にアメリカ合衆国(米国)の政策に対して批判的な立場に立つことが多く、在日米軍基地や自衛隊基地に対しては関連の市民団体と共にデモやストライキを行うのが恒例となっている。一方で、旧ソ連や中国、北朝鮮など共産主義国に対しては、その政治的独裁性には批判的であっても、軍拡については積極的に批判することは少ない。
日本社会党は平和主義の立場から非武装中立主義を掲げ自衛隊にも反対の立場であったが、近年では災害時の自衛隊の活躍や北朝鮮のミサイル発射や中国の軍事大国化、韓国の軍事力を背景とした竹島実効支配などの現実を踏まえ、日本共産党や村山内閣時の日本社会党、2006年までの社会民主党など容認する左翼も現れている。
これに対して新左翼の多くは、反スターリン主義の立場から、ソ連派の民学同などを除いて、ソ連など独裁的な共産主義国に対しては「スターリン主義」であるとして、資本主義の大本山アメリカに対するのと同様に否定的であった。ただし同じ独裁的な共産主義国である中国に対しては、毛沢東主義の影響を受けた党派(日本共産党 (左派)、共産同ML派、日本労働党など)をはじめとして肯定的な党派が多かった。また新左翼の多くは反戦平和主義ではなく戦闘的左翼を主張した。そのため、同じ反旧左翼・反米勢力として天皇主義を掲げる新右翼・民族派との共闘も見られた。護憲派ではなく革命的改憲派でもある。
歴史認識[編集]
歴史認識問題等では、「過去の太平洋戦争(大東亜戦争)には自衛戦争としての側面や大東亜共栄圏、欧米植民地主義からのアジア解放としての側面があった」という右翼の主張を全面的に否定し侵略戦争であるとし、日清戦争・日露戦争も「侵略戦争」と位置づける者もいる。[1] 「南京大虐殺」や「慰安婦」の「強制連行」などについても、日本側の加害責任を追及する論調が多く、東京裁判を「戦勝国による一方的な裁判であり国際法上問題あり」とする見方については全面的には否定しないものの、「それによって戦争犯罪が免責される訳ではない」とする立場に立つ場合が多い。
一般的に戦前の「帝国主義」・「軍国主義」への嫌悪から、天皇・靖国神社・日の丸・君が代には批判的である。
そうした歴史認識から戦後は「日本のアジア諸国への謝罪は不十分である」とし、「国家間賠償は解決済みであっても個人賠償が未解決」とし、近年活発な日本政府に対する靖国問題や慰安婦問題などの個人的な賠償訴訟を提起、あるいは支援している。
日本独自の特徴[編集]
左翼の傾向を持つ者には、アメリカや親米派によるグローバリズムや新自由主義に対抗して農業や伝統文化を保護しようとする運動をする者が多いのは世界的な傾向であるが、日本ではその保護運動に積極的に参加する保守派も多いと言われる。
また、日本の場合は戦後、自民党の中でも社会民主主義に比較的近い経済左派の保守本流政権が長く続いており、また学術・学会の傾向として経済学の一派にマルクス経済学が相応の研究領域を占め定着していた経緯があり、マルクス主義に対する抵抗は意外に低いと言われる。
日本国外[編集]
ラテンアメリカでは米国が主導する新自由主義に対する反発から、ベネズエラのウゴ・チャベスやボリビアのエボ・モラレスなどの反米左翼政権が数多く誕生しており、反米とまでは行かないもののブラジルの大統領であるルラも労組出身者である。また、90年以降左翼の政権も新自由主義的な経済政策を取り入れ始めたため、急進左派勢力がある程度勢力を拡大している。ドイツでも旧東ドイツのドイツ社会主義統一党の流れを汲む民主社会党PDSとドイツ社会民主党SPD左派が合流した左翼党が党勢を伸張している。東欧では市場経済導入以降の国内の経済格差批判から、党綱領と党名を変革した旧共産党の社会民主主義政党が政権に戻りつつある。
イギリスでは、階級制度の残存への対抗から、階級闘争勢力としての社会主義が根強い。しかしながら、労働党のトニー・ブレア首相は福祉国家色が強かった労働党の政策を中道左派の第三の道へ変えることで政権を獲得した。
ヨーロッパの学派は、日本の沈滞状況とは対称的に、ネグリ、ハート、アルチュセール、ジジェク、ラクラウ、デリダ、バトラーなど、新保守主義、リベラルとは違う第三極として、ニューレフトを模索する運動が盛んである。これらは、文化的な相対主義など政治を離れて哲学的な論及も行うため、文化左翼といった呼び方もされる。
参考文献[編集]
香山リカ(2002年)『ぷちナショナリズム症候群―若者たちのニッポン主義』中央公論新社、ISBN 4121500628