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増幅回路とは少なくとも電力の増大が生じる場合にのみ、使う用語である。たまたま、電圧の増大があったとしても、それは付随的なことでそれが目的ではない。必ずしも入力波形と相似の関係である出力波形でなくてはならないというものではない。入力に対して非線形の出力波形をむしろ、望むこともある。そのような場合でも電力に着目したときは増大していなくてはならない。増幅作用というものが実現できるようになったのは、近年といっても過言ではない。これによって飛躍的に電子工学が発展した。それ以前は電子工学分野そのものが無かったといってもよかろう。その概念は例えて言えば、ガソリン原動機の自動車に乗り、アクセルを調整しながら操縦していることを想像してみるとよい。アクセルを踏む力(正確には勢力)は弱くてもその変化に応じて自動車が加速したりして速度の変化をしているわけである。つまり、微弱な勢力の変化が大きな勢力の変化に変えられたことになる。倍力装置ではない。外部からの勢力の供給がなされているのである。初期は真空管を利用して作られたが、トランジスタへと換わって来た。終段電力増幅器と呼ばれるように基本的に電力増幅を目的とする。似たものに変圧器というのがあるが、これにより昇圧された電圧、電流は勢力保存則により、積が一定である。
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電子工学に於ける増幅回路(ぞうふくかいろ)とは、入力された信号に応じて、より大きな出力エネルギーを得る回路である。信号のエネルギーを増幅する目的のほか、発振回路、演算回路などを構成する要素としても重要である。動作エネルギーは電源など他から供給する。
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目的により「電圧増幅」「電流増幅」と呼ぶ回路もある。変成器(=信号用変圧器)で巻数比倍に昇圧は可能だが、信号エネルギーは増えないが着目特性により広い意味で増幅ということもある。
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1 概要
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2 バイアスの方式による分類
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2.1 A級増幅回路
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2.2 B級増幅回路
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2.2.1 AB級増幅回路
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2.3 C級増幅回路
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2.4 D級増幅回路
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3 回路の接続方式による分類
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3.1 接地方式
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3.2 プッシュプル増幅回路
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3.3 差動増幅回路
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4 負帰還・正帰還
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5 用途による分類
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6 多段増幅器とレベル配分
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7 増幅回路の諸元
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8 増幅回路に関する付加回路
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8.1 デカップリング回路
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8.2 AGC回路
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9 増幅器と増幅器との結合方式の種類
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10 関連項目
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概要
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バイポーラトランジスタではベース電流とコレクタ電流、真空管ではグリッド電圧とプレート電流、電界効果トランジスタではゲート電圧とドレイン電流がそれぞれ比例する性質を持つ。電源から負荷抵抗を通してコレクタ(プレート、ドレインも同じ。以下略)に電圧を供給することにより、コレクタ電流(ベース電流×電流増幅率)の変化に対応したコレクタ電圧の変化が得られる。これを出力することで、入力信号が大きな電力の出力に変換されたことになる。
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特に大きな出力電力が必要な場合は、電圧増幅(電圧増幅度は高く、電流増幅度はそれほど高くない)を何段か重ねた後、最終段に出力インピーダンスの低い増幅段(電圧増幅度は低く、電流増幅度が高い)を設けて出力を取り出すことが多い。インピーダンス整合の関係上、このような構成が有利である。
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バイアスの方式による分類
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真空管やトランジスタなどの増幅素子は、入力信号がある一定の直流値(電圧or電流)範囲にあるときにのみ意図した増幅特性をもち、それ以外の範囲ではそもそも増幅作用が得られない。そこで、入力信号に対して一定の直流値(電圧、電流)(これをバイアス値という)を加えて素子の適切な動作範囲に収まるようにする必要がある。こうして入力信号も出力信号も一旦は直流値にして動作させ変化分を取り出すようにしている。 通常はバイアス電圧、バイアス電流は省略し、信号分(変化分、交流分ということもある)だけの回路図で動作説明されるが、そのような回路図であってもバイアス電圧、バイアス電流が印加されていると考えるのである。 実際とは異なるそのような回路図であっても慣習的にそう表現する場合は少なくないので、初心者は回路図面に慣れる必要はある。 アナログ増幅回路はバイアスの方式によりA級、B級、C級に分類され、更に動作方式の異なるPWMスイッチング方式をD級と呼ぶ。
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A級増幅回路
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A級増幅回路とは、増幅素子の入力と出力の関係が直線的(比例関係)になるよう、入力信号の全瞬時値にわたり出力が直線的に対応するバイアス電圧・電流を与え、入力と相似の出力が得られる方式である。最も歪みの少ない出力が得られるが、電流が常時流れているので、消費電力が大きく、電力増幅回路を構成した場合、供給電力に対する効率は最大50%以下である。
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B級増幅回路
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B級増幅回路とは、交流の入力信号のうち片側の極性のみが増幅されるようにバイアスを与えたものである。バイポーラトランジスタを増幅に用いる場合、ベース-エミッタ間のオン電圧をバイアスとして与える(シリコンで0.55V~0.7V、温度で異なり製造ロットでも微妙に異なる)。入力電圧が負の場合には、トランジスタに入力される電圧はオン電圧より低くなるため、コレクタ電流はゼロとなり、出力されない。入力電圧が正の場合にのみ、入力電圧の振幅に比例した出力電圧が得られる。
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音声信号増幅の場合には、2個の増幅素子を正負対称に接続した回路(プッシュプル回路)により、入力信号と同じ波形が出力されるようにする。SSB送信機出力段(リニアアンプ)では半周期増幅のままLC共振回路で目的出力を選択している。
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B級PP増幅と歪出力の効率が最大78%とA級増幅回路に比べ高効率で、小信号時の電流が大変少ない(定損失が少ない)ため、(特に小信号をも扱うオーディオアンプなどの)大電力増幅回路に用いられる。
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B級がA級より音質が劣る部分は、 小入力時のプッシュプル動作切り替わり部分で大きな歪み率になることと、バイポーラトランジスタの場合には休止サイクル突入時に少数キャリア消滅ノイズを発して、後者は広範な周波数成分を含んで外部からの抑制・制御は不能だから発生したら取り去れず、小出力時の音質を著しく悪化させてカサついた音質になる。大出力拡声器を小出力で使ってそれに気付くことが多い。それらの歪みは大出力時はマスクされて判らなくなるから、B級増幅器の出力-歪み率特性は(聴感に合う対数尺で見て)小信号で歪み率が大きく、最大出力近くに最小点が出来て、それ以上は増幅素子の飽和で急激に歪みが増える。
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なお出力-歪み特性図に見られる様に、小信号領域にも問題点はある。小信号領域では若干の歪率の違いよりむしろS/Nが音質に効く場合がある。少数キャリア消滅雑音は無信号時には発生しないので歪み率で計測するが、実態は入力波形に拠らず、ノイズNに近いものであり前述バイポーラトランジスタB級アンプの小信号領域の音質を特に悪化させるものである。また初期のトランジスタオーディオアンプにみられたランダムなパリパリノイズで永らく「半導体アンプの音は堅い!」という伝説を生んだ。つまり条件次第の適材適所の適切な使用が求められる。
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AB級増幅回路
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B級プッシュプル回路の小信号領域での歪み特性を改善するため、A級とB級の中間的なバイアスを加えて小信号時にはA級動作とするAB級増幅回路があり、B級時の歪みをマスクする出力レベルで切り換わるから、音質を問題にする用途では実質AB級が主流であるし、B級といっても調整実務として若干の無信号電流を流しているので、原理的な違いではなく、B級増幅回路に意図して大きめの小信号電流を流す設計(=AB級)なのかどうかという相違に帰着する。
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逆極性励振時にバイポーラトランジスタを遮断させず、少数キャリア消滅ノイズ発生を抑えた回路構成も一部メーカーで採用されている。
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C級増幅回路
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C級増幅回路とは、増幅素子に遮断値より深いバイアスを与えて、入力信号の電圧が十分に高い場合にのみ出力電圧が得られるスイッチング動作に似通ったものである。入力信号と出力信号の波形は全く違ったものになり、出力信号には高調波の成分が多く含まれる。
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C級増幅回路は、大電力の狭帯域高周波増幅回路によく用いられる。出力にフィルタ回路を設け、増幅回路によって発生する不要な周波数成分を取り除くことにより、効率の良い増幅が可能となるためである。
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応用例として、周波数逓倍器がある。これは入力の周波数の整数倍の出力が得られるよう、出力のフィルタ回路を設けたものである。
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D級増幅回路
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D級増幅回路はパルス幅変調:PWM変調方式を電力増幅に適用しスイッチング回路で電力増幅を行うことで高効率増幅(90%余)を実現するので増幅素子の動作点(バイアス)は関係ない。
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前出A級、B級、C級増幅器が増幅素子の直線動作範囲に対する動作中心位置(バイアス電圧、電流)の相違なのに対し、D級はPWMスイッチング動作の平均値が瞬時出力だから増幅の動作原理そのものが質的に異なる。
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電源をオン・オフするスイッチと同じことで、リレー回路(電磁開閉器)のような働きである。出力に低域濾波器(LPF)を介してオン・オフの影響を断つが、負荷自体が脈動を吸収する場合にはLPFの省略もある。最大利用周波数の2倍以上の周波数でPWM変換することで入力原波形を復元、電力増幅器としている。
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 現在「1ビットアンプ」と称して家電の音声出力回路に採用されているし、変わったところでは山陽新幹線の自動列車制御装置ATC-1W型でレール(軌道回路)に流す信号電流の出力増幅器(PWM型スイッチングアンプ)として早くから採用されているし、車両の動力として三相電動機を採用しその瞬時回転数に適した周波数と電圧の三相交流を供給するVVVF方式の低速部(非同期モード)はこのD級増幅器(=2レベルインバータ式)あるいはそのバリエーション(=3レベルインバータ)と言って良い。
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回路の接続方式による分類
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接地方式
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真空管、トランジスタ、FETを増幅回路に用いる場合、3本の電極を入力、出力、共通線(接地)にどのように振り分けるかによって、増幅回路の特性が大きく異なる。トランジスタでは、接地する電極を基準としてエミッタ接地回路(Common emitter)、コレクタ接地回路(Common collector)、ベース接地回路(Common base)の3種類がある(真空管はエミッタ・コレクタ・ベースをそれぞれカソード・プレート・グリッド、FETはソース・ドレイン・ゲートに読み替える)。それぞれの回路は次表のような特徴がある。
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トランジスタ増幅回路の接地方式 接地方式 電圧増幅率 電流増幅率 周波数特性 入力インピーダンス 出力インピーダンス
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エミッタ接地 中 中 悪 中 中
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コレクタ接地 低(1未満) 高 中 高 低
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ベース接地 高 低(1未満) 良 低 高
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エミッタ接地・電流帰還バイアス回路
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コレクタ接地・電流帰還バイアス回路
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ベース接地・電流帰還バイアス回路
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プッシュプル増幅回路
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Push-pull output。2個のトランジスタを正負対称に接続して、それぞれ一方の極性の信号のみを増幅する回路がプッシュプル増幅回路である。バイアスはB級増幅回路が用いられることが多い。次のような種類がある。
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DEPP(Double Ended Push Pull) - 中点タップを設けたトランスを用いて、同種のトランジスタ2個を中点タップに対して対称に接続する方法
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SEPP(Single Ended Push Pull) - トランスを用いずに、コンプリメンタリ(NPN型とPNP型)のトランジスタ2個を正負対称に接続する方法
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CSPP(Closs Shunt Push Pull) - トランスを用いずに、正負を逆にした2個の独立の電源を用いて、同種のトランジスタ2個の正負をそれぞれひっくり返した接続にする方法
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差動増幅回路
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差動増幅回路。詳細は差動増幅回路を参照
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2個のトランジスタを左右対称に接続して2個の入力端子を設け、その差の電圧に応じた出力を得る回路が差動増幅回路である。出力段はプッシュプル回路にすることが多い。次章で述べる負帰還を自由に設定できるなど、回路の自由度が高いので、オペアンプがこの方式を採っている。
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負帰還・正帰還
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実際の増幅回路では、回路の特性を改善する為に負帰還(NFB, Negative FeedBack)を掛けて用いる事が多い。負帰還とは、出力信号の一部を入力に戻し、入力信号と逆位相で合成する事によって、出力の振幅を抑えて増幅回路の特性を安定させる事である。負帰還によって回路の増幅度は低下するが、広い周波数帯域にわたって均一な増幅度が得られる。増幅回路の増幅率が十分大きく、負帰還の帰還率が十分に大きければ、負帰還有りの増幅率は帰還率によって決まる。出力信号の全てを入力に負帰還させると、増幅率は1となる。
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いま仮に、アンプ単体の増幅度が周波数により1000倍~100倍で、負帰還率を1/10とすると、全体の増幅度は10(=1/10-1)で一定となり、歪みは1/100~1/10(負帰還量)に抑えられるということだが、単体増幅度が帰還増幅度(この場合10)に近づく領域では歪み抑制効果がなくなり、位相回転で発振する条件もできる。
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出力信号の一部を入力に戻し、入力信号と同位相で合成するものを正帰還(PFB, Positive FeedBack)と呼ぶ。出力信号が帰還されて入力信号を増大させ、それが増幅されて帰還され……を繰り返すので、正帰還はその量により発振を引き起こす(発振回路)。
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用途による分類
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増幅回路を扱う周波数で分類すると、次のように分類できる
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高周波増幅器(RFアンプ)
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低周波増幅器(AFアンプ)
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選択増幅器(特定の帯域のみを選択して増幅するようにしたもの)
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中間周波数増幅器(IFアンプ)
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また、直流と交流の両方を同時に入力できる増幅器(DCアンプ)もある。これにはバイアスの関係から、電界効果トランジスタ(FET)が増幅素子に用いられる。
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電圧、電流、電力のどれを重点的に増幅するかによって、電圧増幅器、電流増幅器などと呼ぶこともある。
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それぞれに対してA,B,C級など別の分類もできるので、分類名を重ねてA級低周波電力増幅器などという。
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増幅回路を扱う信号の大きさでの分類も場合により必要になる。主に小信号を入力対象にした増幅回路と大信号をそれにしたものである。微小信号の増幅については、主にSN比が問題になるため、増幅器自体の発生する雑音の少ない素子や回路を選択する。大振幅の信号を扱う増幅器は主に電力増幅器であり、発熱や消費電力を低減するために増幅器の効率が重視される。また、高調波歪、相互変調歪などの歪特性はいずれの場合も重要である。
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多段増幅器とレベル配分
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例えばラジオや通信型受信機は1μW以下の入力信号を数百mWオーダーまで増幅してスピーカに出力する必要があるが、増幅器1段で100万倍(60dB)もの利得を得ることはできない(送信機についても同様)。現実の増幅素子1個で得られる増幅率には限度があるからである。高周波で安定に動作するのは10数dB程度である。したがって、何段もの増幅器を直列に接続する必要がある。
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その際、単に同一の増幅器を直列に接続すると、受信機の場合は小信号がノイズに埋もれたり、大信号で歪が発生する不具合が発生する。このため、初段と後段で増幅器の設計を変える。一般的に、初段では小信号用の低雑音アンプが使われ、後段では大信号用の低歪アンプが使われる。送信機の場合は、消費電流が初段と後段で大きく異なるため、初段では小信号用のアンプが使われ、後段では大信号用のアンプが使われる。そして、送受信とも各増幅器における信号レベルが適正になるように、レベル配分と呼ばれる設計を行う。仮に雑音が発生しないような増幅素子があればそのような配慮は必要が無い。この辺の事情は現実の増幅素子の特性問題から起きる事で増幅理論だけでは考えにくい点である。理屈だけの設計でなく、現場との交流も密にして取り組むようでないと良い結果が得られない。
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レベル配分は、要求仕様、消費電力、増幅器の能力、安定度、価格を勘案して設計者が決める。理屈だけの設計者では限界がある。
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増幅回路の諸元
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増幅回路の諸元としては、まず増幅率が挙げられる。増幅度と呼ばれることもある。いずれも(出力)÷(入力)の値として定義される。増幅率には次のようなものがある。
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電力増幅率
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電圧増幅率
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電流増幅率
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増幅回路であれば電力増幅率は1より大きくなるが、電圧、電流については1より小さくなることがある。これは、入力インピーダンスと出力インピーダンスが異なるためである。また、増幅率は大きければよいと言うものではなく、必要な増幅率は設計により一意に決まるのが普通である。増幅率は真数で表記するほか、対数(デシベル[dB])で表記することも多い。この場合は利得と呼ばれる。デシベル表記であれば、増幅回路を何段も重ねて接続した場合のトータルの利得が各段の利得の総和として表せることから扱いに便利である(足し算なので設計者が頭の中で簡単に計算できる)。また、真数では桁数が多くなる場合でもデシベルだと殆どの場合二桁以下で表せる。例えばトータルの電力増幅率が100000倍の場合、ゼロの数を間違えないように数えなければならないが、デシベルだと50dBとなりわかりやすい。ただし、デシベルで平均を取ることは出来ないので、その場合は一旦真数に戻してから平均を取る必要がある。
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その他、増幅回路の諸元として、入力インピーダンス、出力インピーダンス、周波数特性(f特)、出力効率(電源から供給される電力に対する出力電力の比)、歪率、NF、P1dB、IP3がある。
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増幅回路に関する付加回路
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増幅の作用には直接寄与しないが、性能や動作の安定性の向上を目的として、増幅回路に付加して用いられる回路(付加回路)がいくつかある。
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デカップリング回路
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複数の増幅素子から構成される回路では、出力付近の電気信号が入力に帰還することで発振する可能性がある。帰還回路を設けていなくても、電源回路の内部抵抗(インピーダンス)が高いと、増幅回路の出力の変化に伴う消費電流の変化が電圧降下として現れ、別の増幅素子に影響を与えて発振することがある。
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これを防ぐための回路がデカップリング回路である。電源回路内に低抵抗を接続し、その前後を大容量のコンデンサを通して接地する。これにより、消費電流の変化に伴う電圧降下が別の増幅素子に伝わることが少なくなる。
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また、ICの多くは、その電源端子(足)のプラス・マイナス間(プラス・共通GND間ではないことに注意)に最短距離でコンデンサを接続し、動作の安定を図る。これもデカップリング回路の一種である。このためのコンデンサには、周波数特性の良いセラミックコンデンサが主に用いられる。
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AGC回路
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AGC回路(Automatic Gain Control)とは、入力の電気信号の振幅が変動する場合においても一定の出力が得られるよう、自動的に増幅回路の増幅率(利得)を調整する回路である。主な例は、受信機の中間周波増幅回路に用いられるものである。
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入力電圧の増加に対して瞬間的に利得を下げる機能が働くと、出力波形はそのピークが抑えられた波形となり、歪が生ずる。これもAGC回路の一種であるが、実用上の回路では、入力信号の値に対して長時間の平均値を取り、それに合わせた時間遅れ(大きな時定数)を与えて利得を調整することが多い。
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適切に調整すると、ダイナミックレンジが圧縮されて狭くなるので音量が大きく、音質が太くなったように感じる。これを利用して主としてカーラジオでラジオ放送を聞きやすくするため、電車の車内放送で周囲の騒音レベルに合わせて音量を調節するため、会議や会話を録音用するための携帯用テープ・レコーダーやICレコーダー、ラジカセの録音時の利得を調整するため等に用いられる。音楽分野では楽器演奏において音量レベルを揃えたり楽曲全体の音色作りなどに利用されている。これらの機能をまとめたものをコンプレッサー(リミッター)と呼ぶ。利点の一方で、広がり感や奥行きに欠けることがあるので適さない音源もある。音源というより、使用目的でコンプレッサー(リミッター)の活用をするというのが上手な録音では適切な運用であり、適さない音源というものがあるわけではなく目的により使い分けるようにする。 他に、テレビ画面の明るさを周囲の明るさに合わせて変化させるなどの用途に用いられている。
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増幅器と増幅器との結合方式の種類
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多段(複数の増幅器から成る増幅器を設計する際等に着目した増幅器に対して段ということがある)に渡り、増幅器を連結した一つの増幅器を設計する際に段間結合の方式として幾つかがある。コンデンサー結合、トランス結合等があるがそれぞれに特徴がある。コンデンサー結合ではその容量の設定値により、周波数範囲が決まってくる。トランス結合では理論上は周波数範囲は狭められることはないが、諸事情で狭められる。直結では電位を揃えることも必要になる。これらのことは上記「多段増幅器とレベル配分」とは別の課題として個々の増幅器の目的に応じた最適な設計が検討される。
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関連項目
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電子工学、電子回路
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真空管、トランジスタ、電界効果トランジスタ
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発振回路、演算回路、電源回路
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電圧、電流、電力
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変圧器
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エネルギー保存則
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歪み
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デジタルアンプ
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半導体
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分類 P型半導体 | N型半導体 | 真性半導体 | 不純物半導体
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種類 窒化物半導体 | 酸化物半導体 | アモルファス半導体 | 電界型半導体[要出典] | 磁性半導体
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半導体素子 集積回路 | マイクロプロセッサ | 半導体メモリ | TTL論理素子
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バンド理論 バンド構造 | バンド計算 | 第一原理バンド計算 | 伝導帯 | 価電子帯 | 禁制帯 | フェルミ準位 | 不純物準位 | 電子 | 正孔 | ドナー | アクセプタ | 物性物理学
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トランジスタ サイリスタ | バイポーラトランジスタ(PNP、NPN) | 電界効果トランジスタ | MOSFET | パワーMOSFET | 薄膜トランジスタ | CMOS | 増幅回路
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関連 ダイオード | 太陽電池
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その他 PN接合 | 空乏層 | ショットキー接合 | MOS接合 | 電子工学 | 電子回路 | 半導体工学 | 金属 | 絶縁体
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カテゴリ: 出典を必要とする記事 | アナログ回路
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2008年2月10日 (日) 01:45時点における版

電子工学に於ける増幅回路(ぞうふくかいろ)とは、入力された信号に応じて、より大きな出力エネルギーを得る回路である。信号のエネルギーを増幅する目的のほか、発振回路、演算回路などを構成する要素としても重要である。動作エネルギーは電源など他から供給する。

目的により「電圧増幅」「電流増幅」と呼ぶ回路もある。変成器(=信号用変圧器)で巻数比倍に昇圧は可能だが、信号エネルギーは増えないが着目特性により広い意味で増幅ということもある。

目次 [非表示] 1 概要 2 バイアスの方式による分類 2.1 A級増幅回路 2.2 B級増幅回路 2.2.1 AB級増幅回路 2.3 C級増幅回路 2.4 D級増幅回路 3 回路の接続方式による分類 3.1 接地方式 3.2 プッシュプル増幅回路 3.3 差動増幅回路 4 負帰還・正帰還 5 用途による分類 6 多段増幅器とレベル配分 7 増幅回路の諸元 8 増幅回路に関する付加回路 8.1 デカップリング回路 8.2 AGC回路 9 増幅器と増幅器との結合方式の種類 10 関連項目


概要 バイポーラトランジスタではベース電流とコレクタ電流、真空管ではグリッド電圧とプレート電流、電界効果トランジスタではゲート電圧とドレイン電流がそれぞれ比例する性質を持つ。電源から負荷抵抗を通してコレクタ(プレート、ドレインも同じ。以下略)に電圧を供給することにより、コレクタ電流(ベース電流×電流増幅率)の変化に対応したコレクタ電圧の変化が得られる。これを出力することで、入力信号が大きな電力の出力に変換されたことになる。

特に大きな出力電力が必要な場合は、電圧増幅(電圧増幅度は高く、電流増幅度はそれほど高くない)を何段か重ねた後、最終段に出力インピーダンスの低い増幅段(電圧増幅度は低く、電流増幅度が高い)を設けて出力を取り出すことが多い。インピーダンス整合の関係上、このような構成が有利である。


バイアスの方式による分類 真空管やトランジスタなどの増幅素子は、入力信号がある一定の直流値(電圧or電流)範囲にあるときにのみ意図した増幅特性をもち、それ以外の範囲ではそもそも増幅作用が得られない。そこで、入力信号に対して一定の直流値(電圧、電流)(これをバイアス値という)を加えて素子の適切な動作範囲に収まるようにする必要がある。こうして入力信号も出力信号も一旦は直流値にして動作させ変化分を取り出すようにしている。 通常はバイアス電圧、バイアス電流は省略し、信号分(変化分、交流分ということもある)だけの回路図で動作説明されるが、そのような回路図であってもバイアス電圧、バイアス電流が印加されていると考えるのである。 実際とは異なるそのような回路図であっても慣習的にそう表現する場合は少なくないので、初心者は回路図面に慣れる必要はある。 アナログ増幅回路はバイアスの方式によりA級、B級、C級に分類され、更に動作方式の異なるPWMスイッチング方式をD級と呼ぶ。


A級増幅回路 A級増幅回路とは、増幅素子の入力と出力の関係が直線的(比例関係)になるよう、入力信号の全瞬時値にわたり出力が直線的に対応するバイアス電圧・電流を与え、入力と相似の出力が得られる方式である。最も歪みの少ない出力が得られるが、電流が常時流れているので、消費電力が大きく、電力増幅回路を構成した場合、供給電力に対する効率は最大50%以下である。


B級増幅回路 B級増幅回路とは、交流の入力信号のうち片側の極性のみが増幅されるようにバイアスを与えたものである。バイポーラトランジスタを増幅に用いる場合、ベース-エミッタ間のオン電圧をバイアスとして与える(シリコンで0.55V~0.7V、温度で異なり製造ロットでも微妙に異なる)。入力電圧が負の場合には、トランジスタに入力される電圧はオン電圧より低くなるため、コレクタ電流はゼロとなり、出力されない。入力電圧が正の場合にのみ、入力電圧の振幅に比例した出力電圧が得られる。

音声信号増幅の場合には、2個の増幅素子を正負対称に接続した回路(プッシュプル回路)により、入力信号と同じ波形が出力されるようにする。SSB送信機出力段(リニアアンプ)では半周期増幅のままLC共振回路で目的出力を選択している。


B級PP増幅と歪出力の効率が最大78%とA級増幅回路に比べ高効率で、小信号時の電流が大変少ない(定損失が少ない)ため、(特に小信号をも扱うオーディオアンプなどの)大電力増幅回路に用いられる。

B級がA級より音質が劣る部分は、 小入力時のプッシュプル動作切り替わり部分で大きな歪み率になることと、バイポーラトランジスタの場合には休止サイクル突入時に少数キャリア消滅ノイズを発して、後者は広範な周波数成分を含んで外部からの抑制・制御は不能だから発生したら取り去れず、小出力時の音質を著しく悪化させてカサついた音質になる。大出力拡声器を小出力で使ってそれに気付くことが多い。それらの歪みは大出力時はマスクされて判らなくなるから、B級増幅器の出力-歪み率特性は(聴感に合う対数尺で見て)小信号で歪み率が大きく、最大出力近くに最小点が出来て、それ以上は増幅素子の飽和で急激に歪みが増える。

なお出力-歪み特性図に見られる様に、小信号領域にも問題点はある。小信号領域では若干の歪率の違いよりむしろS/Nが音質に効く場合がある。少数キャリア消滅雑音は無信号時には発生しないので歪み率で計測するが、実態は入力波形に拠らず、ノイズNに近いものであり前述バイポーラトランジスタB級アンプの小信号領域の音質を特に悪化させるものである。また初期のトランジスタオーディオアンプにみられたランダムなパリパリノイズで永らく「半導体アンプの音は堅い!」という伝説を生んだ。つまり条件次第の適材適所の適切な使用が求められる。


AB級増幅回路 B級プッシュプル回路の小信号領域での歪み特性を改善するため、A級とB級の中間的なバイアスを加えて小信号時にはA級動作とするAB級増幅回路があり、B級時の歪みをマスクする出力レベルで切り換わるから、音質を問題にする用途では実質AB級が主流であるし、B級といっても調整実務として若干の無信号電流を流しているので、原理的な違いではなく、B級増幅回路に意図して大きめの小信号電流を流す設計(=AB級)なのかどうかという相違に帰着する。

逆極性励振時にバイポーラトランジスタを遮断させず、少数キャリア消滅ノイズ発生を抑えた回路構成も一部メーカーで採用されている。


C級増幅回路 C級増幅回路とは、増幅素子に遮断値より深いバイアスを与えて、入力信号の電圧が十分に高い場合にのみ出力電圧が得られるスイッチング動作に似通ったものである。入力信号と出力信号の波形は全く違ったものになり、出力信号には高調波の成分が多く含まれる。

C級増幅回路は、大電力の狭帯域高周波増幅回路によく用いられる。出力にフィルタ回路を設け、増幅回路によって発生する不要な周波数成分を取り除くことにより、効率の良い増幅が可能となるためである。

応用例として、周波数逓倍器がある。これは入力の周波数の整数倍の出力が得られるよう、出力のフィルタ回路を設けたものである。


D級増幅回路 D級増幅回路はパルス幅変調:PWM変調方式を電力増幅に適用しスイッチング回路で電力増幅を行うことで高効率増幅(90%余)を実現するので増幅素子の動作点(バイアス)は関係ない。

前出A級、B級、C級増幅器が増幅素子の直線動作範囲に対する動作中心位置(バイアス電圧、電流)の相違なのに対し、D級はPWMスイッチング動作の平均値が瞬時出力だから増幅の動作原理そのものが質的に異なる。 電源をオン・オフするスイッチと同じことで、リレー回路(電磁開閉器)のような働きである。出力に低域濾波器(LPF)を介してオン・オフの影響を断つが、負荷自体が脈動を吸収する場合にはLPFの省略もある。最大利用周波数の2倍以上の周波数でPWM変換することで入力原波形を復元、電力増幅器としている。

 現在「1ビットアンプ」と称して家電の音声出力回路に採用されているし、変わったところでは山陽新幹線の自動列車制御装置ATC-1W型でレール(軌道回路)に流す信号電流の出力増幅器(PWM型スイッチングアンプ)として早くから採用されているし、車両の動力として三相電動機を採用しその瞬時回転数に適した周波数と電圧の三相交流を供給するVVVF方式の低速部(非同期モード)はこのD級増幅器(=2レベルインバータ式)あるいはそのバリエーション(=3レベルインバータ)と言って良い。



回路の接続方式による分類

接地方式 真空管、トランジスタ、FETを増幅回路に用いる場合、3本の電極を入力、出力、共通線(接地)にどのように振り分けるかによって、増幅回路の特性が大きく異なる。トランジスタでは、接地する電極を基準としてエミッタ接地回路(Common emitter)、コレクタ接地回路(Common collector)、ベース接地回路(Common base)の3種類がある(真空管はエミッタ・コレクタ・ベースをそれぞれカソード・プレート・グリッド、FETはソース・ドレイン・ゲートに読み替える)。それぞれの回路は次表のような特徴がある。

トランジスタ増幅回路の接地方式 接地方式 電圧増幅率 電流増幅率 周波数特性 入力インピーダンス 出力インピーダンス エミッタ接地 中 中 悪 中 中 コレクタ接地 低(1未満) 高 中 高 低 ベース接地 高 低(1未満) 良 低 高

エミッタ接地・電流帰還バイアス回路



コレクタ接地・電流帰還バイアス回路



ベース接地・電流帰還バイアス回路




プッシュプル増幅回路 Push-pull output。2個のトランジスタを正負対称に接続して、それぞれ一方の極性の信号のみを増幅する回路がプッシュプル増幅回路である。バイアスはB級増幅回路が用いられることが多い。次のような種類がある。

DEPP(Double Ended Push Pull) - 中点タップを設けたトランスを用いて、同種のトランジスタ2個を中点タップに対して対称に接続する方法 SEPP(Single Ended Push Pull) - トランスを用いずに、コンプリメンタリ(NPN型とPNP型)のトランジスタ2個を正負対称に接続する方法 CSPP(Closs Shunt Push Pull) - トランスを用いずに、正負を逆にした2個の独立の電源を用いて、同種のトランジスタ2個の正負をそれぞれひっくり返した接続にする方法

差動増幅回路

差動増幅回路。詳細は差動増幅回路を参照

2個のトランジスタを左右対称に接続して2個の入力端子を設け、その差の電圧に応じた出力を得る回路が差動増幅回路である。出力段はプッシュプル回路にすることが多い。次章で述べる負帰還を自由に設定できるなど、回路の自由度が高いので、オペアンプがこの方式を採っている。


負帰還・正帰還 実際の増幅回路では、回路の特性を改善する為に負帰還(NFB, Negative FeedBack)を掛けて用いる事が多い。負帰還とは、出力信号の一部を入力に戻し、入力信号と逆位相で合成する事によって、出力の振幅を抑えて増幅回路の特性を安定させる事である。負帰還によって回路の増幅度は低下するが、広い周波数帯域にわたって均一な増幅度が得られる。増幅回路の増幅率が十分大きく、負帰還の帰還率が十分に大きければ、負帰還有りの増幅率は帰還率によって決まる。出力信号の全てを入力に負帰還させると、増幅率は1となる。

いま仮に、アンプ単体の増幅度が周波数により1000倍~100倍で、負帰還率を1/10とすると、全体の増幅度は10(=1/10-1)で一定となり、歪みは1/100~1/10(負帰還量)に抑えられるということだが、単体増幅度が帰還増幅度(この場合10)に近づく領域では歪み抑制効果がなくなり、位相回転で発振する条件もできる。

出力信号の一部を入力に戻し、入力信号と同位相で合成するものを正帰還(PFB, Positive FeedBack)と呼ぶ。出力信号が帰還されて入力信号を増大させ、それが増幅されて帰還され……を繰り返すので、正帰還はその量により発振を引き起こす(発振回路)。


用途による分類 増幅回路を扱う周波数で分類すると、次のように分類できる

高周波増幅器(RFアンプ) 低周波増幅器(AFアンプ) 選択増幅器(特定の帯域のみを選択して増幅するようにしたもの) 中間周波数増幅器(IFアンプ) また、直流と交流の両方を同時に入力できる増幅器(DCアンプ)もある。これにはバイアスの関係から、電界効果トランジスタ(FET)が増幅素子に用いられる。

電圧、電流、電力のどれを重点的に増幅するかによって、電圧増幅器、電流増幅器などと呼ぶこともある。

それぞれに対してA,B,C級など別の分類もできるので、分類名を重ねてA級低周波電力増幅器などという。

増幅回路を扱う信号の大きさでの分類も場合により必要になる。主に小信号を入力対象にした増幅回路と大信号をそれにしたものである。微小信号の増幅については、主にSN比が問題になるため、増幅器自体の発生する雑音の少ない素子や回路を選択する。大振幅の信号を扱う増幅器は主に電力増幅器であり、発熱や消費電力を低減するために増幅器の効率が重視される。また、高調波歪、相互変調歪などの歪特性はいずれの場合も重要である。


多段増幅器とレベル配分 例えばラジオや通信型受信機は1μW以下の入力信号を数百mWオーダーまで増幅してスピーカに出力する必要があるが、増幅器1段で100万倍(60dB)もの利得を得ることはできない(送信機についても同様)。現実の増幅素子1個で得られる増幅率には限度があるからである。高周波で安定に動作するのは10数dB程度である。したがって、何段もの増幅器を直列に接続する必要がある。

その際、単に同一の増幅器を直列に接続すると、受信機の場合は小信号がノイズに埋もれたり、大信号で歪が発生する不具合が発生する。このため、初段と後段で増幅器の設計を変える。一般的に、初段では小信号用の低雑音アンプが使われ、後段では大信号用の低歪アンプが使われる。送信機の場合は、消費電流が初段と後段で大きく異なるため、初段では小信号用のアンプが使われ、後段では大信号用のアンプが使われる。そして、送受信とも各増幅器における信号レベルが適正になるように、レベル配分と呼ばれる設計を行う。仮に雑音が発生しないような増幅素子があればそのような配慮は必要が無い。この辺の事情は現実の増幅素子の特性問題から起きる事で増幅理論だけでは考えにくい点である。理屈だけの設計でなく、現場との交流も密にして取り組むようでないと良い結果が得られない。

レベル配分は、要求仕様、消費電力、増幅器の能力、安定度、価格を勘案して設計者が決める。理屈だけの設計者では限界がある。


増幅回路の諸元 増幅回路の諸元としては、まず増幅率が挙げられる。増幅度と呼ばれることもある。いずれも(出力)÷(入力)の値として定義される。増幅率には次のようなものがある。

電力増幅率 電圧増幅率 電流増幅率 増幅回路であれば電力増幅率は1より大きくなるが、電圧、電流については1より小さくなることがある。これは、入力インピーダンスと出力インピーダンスが異なるためである。また、増幅率は大きければよいと言うものではなく、必要な増幅率は設計により一意に決まるのが普通である。増幅率は真数で表記するほか、対数(デシベル[dB])で表記することも多い。この場合は利得と呼ばれる。デシベル表記であれば、増幅回路を何段も重ねて接続した場合のトータルの利得が各段の利得の総和として表せることから扱いに便利である(足し算なので設計者が頭の中で簡単に計算できる)。また、真数では桁数が多くなる場合でもデシベルだと殆どの場合二桁以下で表せる。例えばトータルの電力増幅率が100000倍の場合、ゼロの数を間違えないように数えなければならないが、デシベルだと50dBとなりわかりやすい。ただし、デシベルで平均を取ることは出来ないので、その場合は一旦真数に戻してから平均を取る必要がある。

その他、増幅回路の諸元として、入力インピーダンス、出力インピーダンス、周波数特性(f特)、出力効率(電源から供給される電力に対する出力電力の比)、歪率、NF、P1dB、IP3がある。


増幅回路に関する付加回路 増幅の作用には直接寄与しないが、性能や動作の安定性の向上を目的として、増幅回路に付加して用いられる回路(付加回路)がいくつかある。


デカップリング回路 複数の増幅素子から構成される回路では、出力付近の電気信号が入力に帰還することで発振する可能性がある。帰還回路を設けていなくても、電源回路の内部抵抗(インピーダンス)が高いと、増幅回路の出力の変化に伴う消費電流の変化が電圧降下として現れ、別の増幅素子に影響を与えて発振することがある。

これを防ぐための回路がデカップリング回路である。電源回路内に低抵抗を接続し、その前後を大容量のコンデンサを通して接地する。これにより、消費電流の変化に伴う電圧降下が別の増幅素子に伝わることが少なくなる。

また、ICの多くは、その電源端子(足)のプラス・マイナス間(プラス・共通GND間ではないことに注意)に最短距離でコンデンサを接続し、動作の安定を図る。これもデカップリング回路の一種である。このためのコンデンサには、周波数特性の良いセラミックコンデンサが主に用いられる。


AGC回路 AGC回路(Automatic Gain Control)とは、入力の電気信号の振幅が変動する場合においても一定の出力が得られるよう、自動的に増幅回路の増幅率(利得)を調整する回路である。主な例は、受信機の中間周波増幅回路に用いられるものである。

入力電圧の増加に対して瞬間的に利得を下げる機能が働くと、出力波形はそのピークが抑えられた波形となり、歪が生ずる。これもAGC回路の一種であるが、実用上の回路では、入力信号の値に対して長時間の平均値を取り、それに合わせた時間遅れ(大きな時定数)を与えて利得を調整することが多い。

適切に調整すると、ダイナミックレンジが圧縮されて狭くなるので音量が大きく、音質が太くなったように感じる。これを利用して主としてカーラジオでラジオ放送を聞きやすくするため、電車の車内放送で周囲の騒音レベルに合わせて音量を調節するため、会議や会話を録音用するための携帯用テープ・レコーダーやICレコーダー、ラジカセの録音時の利得を調整するため等に用いられる。音楽分野では楽器演奏において音量レベルを揃えたり楽曲全体の音色作りなどに利用されている。これらの機能をまとめたものをコンプレッサー(リミッター)と呼ぶ。利点の一方で、広がり感や奥行きに欠けることがあるので適さない音源もある。音源というより、使用目的でコンプレッサー(リミッター)の活用をするというのが上手な録音では適切な運用であり、適さない音源というものがあるわけではなく目的により使い分けるようにする。 他に、テレビ画面の明るさを周囲の明るさに合わせて変化させるなどの用途に用いられている。


増幅器と増幅器との結合方式の種類 多段(複数の増幅器から成る増幅器を設計する際等に着目した増幅器に対して段ということがある)に渡り、増幅器を連結した一つの増幅器を設計する際に段間結合の方式として幾つかがある。コンデンサー結合、トランス結合等があるがそれぞれに特徴がある。コンデンサー結合ではその容量の設定値により、周波数範囲が決まってくる。トランス結合では理論上は周波数範囲は狭められることはないが、諸事情で狭められる。直結では電位を揃えることも必要になる。これらのことは上記「多段増幅器とレベル配分」とは別の課題として個々の増幅器の目的に応じた最適な設計が検討される。


関連項目 電子工学、電子回路 真空管、トランジスタ、電界効果トランジスタ 発振回路、演算回路、電源回路 電圧、電流、電力 変圧器 エネルギー保存則 歪み デジタルアンプ 半導体 分類 P型半導体 | N型半導体 | 真性半導体 | 不純物半導体 種類 窒化物半導体 | 酸化物半導体 | アモルファス半導体 | 電界型半導体[要出典] | 磁性半導体 半導体素子 集積回路 | マイクロプロセッサ | 半導体メモリ | TTL論理素子 バンド理論 バンド構造 | バンド計算 | 第一原理バンド計算 | 伝導帯 | 価電子帯 | 禁制帯 | フェルミ準位 | 不純物準位 | 電子 | 正孔 | ドナー | アクセプタ | 物性物理学 トランジスタ サイリスタ | バイポーラトランジスタ(PNP、NPN) | 電界効果トランジスタ | MOSFET | パワーMOSFET | 薄膜トランジスタ | CMOS | 増幅回路 関連 ダイオード | 太陽電池 その他 PN接合 | 空乏層 | ショットキー接合 | MOS接合 | 電子工学 | 電子回路 | 半導体工学 | 金属 | 絶縁体


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